最近、製薬会社主催のWEB講演で「単一精神病論」に関する講演があった。どうも最近、単一精神病論なるものが、製薬会社とタイアップして薬物療法の都合のいい言い訳として利用され始めているように思えるのである。これはかなり危険なのではなかろうか。
(製薬会社から頂いた単一精神病論への入信の案内状 ↓。聴講はしましたが、入信はしませんでした。今回は単一精神病論の話ではなかったのですが、エビリファイは速攻で効く。躁病も4日で良くなる。しかし、エビリファイは高用量じゃないと効かない。双極2型障害にもエビリファイは高用量でいくべきだ。エビリファイは24mgから開始すべきだ。30mgでも良いほどだ。維持療法もエビリファイだ。ずっとエビリファイを飲むべきだ。うつ病にもエビリファイだ。不安にもエビリファイは効くのだ。うつ病も躁病も双極2型障害も全て同じだ。精神病という同じスペクトルを持つ障害だ。エビリファイはスペクトル障害には万能なのだ、といった感じで、とにかくエビリファイを大絶賛していました。)
http://www.otsuka-elibrary.jp/library/seminar-schedule/315/download?t=1395193839
http://www.c-linkage.co.jp/jsmd9/contents/program.html
(東京女子医大や九州地方などで単一精神病論がさかんに布教されております)
http://med.m-review.co.jp/magazine/detail1/J28_12_4_17-23.html
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02877_03
(単一精神病論の教祖様への疑問を唱える某精神科医)
http://www.c-linkage.co.jp/jsmd9/contents/program.html
(東京女子医大や九州地方などで単一精神病論がさかんに布教されております)
http://med.m-review.co.jp/magazine/detail1/J28_12_4_17-23.html
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02877_03
(単一精神病論の教祖様への疑問を唱える某精神科医)
http://www.idaimae-mental.com/2008/08/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%A5%B3%E5%AD%90%E5%8C%BB%E7%A7%91%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%95%99%E6%8E%88%E5%9D%82%E6%9C%AC%E8%96%AB%E5%90%9B/
(精神神経学会でも単一精神病論を布教中。教祖様から命を受けた宣教師が一番最後に登場します。しかし、セミナーのプログラムを見ると、製薬会社がびっしり張り付いており、製薬業界に精神科医が洗脳操作されている様がよく分かる。嘆かわしいやら恥ずかしいやら。)
(薬剤師にまで単一精神病論を布教中。余計なことをしないでほしいのだが。)
(単一精神病論に基づく診療をしますと堂々と公言している精神科のクリニックまで存在する。)
http://www.heartribbon.jp/more.html

http://www.heartribbon.jp/more.html
現在唱えられている単一精神病論の内容は、元々の単一精神病論とは趣きが大きく変わってしまっている。かっては単一精神病論は精神疾患とは何かということを説明しようとするための理論だったのだが、それが今では薬物療法の根拠としての単一精神病論が唱えられ利用されようとしている。現在、一部の学者で唱えられている単一精神病論の真の目的は、双極性障害にも抗精神病薬を、特に、SGA(第二世代の抗精神病薬)を使用する理由としての薬物療法の根拠のためだけのものだと言えよう。統合失調症(SZ)も双極性障害(BPD)も本質(=病因)は全く同じ疾患なのだ、だからSZもBPDも同じ薬物でいいのだという理論が現在一部の学者で唱えられている単一精神病論なのである。
エビリファイがアメリカで売り上げNo1になるところを見ると、だんだんと単一精神病論を信じる精神科医が世界中で増えていっているように思え憂鬱になってしまう。国内でも学会や講演会などでどんどん単一精神病論がアピールされ始めており、単一精神病論を信じる精神科医が増えていっているようである。
<単一精神病論 信者達の言い分>
単一精神病論が正しいのです。だから、あなたがもし、双極性障害だとしても、統合失調症の治療薬として開発された非定型抗精神病薬(SGA)を飲まなきゃいけないのだということになるんですね。だから、私は、SZでもBPDでもSGAを、特に、ジプレキサやエビリファイを処方するんです。躁でもうつでも、SGA。「とりあえず」エビリファイ。「とりあえず」ジプレキサ。SGAをとりあえず出しておけば、それでいいんです。もう、悩む必要は全くありません。単一の全く同じ精神病なんですから。適応症も取っていますしね。とにかくSGA。川平慈英じゃないけど、いいんです、それでいいんです。SZもBPDも両方の疾患がジプレキサやエビリファイで良くなるんですよ。良くなるのならば、それでいいじゃないですか。
そして、急性期が過ぎても、「これからも」エビリファイ、「これからも」ジプレキサ。「とりあえず」エビリファイから、「これからも」エビリファイへ。維持療法においてもずっとSGAを飲み続けた方がいいんです。SZでは維持期でもずっと再発予防にSGAを飲み続けるのですよ。BPDもSZと同じ疾患なんですから、再発予防のためにはずっとSGAを飲み続けてなければいけないんです。リーマスなんか弱すぎて効きませんよ。あんな古臭い薬はダメです。バルプロ酸やラモトリギンなんてダサイ抗てんかん薬も飲んではいけません。あなたは、てんかんですか。双極性障害でしょ。てんかんなんかじゃないんですよ。あなたは双極性障害、すなわち、統合失調症なのです。「これからも」エビリファイ、「これからも」ジプレキサ。いいんです、これでいいんです。
