(沢嶋)
これは最も古い日本の入れ歯である。
1530年代の物で「木床義歯」という木でできた入れ歯だ。
木床義歯の始まりは室町時代末期。
そして江戸時代になると一般的に普及していたという。
世界でも類を見ない…
それをかいま見るべく私は江戸時代へとタイムワープした
あ…ハァ…。
え〜アブソリュートポジションN365W884E697S213ポジション確認。
アブソリュートタイムB0184655年35時12分56秒西暦変換しますと1824年2月16日10時34分20秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー168554これから記録を開始します。
沢嶋雄一彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名も無き人々を記録していくタイムスクープハンターである。
鋭いまなざしで黙々と木を削る男がいる。
彼が作っているのは木の入れ歯である。
江戸時代には入れ歯作りを専業にする者たちが多く存在していた。
今回の取材対象は「入れ歯師」。
入れ歯がどのように作られていたのか密着取材をする
え〜この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
男の名前は清志朗。
もともとは仏像の彫り師であった。
入れ歯は仏像などを彫る仏師などが作り始めたと言われている。
高い彫刻技術が入れ歯に生かされたのだ。
清志朗は弟子の佐吉と2人で店を切り盛りしている
失礼します。
早速一人の客がやって来た
お〜!すみません。
あっどうぞ。
すみません。
これが江戸時代の入れ歯である。
歯の部分は主にろう石や象牙動物の骨などが使われていた。
歯の土台となる部分は全て木でできている。
材料は主にツゲの木。
それを個人個人に合った顎の形に手彫りで仕上げていくのだ。
かみ潰す力が一番加わる奥歯の部分は強度を増すため金属の鋲が打ち込まれている。
かなり精巧な作りだ
どうもありがとうございます。
はい。
本部こちら沢嶋応答願います。
(古橋ミナミ)はい古橋です。
今ですね江戸時代の日本の入れ歯を取材しているんですが世界の入れ歯はどのようなものがあったのかちょっと知りたいんですけど。
了解しました。
お待ち下さい。
まず義歯の歴史は古くヨーロッパでは紀元前からあったようです。
人工の歯は牛の歯などを加工して作られていました。
それを隣の健康な歯に金属でつないで固定していたようです。
ブリッジのようなものですね。
そうですね。
時代がずっと下って1746年になると総入れ歯の記録が文献に出てきます。
金属の枠に象牙や動物の骨を加工した人工の歯を並べ上下をばねでつなげたものです。
そのばねの力で口の中に固定していました。
そのため実際にものをかみ砕くのは難しく食事には適さなかったようです。
ヨーロッパの入れ歯は主に見た目の美しさを追求したもので日本のようなそしゃく機能も兼ね備えた上顎に吸着するタイプのものはまだまだ発明されていませんでした。
あ〜…日本の入れ歯は進んでたんですね。
そうですね。
ありがとうございました。
いえ。
入れ歯の最終仕上げ「紅合わせ」と言われる作業である
ではこちらをおはめ下さい。
口の中に紅を塗り入れ歯を装着する。
すると出っ張った部分に色がつく。
そこを削ってより顎にフィットするように微調整を繰り返す。
細部に至るまで完璧に仕上げる見事な職人技である
もう一度お願いします。
そのまま先ほどと同じように…。
ありがとうございやす。
いや…なあ清志朗さんよ。
う〜ん…。
いや…いやいや。
おい。
1両出しなさい。
失礼いたします。
では。
相場よりも割高な入れ歯。
価格はその品質に裏打ちされている。
清志朗の職人としてのプライドは揺るぎない。
だがその日の午後…
おう邪魔するぜ。
あ…。
ちょっとそこまで来たもんだからよ。
清志朗がこの世界に入るきっかけを作った人物…
この界隈の入れ歯師を束ねる親分だ。
入れ歯師は職能集団として組織されていてその下で商いを行うのが通例となっている。
清志朗もこの親分に認められ店を開く事を許された
どうなんだ?2両?しかし親分…その安さが売りの入れ歯じゃ…
入れ歯の価格設定を巡る議論が交わされている。
…とそんな時
ああああ…。
どうも。
現れたのは初老の女性登与
どうされましたか?入れ歯の具合でも悪くなりましたか?
