さらには、「強制連行」や「レイプ」などを著書で主張し証言していた吉田清治氏の発言を繰り返し掲載していたことについて聞いた。吉田氏は1996年以降、自身の回想が創作を交えたものだったことを認め、研究者による検証でも「強制連行」が事実に反することがわかっている。それが判明したのだから、吉田証言を掲載した記事は誤報と認めるか、事実確認のための検証チームなどを作ったか、という質問だ。
質問を送って2日後の3月13日、朝日新聞広報部は面談による取材ではなく、文書で回答を寄せた。全文を掲載する。
〈お尋ねの件に限らず、個々の記事の取材や掲載の経緯についてはお答えしていません。読者にお伝えしなければならないと判断した事柄は当社の紙面や電子版などを通じて報道することが当社の基本姿勢です。貴誌の様々な主張について、当社の考えを逐一お示しすることはいたしかねます〉
個別の質問には答えず、役所のような文言のファクス1枚の回答だった。各質問は本誌の主張ではなく、歴史的事実と異なる報道そのものを問うているのに、なぜこんな回答なのか。
広報部担当者に電話の上、各質問について問うと、「お送りした回答がすべてです」と数十回にわたって繰り返した。電話の中で、当方の質問に約18分にわたって沈黙して考え込むこともあり、やりとりは1時間以上に及んだが、結局「取材や掲載の経緯については答えない」の一点張りだった。
現在の広報担当者は当時の記事に携わったわけではないから、上層部の指示に従って役人的に回答するしかないのかもしれないが、少なくとも報道機関としての責任を果たそうとする態度ではない。
【*注】質問状では敬語を使い、また記事内容などを詳しく記したが、ここでは主旨を変えない範囲でわかりやすく改めた。
※SAPIO2014年5月号