第4話:地下一階Δ
ちょっとグロ描写アリ。苦手な人は注意。
―――地下一階―――
地下一階の光景は、地上階とそう変わりは無い。違いをあげるとすれば、若干、群生しているウィッチ・ローザの数が多いように感じられるぐらいだろうか。相も変わらず続いているむき出しの壁は、迷路のように広がっている。地面にはもちろんのこと、天井にも生えるウィッチ・ローザが、地下一階の世界を照らしていた。
慎重に、周囲の気配を探る。アリの巣のように広がった通路の奥に見える明かりは、今のところ遮られた様子は見られない。少なくとも、マリーの視界には、モンスターの影は見当たらなかった。
「……とりあえず、モンスターは見当たらないな」
キョロキョロと周囲の状況を見回したマリーは、そう呟いた。ふと、地表に出現している鉱石を探してみる……やはりというべきか、見つからなかった。セオリー通り、地中か、岩を掘って探し出すしか方法はないようだ。
あらかじめ袋から取り出しておいた採掘用のスコップとハンマーを両手に持って、周囲の地面を見下ろす。注意深く光が漏れていないか、舐める様に視線を注ぐも、それらしい光は見当たらなかった。
(まあ、そう幸運に恵まれるわけもないか……普通にやるしかないか)
零れそうになるため息を呑み込んだマリーは、一旦、階段の中へ避難すると、己の中に渦巻く魔力を練り上げ始めた。少しでも効率を上げる為に、魔力の力を借りるのである。
魔力総量もそうだが、魔力コントロールに関しても、決して上手いとは言えないが、無いよりはマシだ。使えるものは何でも使う、使いにくいものは工夫して使う。マリーが、経験的に学んだことだ。
同時に、マリーは鉱石を採掘する際の注意事項を、一つ一つ思い浮かべた。モンスターを獲物とする探究者たちとは別に、鉱石を狙う探究者たちの間にも、いくつかルールは存在する。
その内の一つ、探究者たちの間にある暗黙のルールの一つに、階段前を掘ってはいけないというのがある。これは探究者たちがモンスターから逃げる際、安全地帯となる階段へ、少しでも早くたどり着けるよう作られたルールだ。
明確な罰則は無いが、もし階段前で掘っているところを見られれば、他の探究者たちから総スカンを食らうのは間違いない。安全地帯への道を塞ぐ行為は、それだけ探究者に影響を与える。場合によっては、殺されても文句を言えないぐらいなのだ。
他にも、他人が見つけた鉱石を奪ってはいけないという暗黙のルールもある。一言でいえば、早い者勝ちということだ。その場を離れざるをえなかった等の明確な理由が無い限り、最初に見つけた人のものということだ。
ただ、当然のことながら、他者の見つけた鉱石を横取りしようとする探究者もいる。そういった事態を適当に対処する能力も、探究者は必要であり……まあ、自己責任というやつだ。
とりあえず、この二つを守ればいざこざは起きないだろう。そう考えをまとめたマリーは、腹の奥から湧き上がってくる魔力を、全身に行き届かせるイメージをおこなった。臍の内側にジワリと熱が生まれる。熱は渦を描くように腹の中で蠢き、血管の筋に合わせて全身へと広がっていく……体温が上がったような感覚を、マリーは覚えた。
魔力コントロールと想像力は、相関関係にあるとされている……とはいえ、想像力だけではどうにもならない部分はある。しかし、どうにかなる部分ならば、マリーでもなんとか扱うことが出来る。
拙い魔力コントロールではあるが、なんとか魔力を練り上げることに成功したマリーは、溜めていた息を、ほう、と吐いた。
(とにもかくにも、穴を掘らねばなあ……さて、どこを掘ろうか)
あまり階段から離れるわけにはいかない。かといって、あまり階段に近すぎるわけにもいかない。天秤を右に左に傾けながら周囲を見回したマリーは、階段から真横にいくらか離れた場所に群生している、ウィッチ・ローザに目を向けた。
他の探究者の邪魔にならなさそうな、よさそうな場所だ。周囲に隠れられそうな障害物は何もなく、素早いモンスターに見つかっても、何とか階段へと逃げ切れそうなギリギリの距離であった。
