前に押井さんの考えているパトレイバーデザインの記事を書きましたが、今回は最初からパトレイバーに関わっているゆうきさんと、デザインをした出渕さんの考えていたパトレイバーのデザインについて整理してみたいと思います。
ダサカッコイイ人型ロボット
まず、パトレイバーの前身となるものから温めていたゆうきさんは、パトレイバーのデザインをどう考えていたのでしょうか。
夜陰に乗じて金融機関を襲った一味は、レイバーを乗り捨てて車で逃げだそうとするが、その目の前に立ちふさがる巨人の影に思わずブレーキを踏んでしまう、というのが左側の絵の大まかなシチュエーションですな。
これは最近描いた絵なので“一応イングラム”になってますけど、メカデザインが決まる前~パトレイバーの発想をした頃~から頭の中にあったイメージは こーゆーものでした。そのため、主役メカにはどうしても“あからさまな人形(ひとがた)シルエット”が欲しかったわけで、そのあたり分かって下さいよ押井 さん。
というわけで、初期OVAの制作開始前に押井さんが持ち出してきた、“風呂釜のような作業機械に手足”という案に、強硬に反対した記憶があるゆうきです。
ってゆーか、実写版パイロットフィルムを観ると、イングラムえらくカッコよくて(元祖イングラムの“ダサカッコよさ”がなくなっちゃって、洗練されすぎているようにも思いますが)、あれなら僕も文句ないんですけど、押井さんあーゆーの考えてましたか?
パトレイバーのデザインとして、人型のシルエットを持ったものである理由がゆうきさんによって語られています。上で引用した文章を書いた時には、アニメやコミックで使われたイングラムのデザインには、ダサカッコよさがあったと認識していたのが伺い知れます。触れられている実写版パイロットフィルムというのは、1998年に作られた映像のことですね。この時のレイバーデザインは竹内敦志さんによるものです。
Patlabor Live Action Trailer - YouTube
ー2色は当時から決定ですか?
ゆうき これは僕が考え出したときから、とにかくロボットは白黒にしようと。胸に桜の代紋。どこかに警視庁の文字。これだけ入っていればいいからって。
別冊宝島 機動警察パトレイバー クロニクル
人型のシルエットとともに、パトレイバーの白黒カラーリング、胸の旭日章、警視庁の文字も着想時からあったアイデアであり、これらの意匠は最後まで残ることになります。
その他にも、レイバーの大きさは5、6メートルくらいにしたかったそうですが、人型のデザインではそのサイズにするとどうしても体の一部が露出してしまうなどの理由から、8メートルサイズに落ち着いたという話も。
かっこいいと思わなかった
ゆうきさんのコンセプトを元にパトレイバーがデザインされたわけですが、最終的にデザインをまとめた出渕さんは、こんなふうに語っています。
ー実際に企画が動き出すと、今度はメカニックデザインというかたちで作業をされました。メカのコンセプトという点では、どのあたりに重点を置かれたのでしょうか。
出渕 まず警察のロボットに見えるところですね。「リアル」というよりも、どこかにロボットアニメ的な、今までの流れを残したうえで、警察っぽく。桜の代紋を付けて、文字を入れて、白黒のカラーリングにして、パトライトをつけて、と。これはゆうきさんの企画の時からあった元々のコンセプトです。
ーロボットアニメのかっこいい主役メカの印象もありつつ、警察ものということでパトカーの装備をひととおり備えるデザインということですね。
出渕 うーん、かっこいいんですかね。自分で見て、かっこいいとは思わなかったんですよね。どちらかというと笑えるかな、というほうを狙ったので。たしかにシルエット的にはかっこいいかもしれませんが、そういうロボットが、白黒の2色で桜の代紋で、パトライトをつけているおかしさを狙った、というのが本当のところですね。
ーパトレイバーとほかのレイバーのデザインでは、違いをつけたりという意図はあったんですか。
出渕 それはありますね。単純に言えば、パトレイバーは「アニメのロボット」で、逆に作業用レイバーは現実の重機の延長線上な印象ですね。といっても、全く相反してしまうとまずいので、作業用では重機的な部分を強調しつつも、マンガチックなロボットであるといったバランスを考えていきました。
別冊宝島 機動警察パトレイバー クロニクル
また、こんな風にも語っています。
カッコイイって、カッコイイのかなー?
当時なんですけど、桜の代紋を胸につけて、旭日章をつけて、この白黒の色分けで警視庁ってつけてるのだけでも、それだけで十分笑えるんじゃない?と思ったんですよ。パトライトがついてるなんてね。
知らないうちに、なんかそれがカッコイイってことになっちゃいましたよね。
出渕さんとしても、マンガチックなヒーローロボットがパトカーのごとく白黒のカラーリングで桜の代紋を掲げ、ボディに警察本部名を記し、パトライトを点けているというおかしさが、笑いのタネになると思いながらデザインしていたようですが、世間ではいつの間にかカッコイイということになっているのを不思議に思っている様子です。
お二方はこのように語っておられますが、今回の実写版イングラムについてはどのような印象を持たれたのでしょうかね。