あなた、まだ、納得していないんですか。
では、症状からも説明しましょう。BPDだって妄想が出ますでしょう。誇大妄想(躁の時)とか被害妄想(うつの時)が出ますよね。逆に、SZでも、よく躁的になったりうつ的になったりするんですよね。全く同じ症状がSZともBPD伴に出るんですよ。これ、なぜだかあなたに説明できますか。今、さかんに遺伝子が調べられているんですけどね。そして、どんな結果だったか知っていますか。SZもBPDも同じような疾患候補遺伝子が次々と報告されたんですよ。CACNA1C、DISC1、ANK3、NRG1、PAK1、・・・・。多くの候補遺伝子がSZとBPDはオーバーラップして共通していたんですね。これはもう同じ疾患に違いないのです。まあ、他にも、SZ⇔BPDは共通したスペクトル的な疾患として解釈した方があらゆる事象が説明できるなど、根拠はいろいろとありますから、各自で調べて勉強しておいてくださいね。
(最近PAK1というSZとBPDに共通する疾患候補遺伝子が同定されたが、このPAK1遺伝子の変異形態はCNVであり、PAK1はシナプスレベルでDSC1と相互作用し、脳の各回路の発達や接続性を維持する役割を有している。)
しかし、患者さんはそうは思わない。
<ある双極性障害(躁病)の患者さんの言い分>
僕は統合失調症なんかじゃないよ。何で、統合失調症の人が飲むようなそんな薬を飲まなきゃいけないんだ。到底納得できないよ。それに、僕は病識をしっかりと持てている。確かに、入院してひどかった時は病識がなくなっていたかもしれないけど、それでもあの時でも普段の自分じゃないという自覚はあったんだ。ただ、どうしても治療を拒否してしまっただけなんだ。自分では体も心も全然しんどくもないし、病気だなんて到底思えなかった。こんなに動き回れるのに、病気だなんて思いたくもなかった。でも、自覚はあったんだよ。治療を拒否しただけで病識がなかっただなんて決めつけないでほしいよ。それに、SZのように妄想の世界に入り込んしまっていた訳じゃないよ。確かに、気が大きくなって、何でもできるような気がして、いろいろやってしまったかもしれないけど、ブレーキが効かくなくなっていただけなんだ。それを誇大妄想だと呼ぶらしいけど、でも、現実の世界との接点がしっかりと保たれていたような行動しかとっていなかったはずだ。妄想に支配されたSZの人の行動とは全然違うよ。あの時の僕のとった行動や言動をSZの妄想と同じだなんて決めつけないでほしいよ。
ジプレキサは飲みたくないよ。ぶくぶく太るんでしょう。それに代謝障害のリスクが高まるんでしょう。エビリファイだって、いらいらしたりするらしいし、24mgも飲むと起立性低血圧でふらふらしたり体がしんどくなる人もいるらしいし、錐体外路症状も出たりするらしいじゃないですか。それに、ドーパミン系を人為的に操作することは認知機能に悪影響が出ないとも限らないでしょう。エビリファイはドーパミンシステム・スタビライザーだと言われているけど、タスクに応じたドーパミンの上げ下げがスムーズにできなくなる可能性もあるでしょう。しかも、エビリファイだって長く飲んでいると代謝障害や肥満になるかもしれないし。リチウムじゃだめなの。
(SZでは確かにエビリファイにて認知機能やワーキングメモリーが向上するという報告が多いが、健常人{躁病相が消退したケース}ではエビリファイにて認知機能に影響が出る可能性があり、至適用量の設定が重要となる)
(逆に、エビリファイは躁病でも認知機能には有利に作用するという報告もある)
(関連ブログ2013年3月1日 CEの認知機能への影響。認知機能のパフォーマンスからはドーパミンは上がり過ぎてもダメだし下がり過ぎてもダメである。健常人では薬剤でドーパミンシステムが修飾されていない自然な状態で維持されるのが一番好ましいと言える。)
第二世代の抗精神病薬(SGA)による体重増加
はたしてどちらの言い分が正しいのであろうか。
私の結論を言えば、双方の言い分にも耳を傾けねばならないだろうということである。双方とも言いたいことは分かる。双方の指摘にはそれなりの説得力はある。しかし、単一精神病論の方が正しくはなく不適切な部分が明らかに多いように思える。
私は、双極性障害は統合失調症とは全く異なる疾患であると思っている。従って、単一精神病論自体は間違っていると断言したい。しかし、急性期においては、SZもBPDも同じような脳の状態に陥っている可能性があることは否定はできない。では、それはいったいどういうことなのかと言えば、急性期では脳が辺縁系に支配されてしまっており、前頭葉からの辺縁系への制御が効かなくなってしまっている(特に、vmPFCからの側坐核や扁桃体への制御)という、すなわち、脳の接続障害や健常時とは異なるデフォルトモードネットワークの変化が生じているという点で、SZもBPDも急性期では共通の病態(中脳辺縁系のドーパミン・システムの活動亢進)になってしまっている可能性があるということなのである。当然、SZとBPDでは接続障害のパターンは異なるだろうし、デフォルモードネットワークのパターンも異なるのではあるが、辺縁系(中脳辺縁系)の支配の方が優位になってしまっており、前頭葉(前頭前皮質)からのコントロールが効かなくなてしまっているかもしれないという点では共通しているように思えるのである。
脳内の回路は複雑であり、具体的にどことどこの領域の接続が障害されているのかは、まだこれから解明されるのであろうが、その結果、急性期では中脳辺縁系のドーパミン・システムの活動がSZでもBPDでも過剰になってしまっているのかもしれない。SGAなどの抗精神病薬がSZの急性期にもBPDの急性期(特に躁病相)にも効果があるのは、中脳辺縁系のドーパミン・システムの活動が過剰になっている状態を抑えるから効果があるのであろう。ただし、統合失調症と双極性障害の違いは、SZでは前頭前皮質の機能自体も障害されているが(SZでは前頭前皮質の介在ニューロン数自体が元々少ない状態になっている)、BPDにおいてはSZとは異なり前頭前皮質や頭頂葉上部などの病態の認識に関与するような脳の領域の機能自体は障害されていないという大きな違いがあるのではなかろうか。SZでは被害妄想がよく生じるが、それは前頭前皮質が障害されているためであり、躁病では殆ど生じないのはその影響であろう(易怒的、攻撃的になるため被害妄想があるように見えることがあるが、統合失調症の時の被害妄想とは異なり、躁病では易怒的、攻撃的になっているだけである)。