静かに、足音を忍ばせてそこへ向かう。はた目から見れば挙動不審そのものの動きで到着したマリーは、そっとその場に膝をついた。右手のスコップを持ち直すと、勢いよく振り下ろした。
「――おっ?」
さくっ、とスコップは軽々と地面に突き刺さった。まるで綿あめの中に突き刺したかのような手ごたえのなさに、マリーは思わず目を瞬かせた。グリップから手を離して確認する。グリップから先の二等辺三角形が、土の中に埋没していた。
軽くグリップを突いてみるだけで、ぐらぐらとスコップが動いた。グリップを掴んで倒すと、音も無く地面にヒビが入り、てこの原理で土が盛り上がった。そのままグリップを引き上げると、固い地表はあっけなく崩れた。
(……あれ? 今まで気付かなかったけど、ダンジョンの土って、こんなに柔らかいものなのか)
砕けた土片を抓むと、土片はそれだけでぽろぽろと細かく砕けていった。そのまま指先を擦り合わせていると、湿気のせいか、指先が茶色に染まった。臭いを嗅いでみるが、特に変な臭いはしない。幼い頃に嗅ぎ慣れた、土の臭いだ。
もしかして、意外とダンジョンの土って柔らかいものなのだろうか。マリーの脳裏に、地上階にて採掘を行う探究者たちの姿が蘇ってくる。思い返せば、歳若い少年や女性も採掘しているのだ。彼等、彼女らが出来るぐらいなのだから、相応の堅さなのかもしれない……そう、マリーは思った。
たまたま、ここだけが柔らかいのかもしれないが、どちらにしても、嬉しい誤算であることには変わりない。
それならばと言わんばかりに、マリーはやる気に任せてスコップを動かした。片手用の小さなやつなので、大きくは掘れないが、その分だけ素早く動かすことが出来た。
「あ、あった」
山盛りの土を掘り出したマリーは、土の中から零れ出る光に声をあげた。スコップの先で土を退けると、中から淡い光を放つ鉱石の一部が姿を見せた。
「あらら、見つかっちゃったよ、呆気ないもんだなあ」
思いのほかあっさりとした発見に、マリーは頬を掻いた。もう少し時間が掛かるモノだとばかり思っていたが、どうやら幸先は良いようだ。鉱石から放たれる淡い光を見つめながら、マリーは首を傾げた。
「どうやって取り出そうか……」
適当に鉱石を掘り起こしながら、マリーは思案する。まだ先端を出したばかりなので何とも言えないが、おそらく鉱石は30センチ以上に及ぶ大きなものだろうと推測する。事実、どんどん鉱石の周りにある土を掘り起こしているというのに、一向に鉱石の最下部らしい部分は見当たらなかった。全長は、50センチはくだらないだろうか。
いっそ、スコップで叩き割った方が早いかもしれない。そう、思わないわけでも無かったが、スコップを振り上げようとは思わなかった。万が一スコップが壊れたら、この後は素手で掘らなければならなくなる。まだ全くエネルギーを回収できていないのに、それだけは避けなくてはならない。
「うーん、どうしたも……うん?」
何気なくプレート版で覆われた拳で叩いた瞬間、鉱石にヒビが走ったのを、マリーは見とめた。疑問に思ったマリーは、続けて2度、3度、拳を打ち付ける。そのたびに広がっていくヒビと、衝撃によって僅かに動く鉱石に、マリーはぽかんと口を開けて……笑みを浮かべた。
スコップを傍に置いて、グッと穴の奥へと身を乗り出す。振り上げた拳を強く握りしめて、拳を放つ。かつん、と鈍い音を立てて、プレートで守られた拳が鉱石に突き刺さる。スナック菓子のように柔らかいそれは、瞬く間に光を失い始めた。
「……ははは」
目の前に浮かび上がり始めた光球を前に、マリーは今度こそはっきりと笑みを浮かべると、急いでビック・ポケットの中からオーブを取り出した。鉱石の中に宿っていたエネルギーが完全に光球へと形を変えたのを確認したマリーは、その光球へ、そっとオーブを近づけた。
オーブは、音も無くエネルギーを吸収する。ほのかに光を放つオーブを、マリーは満面の笑みで見つめた。そのまま、耐えきれないと言わんばかりにオーブに頬擦りする。ひんやりとした冷たい感触が頬を冷やすのも構わず、マリーは何度も頬擦りをした。涙が、オーブを濡らした。