この界隈では有名な料亭の女将で店の上客である
そうしやしたら…4…4日後?おい清志朗…
通常総入れ歯の製作に1週間はかかる。
4日間はかなり厳しいスケジュールだ。
だが難しい仕事ほど燃える性格らしい。
清志朗は早速製作の準備に入った
まずお湯で軟らかくした蜜ろうを使い口の中の型をとる。
入れ歯製作の大本となる重要な工程だ
そうしやしたら早速細工に入りやすので…。
やはり高い
ようございます。
何でございましょう。
あ…。
よろしくお願いいたします。
失礼いたします。
ありがとうございます。
翌日から本格的な登与の入れ歯製作が始まった。
まずは歯の土台となる木材を切り出し墨で当たりをつける。
同時に弟子の佐吉が昨日とった型に蜜ろうを当ててもう一つの型を作る。
客の顎の形を再現するためだ
清志朗さん。
おう。
それを見ながら木片を彫る
型に紅を塗り木に当てては色のついた箇所を削っていく。
仕上げには見慣れないものを使っていた
それは何ですか?トクサ…?ちょっと見せて下さい。
ザラザラしてますね。
やすりみたいなもんですね。
ありがとうございます。
その葉っぱは…?ムクの葉?はい。
作業は順調にはかどっていた。
その翌日…
清志朗さん準備できやした。
そうか。
どこかお出かけするんですか?
2人は江戸の町外れに向かう。
裏路地の小さなスペースに到着すると何やら準備を始めた。
佐吉が配っていたのは引き札チラシのようである。
何が行われようとしているのか?
いよっ!
居合抜きの大道芸である。
その姿はおぼつかないが…
(一同)おお!やるじゃねえか!おお…。
お見事!さて…
実は清志朗定期的に江戸の郊外を訪れてはこうして大道芸で客を集め虫歯予防に関する啓蒙活動を行っていたのだ
飯を食う事もかなわなくなりついには早死にしてしまう。
また虫歯を放っておくと歯の根が腐り果て…。
当時こま回しや居合抜きなどの大道芸を披露しながら歯磨き粉や歯薬を売る入れ歯師が多く存在していた。
だが清志朗は他の入れ歯師とはちょっと違う点がある
なんと歯磨き粉を無料で配布している
すみません。
はい。
ちょっと見せて頂いてもよろしいですか?ああいいですよ。
あ〜なるほど。
これが歯磨き粉。
ちょっと見せてもらっていいですか?これをここにつけるわけですね。
はい。
縦にですね。
縦に…。
あ。
結構…キュッキュッと削られてる感じがして汚れが取れそうですね。
ありがとうございます。
相当痛みましたでしょう。
更に清志朗は歯の無料診療も行っている。
本来虫歯の治療は「口中医」と呼ばれる専門の医師が行う。
入れ歯師とは区別されていたが口の中の治療を行う入れ歯師もいた。
清志朗もまたそんな一人だった
あっ!では次の方。
庶民の虫歯に対する認識は低かった
佐吉さんちょっとよろしいでしょうか。
ああ。
そうなんですか。
あの〜清志朗さんは…なるほど。
貧しい人々を無償で助けたいという清志朗の熱い思い。
入れ歯の値段を高くしているのはこうした背景があったのだ。
しかしこの事が思いがけない事態を招く事になる
ああ?ああ?お二人ともやめて下さいよ。
お前黙ってろよ!いいか?商いってもんはな商い物を渡してお代をもらうんだよ!いいえ!そういう問題ではありやせん。
おめえのやってる事は商いなんだ商い!虫歯で…何言ってんだそんな事は関係ねえだろうが!それとこれとは別の話だ。
まずそれが大事なんです。
感情的になる2人。
そしてついに…
(佐吉)親分ちょっと…。
出て行け!清志朗さん待って下さいよ!
(彦左衛門)さっさと出てけほら!
(佐吉)親分!清志朗さんちょっと待って下さい清志朗…!フン!清志朗さんいないんじゃ…。
いやでもそうは言っても…。
その夜飛び出していった清志朗の事が気になり私は彼の家を訪ねてみる事にした
あ…どうも。
清志朗さん…ええまあ…。
清志朗の意志は固い
結局登与の入れ歯の仕上げは弟子の佐吉に任される事になった。
既婚の女性用にはお歯黒の入れ歯を入れていた。
その材料は主に黒柿や黒檀の木などが用いられる。
削り出された人工の歯に横穴を開ける。
その穴に糸を通して土台の木床に固定する。
糸は三味線の糸などが使われていた。
奥歯の部分に金属の鋲を打ち完成だ
翌朝無事入れ歯は完成した
佐吉行くぞ。
へえ。
佐吉と彦左衛門は足早に納品のため登与の料亭へと向かう。
だがこのあととんでもない事態が起きる
ごめんくださいませ。
急がせちゃってすみません。
いやいやそんな事はねえですよ。
どうも楢橋でございます。
失礼いたします。
どうぞ。
こちらです。
はい。
あれ?これは…?は?どういう事?え一体…?見合い?