そして、BPDでは病識が獲得できるのは、接続性が回復さえすれば前頭前皮質や頭頂葉上部の機能は障害されていないため、直ちに大脳皮質の機能(現実を正しく認識することに関与している領域の機能)が発揮され始め病識につながるのであろう。しかし、SZでは前頭前皮質や頭頂葉上部などの領域の機能自体が障害されているため、病識が獲得されないケースが多々生じるのであろう。さらに、BPDでは社会機能が落ちていくことは稀であり、社会機能は保たれるのではあるが、SZでは社会機能も低下してしまうケースも多く、その違いは前頭葉(前頭前皮質)の機能が障害されているかいないかの差によるものであろう。おそらく、躁病では腹側被蓋野や側坐核が過剰に興奮しているだけなのかもしれないと私は考えている。
一方、躁病とは逆の、双極性障害のうつ病相では、特に、精神病的なうつ病相では、扁桃体の過剰な興奮があり、前頭前皮質による扁桃体の制御が効かなくなっているものと推測される。SGAがBPDの精神病的なうつ病相にも効果があるのは、SGAが扁桃体の過剰な興奮を抑えるからであろうと私は考えている。
上記のことは、これまでに得られた知見からの私的な仮説に過ぎないのではあるが。
(病態失認に関連する脳の領域と統合失調症との関連性。前頭前皮質、頭頂葉上部などの機能障害が統合失調症での病識の無さと関連している。)
http://www.treatmentadvocacycenter.org/about-us/our-reports-and-studies/2143
http://www.treatmentadvocacycenter.org/about-us/our-reports-and-studies/2098
余談になるが、ADHDでの多動も前頭前皮質からの制御が十分に働かないという躁病の多動と共通したようなメカニズム(接続障害)が存在するのかもしれない。
下のリストは双極性障害の接続障害に関する文献である。双極性障害では前頭前皮質-皮質下領域との接続障害が生じていることを示唆する非常に多くの論文が発表されている(統合失調症に関する文献は省略するが、統合失調症でも同様に接続障害に関する多くの論文が出されている)。
(双極1型障害では中脳辺縁系の活動が活性化されているが、接続障害によって前頭前皮質から中脳辺縁系への制御が障害され、衝動性が高まった状態になっている)
(躁症状は前頭前皮質ー腹側線条体の間の接続障害である。これによって、感情調節不全と報酬感度の上昇が認められる。2014年1月の論文)
http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1784343
(双極性障害では前頭前皮質と皮質下領域との間の同時に並行した接続障害が生じており、特に、vlPFC-海馬-扁桃体という感情処理・感情調節回路の機能不全に陥っている。同時に、vlPFCやOPC-腹側線条体との間の活動亢進、すなわち、報酬系の感度が亢進した状態になっている。2014年3月の論文)
http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=1849816
(双極1型2型障害は伴に、報酬回路の構成要素である腹側線条体の異常に高い活動に影響されている)
http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1784343
(双極性障害では前頭前皮質と皮質下領域との間の同時に並行した接続障害が生じており、特に、vlPFC-海馬-扁桃体という感情処理・感情調節回路の機能不全に陥っている。同時に、vlPFCやOPC-腹側線条体との間の活動亢進、すなわち、報酬系の感度が亢進した状態になっている。2014年3月の論文)
http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=1849816
(双極1型2型障害は伴に、報酬回路の構成要素である腹側線条体の異常に高い活動に影響されている)
(双極性障害は腹側前頭前皮質と辺縁系との接続障害であり、腹内側前頭前皮質-線条体-淡蒼球-視床-辺縁系{特に扁桃体}というネットワークの制御が障害されている)
(双極性障害は報酬回路+感情処理回路の調節不全である。その結果、中脳辺縁系経路内の神経伝達が過剰になっている)
(腹側被蓋野{VTA}は、統合失調症、うつ病、双極性障害などの精神疾患に関係している。内側前頭前皮質mPFC、特にvmPFCがドーパミン系の微調整をしており、VTAや側坐核を介するドーパミン系への調節が精神疾患に大きな影響を与えている)
http://www.pnas.org/content/110/11/4165.full
(側坐核の微細構造の変化は、再発性躁病エピソードに関連している)
(側坐核の微細構造の変化は、再発性躁病エピソードに関連している)
(側坐核への脳深部刺激によって一過性の躁病様エピソードが誘発される)
(うつ病は辺縁系に属する扁桃体の過剰な活性化が原因であり、前頭前皮質による扁桃体の制御が失敗している状態である)
(躁病における行動賦活システムについて)
接続障害としては同じような病態に陥っているのかもしれないが、やはり単一精神病論は間違っていると言えよう。双極性障害では、あくまで、ある時期、すなわち、急性期においてのみ、統合失調症と似たような脳内の優位性(=辺縁系が優位になっている)が生じているだけであり、それが単一精神病論を信じている方々には全く同じものに見えてしまうのであろう。しかし、接続障害のパターン自体はSZやBPDでは異なるし、デルトモードネットワークのパターンも異なるのである。さらに疾患自体の経過も異なり、予後も異なるし、病識の獲得度合も異なるし、そもそも反応する治療薬も異なるのである。1つの例を挙げれば、リチウムでBPDは寛解にまで達する人も多々いるが、SZではそういったことは全くない。その理由を説明せよと言っても、単一精神病論では全く説明できないのである。リチウムはBPDのファーストチョイスになり得ても、SZのファーストチョイスにはなり得ないのである。他にも、抗てんかん薬のバルプロ酸で躁病は改善するが、SZの妄想や幻覚は改善しないのである(SZでもバルプロ酸は効果はあるが、攻撃性亢進・易怒性亢進などの気分感情症状しか改善しない)。