「へへへ、何だよ、まだやれるじゃん」
マリーはオーブから顔を離して、涙を拭った。
「こんな身体でも、まだなんとかいけるじゃねえか」
オーブに、口づける。100万回行っても足りないぐらいに、マリーの心は晴れ晴れとしていた。まだたった一回、エネルギーを取り出しただけだ。
だが、そのたった一回が、マリーの心を元気づける。不安で押し潰れそうな未来に、確かな勇気を与えてくれた。
「……おっと、いけね。このままジッとしているのは危ないな」
ぼうっとオーブを見つめていたマリーは、ビッグ・ポケットの中にオーブを入れた。いつまでも感動に浸っているわけにもいかない。何時、モンスターに襲われるか分からない危険な場所なのだ。
掘り出した土は……埋め直した方がよさそうだ。邪魔にならない場所を掘っているとはいえ、何がどう作用するかは分からない。
埋めることを決めたマリーは、スコップはどこだろうと周囲を見回し、背後にあったのを見つけた。それを拾おうとして、何気なく視線を前方へと向けた。
あっ。瞬間、声が出なかったのはマリーにとって幸運であった。
顔をあげた、視線の先。そこに、マリーの怖れていたモンスター『ランターウルフ』がいた。
その姿は、一言でいえば黒い狼、だ。艶の無い体毛が、ウィッチ・ローザの光に鈍く照らされている……数は二頭。何かを探しているのか、鼻先を地面に近づけて、しきりに臭いを嗅いでいた。
己を探しているのだと、マリーは瞬時に理解した。獲物の臭いを探っているのだということを理解したマリーは、ランターウルフの向こうにある階段へと視線を向けた。
(やべぇ)
ランターウルフに気づいたマリーは、すぐに息を潜めた。ランターウルフは、あまり視力が良くない。近くであろうとも、対象物が動かなければまともに視認することが出来ず、強い明かりか何かがあれば、目くらましも容易である。
しかし、ランターウルフの脅威は、優れた嗅覚と、些細な音を聞き分ける優れた聴覚……そして、獲物の首を容易く噛み千切る牙だ。また、相手がだれであろうと襲い掛かる凶暴性も持っている、注意すべきモンスターだ。
(しまった。よりにもよって階段前を陣取られるとは……)
何時の間に接近されたのだろうか。油断しているつもりはなかったが、ここまでの接近を許してしまった以上、アドバンテージは無いに等しい……いや、それどころか、両ひざをついた今の体勢は、むしろアドバンテージを取られたに等しい状況であった。
極力、呼吸音を漏らさないようにする。どんどん激しくなる心臓に怒りすら感じながら、マリーは黙ってランターウルフから視線を外さない。わずかな身じろぎに擦れる銀白色の頭髪に苛立ちを覚える。
すんすん、と臭いを確認しているランターウルフたちは、ときおい思い出したように顔をあげて、また鼻先を地面へと下ろしていた。ぴくり、ぴくり、と三角形の両耳が、動いていた。
まだ、ランターウルフはマリーの居場所を見つけていないのか、ぐるぐると一定の範囲から動こうとしない。しかしマリーが居ることに気づいているのか、二頭の両耳が、忙しそうに周囲の雑音を拾っていた。
(どうにか、このままやり過ごすことが出来れば……せめて、階段前から離れてくれれば。俺が逃げ切られる距離まで離れてくれれば……)
気づくな、気づかないでくれ。その願いが届いたのか、二頭は静かに頭をあげると、低く唸った。そして、ゆっくりと尻尾をひるがえして、階段から、マリーのいる場所とは反対方向へと歩き出した。少しずつ遠くなり始めた二頭の姿に、マリーは心の中で安堵のため息を吐いた。
(……た、助かった……)
体の力が一気に抜ける。ため息が出そうになるのを抑えつつ、マリーは安心して二頭から視線を下ろした。
かつん、と何かが割れたような音がしたのは、その直後であった。瞬間、マリーは閉じていた瞼を開いた。信じられない現実に、おそるおそる顔をあげた。
