グロースハックとパワーユーザーの憂鬱

Spotifyが先日リニューアルしたのだが、公式フォーラムには使いづらくなったと不評の書き込みが集まっている。いわく、トラックを簡単にお気に入りできなくなった、フォントが大きくなって一覧性が落ちた、などなど。

リニューアルやバージョンアップに合わせて、機能が削られ、情報量の少ないデザインになり、その結果パワーユーザーから批判が集まるという事例が、Spotifyに限らずこのところ増えている。また、単純に見える機能が、長く切望されているのになかなか搭載されないということも増えているように思う。

なぜか。今日の開発者は、ユーザがウェブサービスやアプリをどのように利用しているか、把握することが容易になった。グロースハックなどと持て囃されているが、ユーザを増やし、増えたユーザがどの機能を必要としているか、定量的に見ることは今日当たり前になってきている。

すると開発者は気付く。多くのユーザは、あれこれの機能をほとんど利用していないと。大半のユーザは最小の機能を最低限に利用するだけで、設定を自分好みに書き換えたり、複数の機能を組み合わせて使い勝手を追及したりしないと。

自然と開発者は新しい機能を加えることに否定的になる。むしろ複雑な機能を減らし、設定を削ぎ落して、新しいユーザに分かりやすくすることが、ユーザーグロースに繋がるようになる。

ネット以前のソフトウェア開発では、これとはちょうど反対のことが起きていた。かつて、開発者に届くフィードバックは、パワーユーザーの声ばかりであった。より便利にするため、この機能を増やして欲しい、この設定を加えて欲しい、という声だ。

そうしてソフトウェアは複雑になり、新しいユーザを遠ざけた。

今日、アプリやサービスの行く先を決めるのは、声を持たぬ平均的ユーザのサイレントマジョリティである。平均的ユーザは気の効いたショートカットなど望まない。平均的ユーザは画面が情報だらけになることを嫌う。そしてアプリはサービスはそのように最適化される。パワーユーザの敗北である。

しかしパワーユーザは声を上げる。パワーユーザは(私の嫌いな言葉だが)インフルエンサーでもある。平均的ユーザに最適化し、パワーユーザの声を無視することは良いことなのだろうか。

両者のバランスをとれば良い、という結論を言うのは簡単だが、その塩梅を見つけるのは簡単ではないだろう。平均的ユーザがパワーユーザにならないのであれば、パワーユーザを平均的ユーザの枠にどう押し込むかが重要になるのかもしれない。

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