(リチウムは側坐核の機能不全を改善する)
<私の単一精神病論への感想>
昔の単一精神病論は、簡単に言えば、全ての精神疾患は皆、同じである。狂っているか狂っていないか、治るか治らないか、そんなレベルの暴論だったのですね。よくもまあ、そんな暴論を現代に甦らせようとしていますね。それに、グリージンガーが単一精神病論の信者によってよく持ち出されるのですが、グリージンガーは確かに精神病は脳病である、時期によって症状が異なると言ったのですが、脳の疾患であるとしか言っておらず、決して単一(同一)だなんて言っていないようにも思えます。そもそも、クリージンガーが精神病は脳病だと唱えた当時は、統合失調症や双極性障害の疾患概念すらなかった時代ですからね。統合失調症と双極性障害を同じ疾患だと考えていたことには決してなりません。それに、グリージンガーは一次性(内因性、脳が原因)、二次性(心因性)といった区別もしていたようでもあります。しかし、今の単一精神病論はグリージンガーですら分けて考えていたと思える一次性、二次性といった考え方、すなわち、心や心理を、そういった人間を人間ならしめている大切なものである心のプロセスまでをも全く無視してしまっているような暴論のようにも思えますね。DSMが神経症を否定してしまったことと全く同じことです。
うつの人でも追い込まれたような状況になれば心理プロセスが変化して被害的に考えるようになることは十分にあり得るでしょうし、逆に、統合失調症の人でも状況によってはうつ的な心理状態に陥ることは十分にあり得るからです。二次的(心理的)に生じるうつや妄想的な思考は十分にあり得る症状だと思えますが、それをBPDやSZと同じものにしてしまうのはいかがなものかと思います。心理的な心因的な要因で生じる感情の不調は統合失調症や双極性障害とは異なります。誰にでもなりうるものです。そういう点からも単一精神病論は否定されます(単一精神病論を唱えている方々は、そういった心理面をあまり重要視しないタイプのドクターなのかもしれませんが)。単一精神病論を唱えている方々は、製薬会社とズブズブの関係なので、製薬会社に有利な単一精神病論を唱えているのではと私は怪しんでおります。
(この下の精神医学史の解説はためになります。一読することをお勧めします)
(この下の解説には私が言いたいことと同じことがたくさん書いてあります。これも一読することをお勧めします)
単一精神病論を今唱えているドクター達に言いたい。とにかく単一精神病論は双極性障害の患者さんに対して失礼ですよ。おまけに、「単一精神病」といった統合失調症(SZ)も双極性障害(BPD)も一色単にしたような表現は適切ではないと思えます。もう少し違う表現をされた方がいいんじゃないでしょうか。同一だと主張するのであれば、二つの病名を合体させて、統合失調症感情障害といった表現にすべきです。しかし、統合失調感情障害(Schizoaffective Disorders、ここではSDと略する)という疾患概念が既にあります。SZやBPDのどちらにも診断できないような両者の症状が同時に存在しているようなケースです。日本ではそれを非定型精神病と呼んだりしていましたが、非定型精神病は統合失調感情障害という病名が今では使用されています。統合失調感情障害は、DSMだけでなく、ICD10でもF25というコード番号が与えられて病名としても存在します。SZとBPDをどうしても同じ疾患にしたいのであれば、いったんSZもBPDも統合失調感情障害にひとまとめにしてから統一すべきですね。どうしてもそうしたいのならば、最終的には統合失調感情スペクトラム障害や精神病スペクトラム障害とかにしたらいいのです。
(精神病が連続体・スペクトルであるなどとは科学的に全く証明されていない)
http://bjp.rcpsych.org/content/197/6/423.full
http://bjp.rcpsych.org/content/197/6/423.full
しかも、従来から統合失調感情障害も、SD=SZ+BPDとは理解されてはいませんでした。SDはSZともBPDとも違う別種の疾患だろうと考えられていたのです。その考え方は、昨年改定されたDSMー5でも保持されました(改定作業の段階でいろいろな議論がなされたようではありますが)。さらに、現在の診断法(ICD-10)では、精神病症状を伴う躁病(BPD)という診断をすることも可能になっているのです(その逆の感情症状を伴うSZという診断をすることも可能)。結局、単一精神病論は、現在の精神医学の疾患概念(ICD-10)や診断の在り方を全く無視して否定したような暴論だということになります。
(SZ、BPD、SDの間には生物学的な境界がある)
確かに既にSZやBPDに共通した疾患候補遺伝子が数多く報告されています。しかし、遺伝子が100%共通している訳ではありません。何%くらいが共通すると見積もられているのでしょうか。100%ならば単一だと断言してもいいと思えますが、とにかく100%ではないというデータが提示されています。まず、そこから説明しなければなりません。
(ここで、論文調に文体を戻します)
昨年度のNatureに、各精神疾患の遺伝子異常が各々の精神疾患の間でどのくらい共通しているかを家系における遺伝子の浸透率などから見積もって推測した研究論文が発表された。簡単に言えば、SZとBPDで同じSNPを共有する%(オーバーラップする程度)を計算した論文である。論文では、親がSZのSNPを有している場合の子供がBPDを発症するリスクなどが述べらている。まず、その論文を紹介したい(この研究は20カ国、80の研究センター、300人以上の科学者が参加した非常に大規模なスタディである)。
(PDFファイル。全文が見れる)
(表)
(NIMHによる論文の内容の説明)
