東京都小笠原村の沖ノ鳥島で2014年3月30日に起った桟橋工事の事故にからんで、この工事が「極秘計画」として進められていた、国家プロジェクトだったことが分かった。
桟橋工事は2013年8月にはじまり、14年9月末に終わるはずだったが、現在は事故によって中断。計画が明るみになったことで、中国などの反発が強まり、中止に追い込まれる可能性も出てきた。
沖ノ鳥島の工事は港湾係留施設の建設を目的としたもので、事故は中央桟橋を台船から引き出す作業中に中央桟橋が転倒、裏返しとなった。中央桟橋に乗っていた人数は16名。このうち死者5人、行方不明者2人(現在1人を捜索中)、生存者は9人だった。
国土交通省関東地方整備局は、第三者による事故調査委員会を設置して原因を調べているが、桟橋が小さくて重心が高くなったことが転覆につながった可能性があるとみている。
港湾施設は縦に並んだ3つの桟橋の中央横に、荷さばき施設がつながる構造で、桟橋や荷さばき施設の四隅にそれぞれ4本の鋼製の脚を立てた状態で海底に沈め、脚を地盤に打ち込んで固定。その後、桟橋などを海面に引き上げる工法で進めていた。
すでに13年に1基(長さ30メートル、幅40メートル、重さ966トンの荷さばき施設)を完成しており、「島の西側にあたる場所に建設。1基目に接続して、岸壁をつくる計画です」(関東地方整備局)と話している。
ところが、そんな港湾整備計画が事故の発覚で、「極秘」で進められている国家プロジェクトだったことが発覚してしまった。国交省は、「特秘性があり、情報保全の確保の観点から伏せていました」と、認めている。
この桟橋工事は13年8月からはじまり、14年9月には終了する予定だった。完成すれば、数千トンクラスの海洋調査船の着岸が可能になるはずだったが、現在、作業再開のメドは立っていない。
国交省は「残り1人になった行方不明者の捜索に全力をあげているところです。捜索が終了して、事故調査委員会の結論を待ってから、(工事の)継続については判断していきたい」と話しているが、工事は海が荒れる秋から冬にかけては中断を余儀なくされるので、再開されてもスケジュールは大きく遅れそうだ。
沖ノ鳥島は、太平洋上に浮かぶ日本最南端の島(サンゴ礁)。満潮時には東小島、北小島と呼ばれる2つの小島を除いて海面下に水没するが、干潮時には環礁の大部分が海面上に姿を現す。
日本は「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)発効に併せて制定した「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」に基づき、沖ノ鳥島を中心とする排他的経済水域(EEZ)を設定しているが、2003年以降、中国や韓国が日本の主張に対して異議を申し立てている。
日本は、満潮時でも水面上に出ている部分がわずかにある沖ノ鳥島を「島」であると主張。一方、中国や韓国は沖ノ鳥島が「島」にはあたらず、EZZは認められないというのだ。
政府は現在、大陸棚限界委員会に対して沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長を申請中で、条件を満たせば、自国沿岸から200海里という通常の範囲を超えてEZZを設定できる。日本としては、桟橋ができて海洋調査船が接岸できるようになることで「島」であるとの主張を「補強」して、EZZを拡大しようとしたわけだ。
日本にとっては、EZZだけの問題ではない。沖ノ鳥島近海はレアアースなどが見込める水域で、資源開発にとっても大切な「島」とされる。日経ビジネス(2014年4月14日号)では、東海大学の山田吉彦教授が、「日本の国益を左右する極めて重要な工事なのに、誰も知らないところで粛々と進めていた。その結果、監視の目が行き届かず、事故につながった面は否めない」と指摘している。
不慮の事故とはいえ、桟橋の建設計画が明るみになったことで、中国や韓国の反発が強まる可能性は否定できない。建設が中止にでもなれば、日本の国益を損ねる可能性もある。
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