2014年04月13日

過酷なシーズンが改めて幕を開けた

 55分過ぎ。負傷のため足を引きずり始めた角田に代えるために、ベガルタは武藤がスタンバイしていた。
 ベガルタは中村俊輔のミスパスを拾って梁がドリブルで速攻を仕掛けたものの、小林祐三の素早い帰陣により攻め切れず遅攻に切り替える。そして、最後尾に引いた角田がドリブルで持ち上がり、梁を狙いクサビを入れる。しかし、足を痛めていたため、踏み込みが甘く、中町?にカットされてしまう。逆襲速攻を食らいそうな、「イヤな」取られ方だった。しかし、富田が落ち着いてディレイ、他のベガルタのフィールドプレイヤは素早く帰陣、全員が的確な距離感をとった守備網を早々に築く事に成功した。

 安堵しました。

 この場面は、ベガルタの組織守備が帰ってきた事を如実に示すものだった。久々の勝利は本当に嬉しかった。しかし、もっと嬉しかったのは、試合内容だった。J1の中で必ずしも戦闘能力が格段とは言えないベガルタが、この厳しいリーグで戦い抜くためには、組織的守備を機能させるしかない。それが帰ってきたのだから。
 組織守備と言うと、選手がロボットのように固定した位置取りをするかのような表現をする向きがいるが、サッカーは常に相対的で流動的。重要なのは、選手が常に頭を働かせて適切に位置取りを修正し続ける事。そして、味方のカバーリングを信頼して、厳しい当たりをする事だ。敵の得意とする攻撃を出させないために、先方の中心選手を厳しくマークするのも当然の事だ。そして、ベガルタはそれを徹底する事で、かつて予想もしなかった好成績を収める事ができた。
 ところが、その組織守備が、ここ最近完全におかしくなっていた。それを就任後僅か数日で修正に成功した渡邉新監督の手腕は「お見事」としか言いようがない。選手達の動きが生き生きと戻っていた。長きに渡り、手倉森氏のコーチングスタッフとして機能していたからと言って、それだけでこの短期修正が叶うものではない。渡邉氏はよほど怜悧な目でチームの現況を見極めていたのだろう。このような人材を抱えていた事そのものが、ベガルタ仙台と言うサッカークラブの勝利だった事になる。
 一方で、これだけ短時間での修正に成功した事は、皮肉な事に前監督アーノルド氏が相応に適切な指導をしていた事の証左でもある。いくらベテランで経験豊富な選手達とは言え、キャンプイン以降芳しくない指導を受けていたとすれば、渡邉氏はここまで短期に修正はできなかったはずだ。思い起こせば、3節のガンバ戦では、非常に質の高いサッカーの片鱗を見せていた。ところが、続くアルディージャ戦で攻撃志向を強めたところ、守備ラインにあり得ないようなミスが続いて大量失点を重ねた事もあり、完全に狙いが狂ってしまっていた。前節のレッズ戦は、最近とみに単身突破に猛威を振るうようになっている原口へのケアを怠り、中盤で強力な守備力を誇る阿部がいるにもかかわらず正面から強引に攻めかけようとして、守備が崩壊してしまった。崩壊そのものも悲しかったが、後半半ばにアーノルド氏自身が戦意を喪失してしまい座り込んでしまったのだから残念だった。
 長期のリーグ戦の序盤戦で重要なのは目先の勝ち点を積む事ではない。よい内容の試合ができるようにチームを磨き上げる事だ。アーノルド氏はAリーグで豊富な実績を誇る監督だった。しかし、海外での指導経験は初めてとの事。約3ヶ月に渡り丹念に積み上げてきた指導だったが、「勝利」と言う結果が思うように出ない状況で、目先の勝利を拾おうとするあまり、迷走に落ち込んでしまった。

 渡邉氏は、就任後僅かの準備で、よい内容の試合ができたのみならず、勝ち点3の獲得にも成功した。正直言って、レッズ戦の内容があまりに酷過ぎたので、何がしかの修正を加えれば内容が相応に好転するのは、そう難しい事ではないと思っていた。しかし、想像以上の内容好転に加え、セットプレイをうまく活かして赤嶺が久々に猛威を振るった事で勝ち点3もしっかりと獲得できた。まことにめでたい事だ。
 けれども、「勝ち点3を獲得できた」と言っても、それだけの事だ。元々、豊富な運動量が戦いの基盤となり、さらに平均年齢も高くなっているチーム。毎年、夏季には調子を落とす傾向があり、春先の貯金が重要だった。今年はそれがない。加えて、若手選手が伸びてきていない実情も変わっていない。
 今シーズンはJ1残留が現実的な目標となるかもしれない。そして、そのために渡邉氏がやらなければならない事は無数にある。マリノス戦で取り戻せたように思える組織守備の定着。元々得意と言われていた速攻やセットプレイの交通整理。速攻が利かなくなった場合の遅攻の段取り。若い選手の積極的起用。これらの厄介な仕事をやり切る事が決して容易ではないのは言うまでもない。
 「過酷なシーズンが改めて幕を開けた」と言う事だろう。まこと、サポータ冥利に尽きるシーズンである。
posted by 武藤文雄 at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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