このNatureの論文によれば、一般的な遺伝子変異に起因する遺伝の重複率は、統合失調症(SZ)と双極性障害(BPD)との間では約15%であり、BPDと大うつ病(MDD)では約10%、SZとMDDの間に約9%でありあり、SZと自閉症では約3%であった(下図)。統合失調症と双極性障害ではわずか15%しか疾患遺伝子は重複していないのである。一方、2つの疾患に共通すると思われるSNPsに限定して算出したSZとBPDが相関する係数(rgSNP)は0.68であった(下表)。もし、単一な疾患であるならば、共通するものに限定したSNPsならば100%相関(共有)することになるのだが、0.68という数字は100%共通するはずだと思われるSNPの7割弱しかSZとBPDでは実際に共通(共有)していないものと推測される。この所見は、一般的な遺伝子変異の場合も含めて、SZとBPDは同一の疾患ではないことを意味する数字であり、SNPsに限定した場合でも単一精神病論は否定されるものだと言えよう。論文では触れらてはいないものの、共有されていない方の遺伝子にこそ、その疾患の本質が隠されているのかもしれないと私は考えている。我々精神科医は、共通していることばかりに眼が行きがちになるのではあろうが、逆に、SZとBPDで共通していないと思われる部分も多く、SNPの場合に限っても3割以上もある訳であり、もっと共通していない部分にも眼を向けていかねばならないものだと言えよう。すなわち、双極性障害では病識や社会機能などが保たれていることなどにもっと眼を向けていかねばならないのである。

なお、余談になるが、この論文では、SZ、BPD、大うつ病(MDD)、自閉症(ASD)、ADHDの5つの精神疾患同士の共通するSNPに限定したrgSNPも調べられており、SNPの共有度合が高い疾患の組み合わせとしては、SZとMDDが0.43、BPDとMDDが0.47、ADHDとMDDが0.32という結果であった。逆に、SNPの共有度合が低かった組み合わせとしては、SZとASDが0.16、SZとADHDが0.08、BPDとASDが0.04、BPDとADHDが0.05、MDDとASDが0.05、ASDとADHDがー0.13(マイナスは共有性が全くないという意味であろうか)という結果であった(下の表を参照)。従来の報告からは髙い数字が得られることが予想されたSZとASDのSNPの共有度合が低く出たのは、SZとASDは本質は別々の疾患であるのかもしれないが、ASDのサンプル数の少なさに起因するものなのかもしれないと述べられている。
次に、多因子遺伝疾患の場合は、各々の遺伝子がその疾患に及ぼす寄与率(優先順位)などが必ず関係してくる。この点についても触れておきたい。例えば、CACNA1C、DISC1、ANK3、NRG1、PAK1という5種の遺伝子がSZとBPDで共通しているとして、SZにおける寄与率は、NRG1>DISC1>PAK1>CACNA1C>ANK3であり、BPDではANK3>CACNA1C>PAK1>DISC1>NRG1だとすれば(これは仮定の例ですが)、疾患に寄与する程度の順番が全く違うためこの観点からもSZとBPDは同じだとは言えなくなろう。
こういった寄与率の考え方に近いものを見積もって分かり易くピラミッドに図式化している研究者のグループがある。インディアナ大学精神科のグループが行っているCFG解析(Convergent Functional Genomics)と呼ばれるものである。インディアナ大学精神科のHPのよれば、そのピラミッドは下図のようになる。このピラミッドを見れば、SZもBPDも遺伝子の優先順位は全く異っており、同一の疾患ではないことが分かる(ただし、このピラミッドはデータが古くなってきており、改定版の表示が待たれる)。
最後に、単一精神病論で一番問題となるのが、薬物療法への影響である。
入院が必要な程の躁病ならば急性期におけるSGAの使用も必要になろうが、単一精神病論では、軽度や中等度の躁病においてもリチウムやバルプロ酸が試されることなく、いきなりSGAが処方され、以後、ずっとSGAを飲み続けなければならなくなるケースが出てくるものと思われる。私はこれを、「とりえあえず」SGA療法、「これからも」SGA療法と呼んでいるが、躁病へのこういったやり方は非常に危険な治療になるのではなかろうか。
入院が必要な程の躁病ならば急性期におけるSGAの使用も必要になろうが、単一精神病論では、軽度や中等度の躁病においてもリチウムやバルプロ酸が試されることなく、いきなりSGAが処方され、以後、ずっとSGAを飲み続けなければならなくなるケースが出てくるものと思われる。私はこれを、「とりえあえず」SGA療法、「これからも」SGA療法と呼んでいるが、躁病へのこういったやり方は非常に危険な治療になるのではなかろうか。
まずは、SGAの副作用(肥満や代謝障害)が問題となる。SGAによる治療のメリットが肥満や代謝障害のリスクを上回ると言えるのであろうか。もし、軽度や中等度程度の躁病ならば、リチウムやバルプロ酸を内服していたら肥満や代謝障害にならずに良くなったのかもしれないのである(ただし、リチウムやバルプロ酸でも体重増加の報告はあるが、私の経験からはSGA程の強い増加はないように思える)。肥満になったらやせるのは大変である。高脂血症や糖尿病のリスクも高まる。自分が信じている宗教のせいで、逆に、肥満という苦しみまでをも患者さんに与えてしまうことになるのが単一精神病論なのだと言えよう。
(向精神薬による体重増加はSGAでその傾向が強くなっている)
http://europepmc.org/abstract/MED/16389718
(SGAにおける体重増加や代謝障害)
http://europepmc.org/abstract/MED/17539694
(リチウムでの体重増加)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1600-0447.1976.tb00067.x/abstract;jsessionid=00B307BEBB2735650D065383D17DFBA9.f02t02?deniedAccessCustomisedMessage=&userIsAuthenticated=false
