初音ミクを音楽の歴史に位置づける
〜 僕らはサード・サマー・オブ・ラブの時代を生きていた 〜
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』著者 柴 那典インタビュー
〜 僕らはサード・サマー・オブ・ラブの時代を生きていた 〜
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』著者 柴 那典インタビュー
ライター/編集者/音楽ジャーナリスト
柴 那典
音楽ライターの柴那典氏による著書「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」が発売された。
2007年8月に登場したボーカロイドソフト「初音ミク」。”彼女”の登場は、ニコニコ動画を中心に「ボカロP」と呼ばれる一般ユーザーたちが大量の新曲を発表する原動力となり、単なるツールやソフトウェアの枠組みを超え「音楽の新しいあり方」を示す象徴となった。
本書は「初音ミク」が誕生した2007年を”三度目の「サマー・オブ・ラブ」”と捉え、今までオタク文化、ネット文化の中で語られることが多かった「初音ミク」の存在を初めて音楽の歴史に位置づけ、綿密な取材を通して、21世紀の新しい音楽のあり方を指し示す画期的かつ刺激的な一冊となっている。
今回は出版を記念して、著者の柴那典氏に執筆の経緯から、本書に込めた想いまで話を伺った。
(取材・文・写真 Kenji Naganawa、Jiro Honda)

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)
柴 那典
音楽ライターの柴那典氏による著書「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」が発売された。
2007年8月に登場したボーカロイドソフト「初音ミク」。”彼女”の登場は、ニコニコ動画を中心に「ボカロP」と呼ばれる一般ユーザーたちが大量の新曲を発表する原動力となり、単なるツールやソフトウェアの枠組みを超え「音楽の新しいあり方」を示す象徴となった。
本書は「初音ミク」が誕生した2007年を”三度目の「サマー・オブ・ラブ」”と捉え、今までオタク文化、ネット文化の中で語られることが多かった「初音ミク」の存在を初めて音楽の歴史に位置づけ、綿密な取材を通して、21世紀の新しい音楽のあり方を指し示す画期的かつ刺激的な一冊となっている。
今回は出版を記念して、著者の柴那典氏に執筆の経緯から、本書に込めた想いまで話を伺った。
(取材・文・写真 Kenji Naganawa、Jiro Honda)
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)
PROFILE
柴 那典(しば・とものり)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンにて『ROCKIN’ON JAPAN』『BUZZ』『rockin’on』の編集に携わり、その後独立。雑誌、ウェブメディアなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー・記事執筆を手掛ける。
日々の音色とことば(ブログ)
Twitter
柴 那典(しば・とものり)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンにて『ROCKIN’ON JAPAN』『BUZZ』『rockin’on』の編集に携わり、その後独立。雑誌、ウェブメディアなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー・記事執筆を手掛ける。
日々の音色とことば(ブログ)
端緒は「2007年」というキーワード
●著書『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』の出版おめでとうございます。どのような経緯で本書を執筆されたのでしょうか?
柴:実は、2〜3年ほど前に専門学校の講師をしていたことがありまして、音楽業界に入りたい学生向けに、例えば、レコード会社や音楽事務所などの仕事の概要を教えていたことがあったんです。ただ、そもそも僕はレーベルや事務所の人間ではなかったので、自身の経験から伝えることは一切できません。その代わりに、こういう新しいテクノロジーが登場して、それが音楽の受け取り方をこう変えた、というようなことを教えていたんですね。
●音楽業界を俯瞰して、その流れを押さえるような?