なんと登与は未亡人であった。
まさか高齢の登与がお見合いをするとは…
本当に申し訳ございません。
一体どうしてくれるんですか。
思い込みによる完全な手違いだった
おい!どうするつもりだ。
できるのか?じゃあどうするっていうんだ。
清志朗さん…。
そうは言ってもな…。
(泣き声)わ…分かった。
ちょっと待ってて下さい。
失礼します。
タイムリミットはあと3時間。
親分の彦左衛門が清志朗の家へとひた走る。
清志朗がまだ出発していない事を祈っていた
ああいた…。
どうしたんですか?親分。
お歯黒!ああそうなのか。
どこですか?急いでくれ!頼むぞ!お待たせしました。
ああ清志朗さん!大変申し訳ありやせん。
すぐやりますんで。
すぐに修整作業に取りかかる。
まずはろう石を削り白い歯を作る。
お歯黒の歯を外し白い歯に付け替えていく。
迫り来る時間の中繊細な作業が続く。
しかし…
あっ!どうしやした?
慌てたためか歯を固定する糸が切れてしまった
何だって?
(佐吉)どうしやす?何か…何かありませんかね?
最悪の展開。
…とその時だった
(三味線)
(佐吉)三味線の音だ。
よし!
(佐吉)清志朗さん…。
すぐ戻りやすんで。
清志朗はいちもくさんに表に飛び出した
(三味線)
路地裏を抜けその場所を探り当てた
(三味線)あっ…。
すみません。
だ…誰ですか?怪しい者じゃございません。
あの…その糸を少しばかり。
それですそうですそれを少し…。
三味線の糸ですか?そうですそうです。
それを少しだけ…。
お代はあとで返しますんで。
失礼しました。
だ…誰なの?清志朗さん!よかった…。
すぐやりやすんで。
おお頼むぞ。
何とか三味線の糸を手に入れ作業再開
間に合うのか?
清志朗さんお急ぎになって!
見合いの相手はすぐそばまで来ているようだ。
私はモスキートカメラを放ってその様子をモニタリングする事にした。
そしてついに完成
口を開けて下さい。
急ぎ登与の口に装着していく
(清志朗)ありがとうごぜえやす。
廊下から人影が…
(みつ)皆様それじゃあこれを…。
いらっしゃってますから!
間一髪間に合った
男性と楽しそうに語らう登与の姿
やがて料理が運ばれてきた。
無事に食べ物をかめるだろうか。
みんな固唾をのんで見守った
入れ歯は全く外れる様子はない
幸せそうな登与の姿を見て清志朗たちは安堵した
清志朗…いや…
(佐吉)清志朗さん…。
(佐吉)へい。
親分佐吉…。
旅立つ清志朗を見送り今回の取材を終える事にした
清志朗さんは…まあとりあえず…ご活躍期待してます。
ありがとうございやす。
いつの時代も自分の信じるものに対し惜しみない努力を注ぎ込む人たちがいる。
その一人一人の名が歴史の教科書に載る事はない。
だが記録に値する価値あるものである事は間違いない。
彼らの小さな行動が未来の豊かな生活の礎となっているのだから
え〜以上コードナンバー168554アウトします。
2014/04/12(土) 23:40〜00:10
NHK総合1・神戸
タイムスクープハンター「大江戸入れ歯事情」[字]
シーズン6の第2回。時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤)は江戸時代の入れ歯師に密着取材。日本の入れ歯作りは高度で世界に誇るもの、その実態を詳細にリポートする。
詳細情報
番組内容
今回の取材対象は江戸時代の入れ歯師。日本の入れ歯の歴史は古く、室町時代まで遡る。「木床義歯」と呼ばれた入れ歯は仏像や能面の彫刻技術が生かされ、噛(か)み合わせが良く食事の際にも十分使用できた。1824年江戸、入れ歯師の清志朗。腕が良く人気がある。ある日大事な顧客から総入れ歯の制作を依頼される。期限は4日後、無茶な注文だったが清志朗は引き受けた。しかし、とんでもない事態が発生!果たして間にあうのか?
出演者
【出演】要潤,杏
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
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