(バルプロ酸での体重増加)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6435386/
(向精神薬による体重増加はSGAでその傾向が強くなっている)
http://europepmc.org/abstract/MED/16389718
(SGAにおける体重増加や代謝障害)
http://europepmc.org/abstract/MED/17539694
(リチウムでの体重増加)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1600-0447.1976.tb00067.x/abstract;jsessionid=00B307BEBB2735650D065383D17DFBA9.f02t02?deniedAccessCustomisedMessage=&userIsAuthenticated=false
(バルプロ酸での体重増加)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6435386/
次に、製薬会社が宣伝するのが、SGAの方が早く良くなるのだという点である。そんなに大きな差があるのだろうか。もし、数日~1週間程度の差であるのならば、その躁症状の消退の速さのメリットはSGAよる肥満や代謝障害のリスクを上回るのであろうか。SGAの方が改善のスピードが早いとするデータがある反面、改善の速さや改善度合いには差はないという報告もある。しかし、副作用は圧倒的にSGAの方に多く報告されているのである。
http://psychopharmacologyinstitute.com/antipsychotics/olanzapine/olanzapine-indications-fda/
そのため、SGAは単独での使用よりも、リチウムやバルプロ酸との併用が推奨され、急性期を過ぎたらSGAを中止するという方法を推奨する論文もある。私は、SGAは、重度の躁病や、リチウム+バルプロ酸に反応しないケース、統合失調感情障害のケースにおける使用に限定している。古臭い治療方法だと言われようが、軽度や中等度の躁病ではSGAは使用はしない。なお、個人的には躁病と診断したケースで、リチウム+バルプロ酸での維持療法に持っていけなかったケースは全くない。統合失調感情障害ではない純粋な躁病(双極性障害)であれば、ラピッドサイクラーを除き、リチウム+バルプロ酸で維持できるはずである。
では、国際的な躁病へのガイドラインはどうなっているのであろうか。いろいろなガイドラインを分析した結果は、以下のようにであった。躁病相の急性期治療や維持療法には 、伝統的な気分安定化剤(traditional mood stabilizers、リチウムやバルプロ酸)、非定型(第二世代)抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール)が使用されるべきである。全てのガイドラインにおいて、躁病相では抗うつ薬を中止すべきとされている。国際ガイドラインはいくつかの違いが存在する。1つ目は、単独療法では、しばしば十分な効果が出ないことがあるため、重症のケースではファーストラインの治療として、伝統的な気分安定+SGAとの併用療法を行うか、または、セカンドラインの治療としてSGAの併用療法を行うかである(最初から併用するかしないかの違い)。2つ目は混合性のエピソード(精神病症状を伴うような躁病エピソード)の治療に関してはまだコンセンサスが一致していないということである。混合性のエピソードの治療では、ファーストラインの第一選択薬はバルプロ酸、カルバマゼピン、SGAとされているが、リチウムを使用すべきかどうかに関しては意見が分かれている。さらに、治療期間がどのガイドラインでも不明なままである(薬物療法をいつまで行うのかが明記されていない)。以上のようになっており、SGAがベストのファーストラインだとは指定されてはいないのである。
次に、維持療法においては、リーマスなどのSGA以外で維持した時と、SGAで維持をした場合では差があるのであろうか。この点に関しても触れておかねばならない。
エビリファイVSリチウムの場合では、維持療法における最終的な効果の差はないようであり、躁病において特にエビリファイがリチウムよりも維持する上で優れているとは言えないようである。
エビリファイVSリチウムの場合では、維持療法における最終的な効果の差はないようであり、躁病において特にエビリファイがリチウムよりも維持する上で優れているとは言えないようである。
(3週目の時点での躁病の症状の軽減度においても、エビリファイは他の薬剤と比べて統計学的な有意差はなかった)
(躁病の急性期や躁病相の予防においてはエビリファイは優れているが、双極性うつ病の急性期や、維持療法におけるうつ病相の予防においては、エビリファイは優れているとは言い難い)
(エビリファイは双極1型障害の躁病相の急性期においてはファーストラインとして推奨されるが、躁病相の維持療法においては、ファーストラインになり得るかは、まだ、何とも言えない)
なお、エビリファイの躁病への使用を否定することを目的として書いている訳ではないため、エビリファイを推奨する論文もあることを付け加えておく。
(エビリファイは、躁病や混合性エピソードの急性期治療だけでなく、予防・維持期でも効果的な薬剤だと言えよう)
(エビリファイを併用した方がリチウムやバルプロ酸単独の場合よりも再発防止効果が向上した)
次に、ジプレキサではどうであろうか。下の論文は、これまでのジプレキサの双極性障害の維持療法における報告を分析したものである。その結果は以下のようであった。ジプレキサ単独でも他の薬剤(リチウム)などと組み合わせた場合でもプラセーボとの有意差は示されなかった。ただ、プラセーボよりは好ましいだろうという結果でしかなかった。さらに、再発防止効果は他の薬剤との比較でも有意差はなかった。リチウムとの比較では躁病相を予防する効果の比率はジプレキサでは向上していたが、その反面、ジプレキサには体重増加とうつ症状の惹起という不利益な比率が増加していた。この論文の著者は、維持療法ではリチウムがファーストラインであると述べられている。