先ほどよりも小さく映る二頭が、確かにマリーの方へと振り返っていた。血のように充血した四つの瞳が、マリーへと向いていた。静かに唸り声をあげると同時に、吊り上った唇の端から鋭い牙が覗く。滲み出る様にあふれ出した唾液が、音を立てて顎を伝わった。
ぱきん、と先ほどよりも大きな音が、マリーの背後から聞こえてきた。ぱきん、ぱきん、ぱきん。次第に増していく音量を聞き取ったマリーは、それの正体は、先ほど自らが叩き割った鉱石であることを悟った。今になって、鉱石が自重と蓄積したダメージに耐え切れず、崩壊しているのだと悟った。
やばい。そうマリーが思った瞬間、二頭はその身を地面すれすれまで下げた。手さぐりに探ったマリーの右手が、地面に転がっていた石を拾うのと、爆発的瞬発力を見せて、ランターウルフが加速したのは、ほぼ同時であった。
「――っ!!」
なぜ、そうしようと思ったのか、マリーは分からなかった。瞬きをするたびに大きく映る死を前にして、本能がせめてもの抵抗を見せたのだろうか。それともパニックを起こした精神が、偶発的に取った行動がそれだったのだろうか。
そんなもの、何の抵抗にも目くらましにもならないことは、内から湧き出る凶暴性を隠そうともしない二頭のモンスターを見て、すぐに分かった。爛々と輝く血色の瞳は、確実に命を奪える首を狙っているのだということは、言葉にされなくても分かってしまった。
けれども、マリーは無意識の中で、その行動を取っていた。
迫り来る確実な死を予感したマリーは、砂埃を立てて接近する二頭の怪物を前に……右手を、背後へ振りかぶった。胴体はほぼ90度真横、右手はそこからさらに後ろへ90度。その手には、今しがた拾った石が、優しく握りしめられていた。
ぴたり、とマリーの身体が動きを止めた。その姿はまるで、千切れるギリギリまで張り詰めた弓のよう……溜めに溜めた力が解放された、その瞬間。マリーの右腕が姿を消して、空気を切り裂き、今の肉体が持っている柔軟性を全て活用した一投が、大口を開けたランターウルフの頭部へと放たれた。
ぐぎゃん。
光線のごとく大気を貫いた一撃は、腹に響く爆音と共にランターウルフの上半身を消し飛ばした。その破壊力はそこだけに留まらず、残った下半身をその場に停止させる。周囲に飛び散った血飛沫が、隣を走っていたランターウルフの全身に降りかかる。体液だらけの石はあらぬ方向へと軌道を変え、水面を跳ねる平石のように地面を跳ねてどこかへと飛んで行った。
砂埃を巻き上げて、ランターウルフが地を蹴った。数十キロにまで加速したその身体は、残り数メートルの距離を一瞬で0にした。涎を空に流しながら、人の首など一撃でかみ砕きそうな凶悪な牙が露わになった。
(――っ)
迫り来る牙を前に、マリーは冷静にその動きを目で追った。凄く、不思議な気分であった。どんどん近づいてくる牙を前に、マリーの意識は、ランターウルフの動きをスローモーションで感じ取れる程に、研ぎ澄まされていた。膝立ちのまま、落ち着いて左拳を作る。そして、振り上げるようにして、ランターウルフの首もとへとアッパーを叩き込んだ。
(あ、柔らかい)
そう、マリーが思うと同時に、ランターウルフの身体は真上に軌道を変えた。凄まじい速度で激突した天井に血飛沫をまき散らしたそれは、重力によって地面へと叩きつけられた。もはや肉の塊といっていいそれは、原型を留めていなかった。
「…………」
振り上げた左拳をそのままに、マリーは呆然と目の前の光景を眺めていた。天井にこびり付いた血が、土と一緒に零れ落ちている。4回、血を吸った泥が、肉塊の上に落ちたのを見てから、ようやくマリーは我に返って、左腕を下ろした。
「……えっ?」
おそるおそる、マリーは己の両手に視線を落とした。何の変哲も無い、小さな手だ。武骨で所々ささくれた、かつての拳とは似ても似つかない、可愛らしい手だ。見ているだけで情けなさを覚える、頼りない両手だ。
その手が、眼前の光景を作りだした。その事実を、マリー自身、素直に受け入れられなかった。無我夢中で投げた石が一頭の上半身を消し飛ばし、無我夢中で繰り出した拳が、一頭の肉体を粉々に打ち砕いた……信じろという方が、無理な話だ。