柴:そうですね。経験がない代わりに分析はできるだろうということで。その中で「2007年が時代の変わり目だったんじゃないか?」と気がついたんですね。TwitterやYouTubeなど、音楽やソーシャルまわりのサービスが出始めたのが、だいたい2000年代の中盤だったんですが、調べてみると、ニコニコ動画、SoundCloud、Ustream、初音ミクが全部2007年に誕生しています。1995年は阪神淡路大震災が起こり、オウム真理教による地下鉄サリン事件があり「日本社会が転換した象徴的な1年だった」とよく言われていて。「2000年代にも絶対転換期があるだろうな」と思っていたんですが、それが2007年だったんじゃないか、という仮説を思いついたのが、本書の始まりです。
もう一つのポイントとして、洋楽について考えていたことがあります。2000年代になって変わったことの一つに「洋楽のロックが若い子たちに聴かれなくなった」という現象があります。カーリー・レイ・ジェプセンやレディー・ガガなどポップスは聴かれていますが、ロックが聴かれていないと。それで「今の10代に洋楽が響かない理由はなんだろう?」と調べたりしている中で、ドリルスピンに投稿したコラム(「いつの間にロック少年は『洋楽』を聴かなくなったのか?」)が佐野元春さんの目に留まって、佐野さんのラジオ番組に出させていただくことになったんです。番組では洋楽について語ったので、ボカロは全く関係なかったんですが、番組の内容とは別に「では、2000年代の若い子は何を聴いているんだろう?」という話をした中で、今の若い子たちは「カウンターカルチャーとしてボカロを聴いていたんじゃないでしょうか?」と言ったんです。
●佐野さんとの対話の中で、「カウンターカルチャー」という言葉が出てきたんですね。
柴:そうです。その「カウンターカルチャー」をキーワードに過去を遡ってみると、67年にサマー・オブ・ラブ、87年にセカンド・サマー・オブ・ラブがあった。そこで「2007年が時代の転換期だった」という先ほどの発見と、67年、87年、2007年と見れば、20年おきに音楽とカルチャーの大きなターニングポイントが出てきている、という説がクロスして、自分で勝手に盛り上がった (笑)。それをブログに書いたら、出版社の人から「それで一冊書きませんか?」とオファーを頂きました。ですから、元々はボカロについて本を書きたい、というスタートではなくて、「2007年」というのが大きなキーワードだったんです。
最初の書名は「初音ミクとサード・サマー・オブ・ラブの時代」でした。ただ「”サード・サマー・オブ・ラブ”と言っても、音楽好き以外には伝わらないですよ」と言われ、二転三転しつつ『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』というタイトルに落ち着きました。とはいえ、音楽好きには”サード・サマー・オブ・ラブ”をアピールしたい気持ちもあるし、表紙に”三度目の「サマー・オブ・ラブ」”という文言は入れさせていただきました。
柴:実は、2〜3年ほど前に専門学校の講師をしていたことがありまして、音楽業界に入りたい学生向けに、例えば、レコード会社や音楽事務所などの仕事の概要を教えていたことがあったんです。ただ、そもそも僕はレーベルや事務所の人間ではなかったので、自身の経験から伝えることは一切できません。その代わりに、こういう新しいテクノロジーが登場して、それが音楽の受け取り方をこう変えた、というようなことを教えていたんですね。
●音楽業界を俯瞰して、その流れを押さえるような?
柴:そうですね。経験がない代わりに分析はできるだろうということで。その中で「2007年が時代の変わり目だったんじゃないか?」と気がついたんですね。TwitterやYouTubeなど、音楽やソーシャルまわりのサービスが出始めたのが、だいたい2000年代の中盤だったんですが、調べてみると、ニコニコ動画、SoundCloud、Ustream、初音ミクが全部2007年に誕生しています。1995年は阪神淡路大震災が起こり、オウム真理教による地下鉄サリン事件があり「日本社会が転換した象徴的な1年だった」とよく言われていて。「2000年代にも絶対転換期があるだろうな」と思っていたんですが、それが2007年だったんじゃないか、という仮説を思いついたのが、本書の始まりです。
もう一つのポイントとして、洋楽について考えていたことがあります。2000年代になって変わったことの一つに「洋楽のロックが若い子たちに聴かれなくなった」という現象があります。カーリー・レイ・ジェプセンやレディー・ガガなどポップスは聴かれていますが、ロックが聴かれていないと。それで「今の10代に洋楽が響かない理由はなんだろう?」と調べたりしている中で、ドリルスピンに投稿したコラム(「いつの間にロック少年は『洋楽』を聴かなくなったのか?」)が佐野元春さんの目に留まって、佐野さんのラジオ番組に出させていただくことになったんです。番組では洋楽について語ったので、ボカロは全く関係なかったんですが、番組の内容とは別に「では、2000年代の若い子は何を聴いているんだろう?」という話をした中で、今の若い子たちは「カウンターカルチャーとしてボカロを聴いていたんじゃないでしょうか?」と言ったんです。
●佐野さんとの対話の中で、「カウンターカルチャー」という言葉が出てきたんですね。
柴:そうです。その「カウンターカルチャー」をキーワードに過去を遡ってみると、67年にサマー・オブ・ラブ、87年にセカンド・サマー・オブ・ラブがあった。そこで「2007年が時代の転換期だった」という先ほどの発見と、67年、87年、2007年と見れば、20年おきに音楽とカルチャーの大きなターニングポイントが出てきている、という説がクロスして、自分で勝手に盛り上がった (笑)。それをブログに書いたら、出版社の人から「それで一冊書きませんか?」とオファーを頂きました。ですから、元々はボカロについて本を書きたい、というスタートではなくて、「2007年」というのが大きなキーワードだったんです。
最初の書名は「初音ミクとサード・サマー・オブ・ラブの時代」でした。ただ「”サード・サマー・オブ・ラブ”と言っても、音楽好き以外には伝わらないですよ」と言われ、二転三転しつつ『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』というタイトルに落ち着きました。とはいえ、音楽好きには”サード・サマー・オブ・ラブ”をアピールしたい気持ちもあるし、表紙に”三度目の「サマー・オブ・ラブ」”という文言は入れさせていただきました。