4月11日、サンフランシスコでまたもやグーグルグラスの強奪事件が発生した。被害に遭ったニュースサイト「Business Insider」の記者、カイル・ラッセル氏(Kyle Russell)は、市内で行われたGoogle社員に対する抗議デモの取材から帰宅途中だった。

カイル氏がグーグルグラスを着用して歩いていたところ、突然、歩みよってきた女が「Glass!」と叫び、カイル氏の顔からグラスをもぎとったという。女は現場から走り去り、カイル氏は追跡したが、その途中で女は地面にグラスを叩きつけて立ち去った。カイル氏のグーグルグラスは使用不能の状態となり、その後警察に被害を報告したが、女の行方は分かっていない。

カイル氏が当日、取材していたのはGoogle社員が購入したアパートから、地元の教師らが退去を命じられたことに対する抗議活動。報道によると、グーグルの法務部に勤務する社員がアパートをまるごと買い上げたため、住民らは住む場所を失ったという。

サンフランシスコには家主が住民に退去を強制できる“ELLIS ACT”と呼ばれる法律が存在するが、このことは地元コミュニティに強い反発を生み、抗議活動には100人以上が参加。グーグルがモットーとする「Don't be Evil」のプラカードを掲げて抗議の声をあげていた。

カイル氏はMashableの取材に対し「私のグラスを強奪したのは革ジャンを着た坊主頭のパンクロッカー風の女だった。側頭部にはタカの刺青があり、デモに参加するタイプのようには見えなかった」と語っているが、彼女の中にテック業界に対する憎悪の気持ちがあったことは確かに思える、と自身が執筆した記事中で述べている。

サンフランシスコでは2月にも「バーで女性がグーグルグラスを強奪される事件」が発生。その際にも被害者はバーの客の女性から「あんたたちがこの街を殺しているんだ」といった言葉を浴びせられていた。

現地在住のジャーナリストによると「ここ数年でサンフランシスコは全米で最も家賃の高い都市になった。家賃相場の中央値は月額1,463ドルで、ボストン(1,260ドル)やシアトル(1,053ドル)などと比較して明らかに高い」とのこと。さらに、その原因とされるのが「Googleやアップルに代表される“高給取りのIT企業社員”の増加。彼らのせいで住む場所を失ったと考える住民も多く、昨年末からシリコンバレーに向かうグーグルの無料送迎バスがデモ隊に取り囲まれるなどの騒ぎになっています」という。
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カイル氏は自身の記事で「若い億万長者が安アパートを買い上げるようなことがなければ悲劇は怒らなかった。あと数十年は安穏とした暮らしがあったはずだ」と語り、住民たちに同情する気持ちを表明。さらに、「今やこの街でグーグルグラスは、格差の象徴になりつつある。相手によってはグラスを着けていることが挑発行為ともとられかねない。少なくともサンフランシスコでは、そんな状況になりつつある」と分析している。

グーグルグラスをめぐっては、昨年春の開発者向けリリース以来、プライバシー侵害への懸念や、自動車運転中の使用の是非を問う声など、様々な角度から全米を巻き込んだ議論が展開されてきた。奇しくもグーグルは今週火曜日(4月15日)に1日限定でグラスの「希望者向け全員販売」を実施する予定。今回の販売を通じ「開発者プログラムを徐々に拡大していく」としているが、その前途には米国特有の様々な問題が立ちはだかっていることだけは確かと言えそうだ。(Google Glass Info)

参考記事:
I Was Assaulted For Wearing Google Glass In The Wrong Part Of San Francisco

Another Google Glass Wearer Attacked in San Francisco

Photo:Chris Martin(from flicker cjmartin)