先代勇者の天敵?
遺跡や歴史好きが多いエルフの中でも、特にマニアなフィオナに遺跡の魅力をくどくどと言われどう切り抜けようかと考えていた時だった。
「ふふん。待たせたねぇ、黒毛」
「「待たせたな黒毛!」」
大荷物を背負ったのっぽとチビの男を引き連れて、女海賊アンジェリカが現れた。
アンジェリカは昨日の格好に加え、腰のベルトに大振りのカトラスと拳銃(はこの世界には無い筈だから魔銃か?)を引っ掛け、ドクロがかかれた黒の眼帯で右目を隠している。
なんともまぁ、気合いの入ってることで。
「えーっと……ヤシロさんのお知りあいですか?」
見るからに残念な美人と後ろの男二人を見てベルナデットが否定して欲しそうに聞いてくる。
「残念ながら知り合いだ」
ああ、ベルナデットはやっぱり否定して欲しかったらしい。
頭を抑えてため息をついた。
「馬鹿言っちゃいけないよ黒毛。アンタはアタシら『黒バラ空賊団』の副船長になるんだ。知り合いじゃなくて、な・か・ま、だろ?」
俺の紹介が気に食わなかったのか、俺の肩をポンポンと叩いてニヤリと笑うアンジェリカ。
「仲間になるなんて言ってねぇだろうが」
勝手に賊の仲間扱いされるとか勘弁してくれ。
「……アニキ。こいつら素人臭いけど何もん?」
クオンがアンジェリカ達に品定めするような視線を向けながら聞いてくる。
クオンの言う素人ってのは『戦闘の素人』って事だろう。
特訓を始めてから他人の身体の肉付きに意識を向けられるようになったからか、アンジェリカ達の身体が戦闘向きの身体付きをしてない事にクオンは気づいた。
「昔の知り合いでな。敵対したり利用したり……まぁろくな知り合いじゃないな」
クオンは俺の答えに納得したのか、「そっか」と呟いて手元の水をチビチビと飲む。
「……勇、アンタはまた面倒事を背負って来たってわけ?」
「言うなフィオナ」
俺も今めちゃめちゃ面倒に思えて来たところだ。
「さぁ黒毛、魔石探索に行くよ! 目指すは拳大の巨大魔石さ!」
「あー、その事に関してなんだが……この三人も連れて行くが良いよな?」
空いてる椅子に片足乗せて、カトラスを抜いたアンジェリカは出航を告げる船長のように意気揚々と目標を語る。
そんなアンジェリカにベルナデットとクオン。そしてフィオナを指さして聞くと、アンジェリカは満面の笑みを更に輝かせた。
「構わないよ、仲間の頼みだからねぇ。……安心しな、これでアンタ達三人も『黒バラ空賊団』さ!」
「勧誘したわけじゃあねぇよ!」
「なんだい違うのか。ま、足を引っ張らないなら考えてやんなくもないよ」
「戦力的にお前ら三バカの方が役立たずだよこんちくしょう!」
おのれっ、まさか俺が突っ込み一辺倒になるとは。
でも仕方ないんだ。
アンジェリカ達と早々に距離を置こうとしてるベルナデットら三人に、突っ込みを任せられる人材がいないんだ。
ベルナデットはなんと言うか最近大人しくなってしまったし、クオンはタイプ的にはボケ側。
フィオナに関しては突っ込みとボケ両方の素養無し。特に突っ込みはやらせちゃダメだ。人間不信になるまでキツい口調でくどくどと説教が続く。
そこら辺、シルヴィアが突っ込みとしては適任だったなー。多少鉄拳制裁もあるけど。
くそっ、俺は異世界に来て突っ込みとボケに関して真面目に考えているんだ。
「……もう良い。さっさと迷宮に潜るぞ」
テンション最高潮の三バカに比べ、俺のなんとテンションの低い事か。
俺達は勘定をテーブルに置き、席を立った。
◇
「そう言えば勇、アンタのギルドカードの色は?」
「は? なんだよまたやぶからぼうに……」
ノルドヨルドギルドの管理する迷宮の入り口にたどり着いた俺達だったが、フィオナが思い出したように突然聞いてきた。
「迷宮に関係無い話じゃないのよ。で、何色なの? 早く答えなさいよ」
腰に手を当て俺を睨むフィオナ。顔の補正もあるだろうが、今度は本当に睨んで来た。
「表向きはCの『紫』だ」
「で?」
「……一応、SSSの『黒』も持ってる」
「でしょうね」
ベルナデット達に聞こえないよう小声で言うと、さも当然とでも言うようにやれやれとフィオナはため息をついた。
「なんなんだよ、突然聞いて来たと思ったら勝手にため息つきやがって」
「ノルン様の甘やかし加減に呆れていたのよ。アンタは多少辛い方が丁度良いくらいなのにね」
「……いい加減説明しろ」
人を置いてけぼりにして喋り出す。フィオナの悪い癖だ。
「私はこれでも高名な学者なのよ。で、その高名な学者を失うのは世界の損失だと感じたギルドは私に護衛と言う名の足枷をつけて研究をさせようとしてくれないの。全く嫌な話よね」
「で?」
「急かすのやめてくれる? 話さないわよ?」
こんにゃろ、俺には急かすくけに……。
「それで登場するのがアンタよ、勇。あいつらギルドは私の研究に必ずちゃちゃを入れてくる。けど、他の地域とは言えギルドマスターお抱えの『SSSランク』が直接警護に作って言うなら文句は無い筈よ。と言うか言わせないわ」
やけに自身たっぷりに言い切るフィオナ。
だがこいつの事だ。呪いとかで脅すに決まってる。
「と言うわけで、なんか言われたら素早くギルドカードを見せて黙らせなさい?」
「あんまり見せたくないんだがなー」
ギルドランク最高位の俺SUGEEEE! ってしたいわけじゃないし。
むしろ俺は平穏な旅をしたいわけですよ。
隠居したいんですよ。タイトル通りに。
「どうせ口では嫌々言ってても厄介事に首突っ込むのがオチなんだからいい加減諦めなさい」
フィオナにピシャリと言われた。くそう、正論過ぎて反論できねぇ。
「……私はね、アンタのそう言う所が嫌いなのよ、勇」
「む……」
曲がってた背を伸ばし、フィオナが鋭い視線を俺に向ける。突然の真面目な会話に、返す言葉が思い浮かばない。
……正直な話、三年前の仲間ではあるが、俺はフィオナが苦手で、フィオナもまた俺に対していい感情を持ってはいなかった。
「大きな力を持つ癖に『嫌だ』と言ってその責任から逃げる。その力は、『世界』の為にあると言うのに……」
ふっ、と周囲の音が消えた。無音の魔法だ。
「フィオナ、お前が言いたいことも解る。けど俺は……」
「いいえ、アンタは何も理解してないわ勇。その証拠に、アンタは今こんな場所にいる。こんな場所で、油を売っている」
フィオナの視線には、敵意すら感じる。責任を果たさない俺を、憎んでいるんだ。
長らくお待たせしました。最新話です。
……この章が始る時、全編ギャグと言ったな? ……あれは、嘘だ。
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