オーストラリアの双極1型と統合失調症感情障害のコホート調査(24ヶ月)でも、ジプレキサと従来の気分安定化剤との間には有意差はなかった(下図)。ただし、オランザピンにて処方はシンプルにはなるようである。しかし、この論文では体重増加などの有害事象は全く評価されてはいない。そして、この論文の著者はイーライリリー社からの資金提供を受けていた。
(ジプレキサは、日本人患者の躁病における18週間の忍容性は良好であった)
(ジプレキサはリチウムやバルプロ酸に反応が乏しいケースでの躁病への使用としては非常に有益である)
双極性障害へのSGAではセロクエルがベストだと推奨する論文もある。
(気分安定化剤との併用で一番優れているSGAはセロクエルである)
以上の観点をまとめると、維持療法においてはSGAの方が優れているということは決してないと言えよう。維持療法では副作用が少ない薬剤の方が優先的に使用されるべきである。もし、SGAがリチウムやバルプロ酸よりは副作用が多いのであれば、そして再発防止効果が同じであるならば、SGAを維持療法として使用することは問題となろう。私は、代謝障害や体重増加といった観点からはSGAで維持することは推奨され得ないと考えている。可能な限り、リーマス、バルプロ酸、といった伝統的な気分安定化剤だけで維持することが望ましいのではなかろうか。
リチウムは代謝障害のおそれもなく、血中濃度がモニターでき(SGAでは血中濃度のモニターができない)、抗炎症にも作用し、薬剤費も安く(下図)、私には長期に内服するのであれば、リチウムの方が望ましいようにも思える。ただし、血中濃度の変化には注意する必要があり、大量に服薬された場合は非常に危険であり、半減期がやや短いため1日に2回以上の投与が望ましいことや(半減期は約10時間)、腎臓や甲状腺への悪影響(甲状腺機能低下症を招くことがある。ただし、血中濃度が適正値で維持されていればその恐れは非常に少ない)、作用機序が未だに良く分かっていない、など、一長一短は存在する。私は病院で勤務しているため、採血はルーチンで行えるため、血中濃度がモニターできる薬剤の方を好むのではあるが、SGAが好まれる理由としては、1日1回投与が可能なことや、クリニックによっては検査ができないなどの点からSGAの方が好まれるのかもしれない(クリニックでも検査をすべきであり、検査体制を整えておくことが好ましいことは言うまでもないが)。
(リチウムはアラキドン酸カスケードを介した抗炎症作用を発揮し、CNSに対して二重の神経保護作用を発揮する)
(リチウムの甲状腺への影響)
そして、SGAなどの抗精神病薬で維持療法を行うと大きな落とし穴が待ち構えていることにも注意せねばならないであろう。
1つ目は、ドーパミンD2受容体をブロックし続けることにより、D2受容体の親和性が変化して(D2highの比率が増える)、D2受容体のパラドックスが生じることである。以前、千葉大学が発表した論文のデータによればエビリファイではこのパラドックスは生じないようにも思えるが、ジプレキサでは生じることであろう。しかし、エビリファイでも24mgをいきなり中止すれば生じるとも限らない。なお、トロント大学のデータではエビリファイもD2highを増やしてしまうような結果が示されている(D2の受容体自体の数は増やさないが)。どちらが正しいデータかはまだ不明であるが、エビリファイでも高用量で維持されればどうなるかは分からない。もし、D2受容体のパラドックスが生じている状況でいきなりSGAを中止したらどうなるか。恐ろしいことに、初発時よりも再発のリスクが高まっており、精神病症状をも呈しやすくなっており、初発時よりも重度の病状で躁病相が再発してしまう可能性があリ得るのである。
(エビリファイもD2受容体のアップレギュレーションを引き起こす。2013年9月に出された論文。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24045880
(エビリファイもD2highの比率を増やす。トロント大学。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18792990
(エビリファイもD2受容体のアップレギュレーションを引き起こす。2013年9月に出された論文。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24045880
(エビリファイもD2highの比率を増やす。トロント大学。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18792990
2つ目は、脳そのものへの悪影響である。すなわち、中枢神経系への悪影響により、脳の容積が減少していってしまう恐れがあることである。既に、この懸念を指摘する論文がいくつか出ている。半年~1年くらいならば大きな悪影響はないのかもしれないが、もし、数年も飲み続けた場合はどうなるかは分からない。さらに、こういった有害事象により、認知機能(病識)や社会機能までもが低下していってしまう恐れがある。
(昨年度に発表された平均7年間の抗精神病薬の脳の容積への影響を見た論文。抗精神病薬の長期使用による脳の容積の減少が再発に関係しているおそれがある。抗精神病薬の維持療法は可能な限り低用量で行われるのが望ましいと結論付けられている。)
http://psychcentral.com/news/2013/09/12/loss-of-brain-tissue-in-schizophrenia-tied-to-antipsychotics/59443.html
(その他の文献。雑誌Natureでのニュース記事など。抗精神病薬を健常者に1回投与しただけでも脳がびっくりして縮み上がってしまった。)
http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=211084
http://www.nature.com/news/2011/110207/full/news.2011.75.html