マリーは、改めて二頭の死骸へと視線を向ける。モンスターは確かに死亡しているようで、その肉体が凄まじい速度で腐敗していく。まるで肉が溶けて蒸発していくかのような進行の速さ。腐敗臭はおろか、血臭すら瞬く間に薄く消えていく。消滅する寸前、死骸の一部から、ほわん、と光球が空中へと飛び出した。
信じようが、信じなかろうが、現実は摩訶不思議。二頭を仕留めたのは確かに己だと、目の前の光景が訴えていた。
何が起こったのか、あるいは何かをしたのか。とりあえずはビッグ・ポケットからオーブを取り出してエネルギーを回収する。それを元に戻してから、マリーは頭を掻き毟った。
「……お、おれの身体に、何が起こったんだ?」
何も、変わったことはしてない。せいぜい、しているとすれば、魔力コントロールぐらいだ。脳裏に思い浮かんだ仮説に対して、マリーは首を横に振った。
魔力による身体能力と機能のブースト効果は、確かにある。だが、記憶にある情報が正しければ、魔力によるブーストは非常に微弱であったはずだ。
そういったブースト効果は、気功術の方が優れていると、マリーは記憶している。脳裏の片隅に眠っていた知識を叩き起こしながら、マリーは首を傾げた。
気功術など、学んだ覚えもなければ、修行したこともない。それは、はっきりと分かる。無能をひけらかすなとバカにされそうだが、そもそも、そういった方面はからっきしであったから、かつての己は肉体を鍛えてカバーしてきた経緯がある。
転がっていたスコップを拾い、ビッグ・ポケットの中に放り入れて、立ち上がる。泥だらけの膝をそのままに、マリーは足元にあった石を拾いあげた。何の変哲も無い、普通の石だ。見た感じ、特に変わった様子は無い。握った感触にも、これといった違和感は無い。
しかし、だ。マリーはその石を軽く握りしめる。大した力は籠めていないのに、ぱきん、と掌の中に収まっていた石か砕ける衝撃が伝わってきた。ゆっくり掌を開く。途端、5つに砕け別れた小石の1つが、ぽろりと掌から零れ落ちた。
同じように、マリーはもう一つ石を拾い、今度は体内を循環している魔力を抑えるようにコントロールした。言うなれば、いつもの状態だ。そのままの状態で、精一杯力を込めて石を握りしめる……何時まで経っても、ヒビすら入る気配が感じられなかった。
……マリーは確信した。間違いない。何故なのかは分からないが、魔力によって力が増している……と。
再び魔力コントロールを行い、全身へと循環させ始める。全身を巡る魔力を感じ取ることは出来るが……やはり、特別な何かを感じるようなことはない。
いつものように、ただ潜在している魔力を引き出して、全身へと循環させているだけ……探究者としては、お粗末といっていいレベルの魔力コントロールだ。
……ふと、マリーは脳裏に走った考えに意識を向けた。
「……ということは」
掌に残っている4つの小石を優しく握りしめると、マリーはすぐ傍の壁へと向き直る。眼前にて群生しているウィッチ・ローザが、ぼんやりと壁を照らしていた。
ぐっ、と右腕を振りかぶって……投げた。ちゅん、と光線のように繰り出された4つの弾丸は、砂柱を立てて壁の中にめり込み、あるいは四散した。走り寄って着弾した個所を確認していくも、小石は例外なく奥深くにめり込んでおり、その姿を確認することは出来なかった。
……にんまりと、マリーの顔にいやらしい笑みが浮かんだのは、その直後であった。
それからしばらくして、探究者の間で噂が流れるようになった。噂の程度は時々によって変わり、尾ひれ背ひれが付いて、どうしようもないものも多くある。しかし、噂に共通していることが一つ、あった。
銀白色の長髪をなびかせた、小さな少女。血のように赤い瞳を持つ、美しい探究者の少女がいる。そう、探究者の間で話題にのぼるようになった。
とりあえずダンジョンの話はここで一旦おわり。
+注意+
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