http://www.nature.com/news/2010/100606/full/news.2010.281.html
(関連ブログ2013年4月13日 SGAは脳を守らないのかもしれない)
(その他の文献。雑誌Natureでのニュース記事など。抗精神病薬を健常者に1回投与しただけでも脳がびっくりして縮み上がってしまった。)
http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=211084
http://www.nature.com/news/2011/110207/full/news.2011.75.html
http://www.nature.com/news/2010/100606/full/news.2010.281.html
(関連ブログ2013年4月13日 SGAは脳を守らないのかもしれない)
上記の2つの重要な問題点は単一精神病論を唱える医師達には無視されてしまっており、それでいいのかと私は思う。これらの懸念事項は双極性障害を抗精神病薬(SGAを含む)で維持していく根拠を否定するデータだと言えよう。
<結論>
単一精神病論を言い訳にした、「とりえあえず」SGA療法、「これからも」SGA療法は、不必要な抗精神病薬の長期使用を招く危険な療法である。
(ここで再び文体をソフト調に戻します)
もし、あなたの主治医がバリバリの単一精神病論の信者であった場合は、最悪の場合は、リチウムなどの気分安定化剤で十分に維持療法が可能だったにも係らず、SGAが処方され続け、肥満となり、代謝性障害を併発し、D2パラドックスのために重度の状態で再発し、数年後には脳の容積まで萎縮してしまい、以前は保たれていた病識までなくし、社会機能まで低下し、社会からドロップアウトしていくという悲劇的な話にならないとも限りません。
当院でも、以前は、病識も社会機能も保たれていたように思える双極性障害の患者さんで、再発を繰り返すごとに、病識がなくなり、社会機能が落ちていってしまった人を何名か知っています。全て私以外の主治医のケースですが、急性期を過ぎた後でも抗精神病薬が使われていたように思えます。その方の疾病本来の経過なのかもしれませんが、抗精神病薬の長期使用の影響も否定はできないでしょう。
双極性障害と診断されたケースに抗精神病薬が長期に使用され続け、急性期の病状が重症化していき、病識や社会機能も低下していき、社会から脱落していったケースが実際にどの程度存在するのかといった全国的な調査が必要なようにも思えますが、そのような金にはならない調査はたぶん行われることはないでしょう。
当院でも、以前は、病識も社会機能も保たれていたように思える双極性障害の患者さんで、再発を繰り返すごとに、病識がなくなり、社会機能が落ちていってしまった人を何名か知っています。全て私以外の主治医のケースですが、急性期を過ぎた後でも抗精神病薬が使われていたように思えます。その方の疾病本来の経過なのかもしれませんが、抗精神病薬の長期使用の影響も否定はできないでしょう。
双極性障害と診断されたケースに抗精神病薬が長期に使用され続け、急性期の病状が重症化していき、病識や社会機能も低下していき、社会から脱落していったケースが実際にどの程度存在するのかといった全国的な調査が必要なようにも思えますが、そのような金にはならない調査はたぶん行われることはないでしょう。
単一精神病論の基で成される薬物療法では、こういった罠が待ち構えていないとは言い切れないのです。そういった観点からも単一精神病論は否定されるべき危険な理論でありましょう。
内服するのはあなたです。薬剤の選択においては、たとえ主治医が単一精神病論者であったとしても、医師と患者が良く相談をして決定されるべきです。薬剤の決定はSDM(shared decision making)の基になされるべきです。もし、主治医が患者とのSDMを全くしないようなドクターであるのならば、通院先を変更された方が良いのかもしれません。
最後に、余談になりますが、雑誌Lancetに疑惑の抗うつ剤のランキングを発表したイタリアの研究グループが、懲りずに抗躁薬のランキングも出しております。そのランキングによれば、なぜかベスト3は、リスペリドン、ジプレキサ、ハロペリドールという順になっています。この論文にも疑惑があります。前回の抗うつ剤と同様に、短期間(3週間)のデータしかメタアナリシスをしておらず、しかもメタアナリシスであるため、自分が推薦したい薬がベスト3になるようにデータを自由に取捨選択している可能性もあるのです(そのようなことはないと信じたいのですが)。ベスト3に何がしかのSGAが来るのは分からないなくもないのですが、ハロペリドールやリスペリドンがベスト3に来なければいけないのかは疑問であり、納得し難い論文です。こういったランキングは無視しても良いでしょう(確かに、急性期に限って言えば、ジプレキサは躁症状を抑える効果は髙く、エビリファイよりも鎮静作用も期待でき、アカシジアもエビリファイよりは少ないため、入院が必要な躁病のケースには有効だとは思えます。この論文が2位に指名したように、重度の躁病の方は1か月間くらいは我慢して何らかのSGAを飲んで頂いた方がトラブルを起さずに躁病相が終了して良いと言えるのかもしれませんが)。
(上の論文のPFDファイル)
双極性障害では、ドーパミンは、おそらく、最下流に位置し、その上流にはグルタミン酸が位置し、その上流にはイオンチャネルが位置するのかもしれません。下流に位置するドーパミンばかりを阻止しようとしても、上流の源の病因へアプローチしない限り完全に制御することができないことも考えられます。昔から使用されていたリチウムや抗てんかん薬はイオンチャネルという最も上流の病因にアプローチしていた治療だったのかしれません。現在では、双極性障害の治療にはSGAばかりが注目されていますが、それでいいのかを見直してみる必要があるのではないでしょうか。
(関連ブログ2014年3月9日 双極性障害はイオンチャネル疾患である)
(なお、春休みを取るためゴールデンウィーク明けまでブログは休みます)
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