これまでの放送

2014年4月6日(日)

“女性が消える社会”いま何が

近田
「『DATAFILE.JPN』。
データから、今、日本で何が起きているかが浮かび上がります。
『おはよう日本』では、人口動態調査などのデータを読み解き、社会の実相を明らかにするシリーズをネットとも連動してスタートします。」


和久田
「第1回のテーマは、『女性が消える社会』。
いったい、何が起きているのか。
まずは、こちらのデータからご覧ください。
こちら、皆さんもよくご存じの出生数の減少を示すデータです。
第2次ベビーブーム以降、右肩下がりが続いて、人口減少に歯止めがかからない状態が続いています。
では、これを別の角度から見ます。

こちらは全国47都道府県ごとの出生率を示したものです。
グラフが短い上の方ほど出生率が低いことを意味しています。
見てみますと、東京や京都、北海道も含まれていますが、埼玉、神奈川と、主に都市部で低く、そして地方では比較的高い傾向にあります。
つまり、都市部以外の比較的高い出生率が、人口を下支えする構造になっていると指摘されてきました。
ところが、この状況が崩れかねないという予測があるのをご存じでしょうか。」

近田
「20代から30代、つまり出産・子育ての中心となる女性の人口が、今から26年後、2040年の時点でどうなっているかという推計です。
オレンジ色に光っている自治体。
この世代の女性が半分以下に減ってしまうと推計されています。
こうして地方の女性が減りますと、少子化に、いっそうの拍車がかかりかねません。
こうした自治体の数、373にも上ります。
今、何が起きているのか。
それをこちら、静岡県伊豆市で見てみます。」

地方で女性が急減 いったい何が…

日本有数の温泉地・静岡県伊豆市。
ここも今、人口減少に直面。
「危機宣言」を出しています。
駅前で話を聞くと、最近、特に深刻なのが…。

住民
「若い(女の)人いない。」

住民
「本当に若い女の子いない。」

「ママ友とかに会う?」

住民
「ないですね。
(子どもが)小学校に上がってから全くない。」

20代、30代の女性が急激に減少。
この10年で1,000人以上、3割近く減ってしまいました。

伊豆市商工会 松本幸次事務局長
「最大の要因は雇用の事業先がかなり減ったこと。」




地元の商工会の分析です。
伊豆市の若い女性。
以前は、周辺にある工場や百貨店などに通って働いてました。
しかし、相次いで縮小、撤退。
女性の主な働き先となっていた小売・卸売業や製造業の従業員数は、全体で20%減りました。
その結果、多くの女性が東京などで職を見つけ、仕事がない地元には戻らなくなっていると見られています。

伊豆市商工会 松本幸次事務局長
「大学を卒業しても働く場がなかなか見つからない。
帰って来ないという現象がここのところ続いている。」

就職活動中の女性に聞きました。
静岡県内の大学に通う鍵山ももさん。
百貨店やホテルでの就職を希望しています。
しかし、伊豆市の自宅から通える範囲では求人が見つからず。
あきらめて首都圏の企業を回ることにしました。

鍵山ももさん
「地元に帰ってきても仕事がないとなると、暮らしていけないので難しい。」

一方、こちらは伊豆市を出て、東京の企業で営業事務の仕事をしている植木美里さん。
地元に戻ることは考えられないと言います。

植木美里さん
「地元に帰って暮らしていく選択自体が今のところない。
(地元で)生活する日は遠いかな。」

地方で女性が急減 暮らしに影響も

女性が減った影響は、こんなところにも。
伊豆市の業種別電話帳。
10年前と今年のものを比べると…。
化粧品の販売店が、3分の2に減少していました。

地元の店を訪ねてみると…。

副店長 遠山博人さん
「化粧品のコーナーとしてこの辺ぐらい…。」

若い女性向けの化粧品などのコーナーは、10年前の4分の1になっていました。

副店長 遠山博人さん
「レジに立っていてもわかるくらいなので、(若い女性は)かなり減っていると思う。」

「経営的にも?」

副店長 遠山博人さん
「厳しい状況。」

「人口減少危機宣言」を出した市長。
この状況を、どう見ているのか。

伊豆市 菊地豊市長
「残念ながら働く場、住む場所として伊豆市のブランド力が十分でない。
若い女性が減ると結婚する人が減る。
そうすると子どもの数が減っていく。
危機的な状況だと思っている。」

そんな市長の懸念は、すぐ足下で現実になっていました。
以前は縁談に事欠かなかったという市の職員。
今、この課では、20代、30代の半数以上が独身です。

30代後半 独身職員
「自分の周りにも30代後半、40代で独身の方もいる。」

「以前と比べると?」

30代後半 独身職員
「増えたような感じ。
出会いがないというのが、一番の原因かなと思う。」

近田
「若い女性が、東京に出て戻らない。
それを示すこんなデータがあります。
東京の人口移動を示すデータです。
25歳から39歳の女性の5年ごとの転入・転出の状況を示しています。
一番左が昭和45年~50年なんですが、グラフが青で下向きになっていますよね。
つまり、東京から出て行く女性の方が大幅に多かったことを示しています。
これは進学や就職でいったん上京した女性が、この年代になると、東京から出て、地元に戻るなどの傾向があったと見られています。
ところが、次第に出ていく女性は減っていき、最近は、赤で矢印が上になっています。
つまり、転入が転出を上回るようになりました。
女性が、戻らなくなっているのです。
男性にも同じような構図は見られますが、女性の方がより顕著なんです。」

和久田
「なぜ、若い女性は東京に集中しているのか。
取材を進めると、新たな受け皿が広がってきていることが、背景の1つとして浮かび上がってきました。」

上京の“受け皿”に 広がるシェアハウス

地方の若い女性が上京するのを容易にしている理由の1つ。
それが「シェアハウス」です。
15年前、15社ほどしかなかったシェアハウスの運営会社。
それが、いまやおよそ600社に急増しています。
都庁近くにあるこちらのシェアハウス。

「こんにちは。
よろしくお願いします。」

前田遥さん
「よろしくお願いします。」

ここで暮らす高知市出身の前田遥さん、22歳。
今年(2014年)1月に上京しました。

この部屋は4人部屋。
2段ベッドでの生活です。

「前田さんのスペースは?」

前田遥さん
「ベッドの上ぐらいですかね。」

家賃は光熱費込みで、月4万3,000円。
キッチンやお風呂、リビングは共用です。

前田遥さん
「これは上京してきたときに荷物を入れてきたスーツケースです。」

前田さんは、スーツケース1つで上京。
なぜ、それが可能だったのか。

広がるシェアハウス “職業紹介付き”も登場

実はこのシェアハウス、「職業紹介付き」なのです。
提携する業者が、入居者に仕事を紹介してくれます。

前田遥さん
「“かばん1つで上京できます。貯金ゼロでもOKです”、マジでと思って。
上京してくるとき、財布に5万かな、入っていたの。」

前田さんは、高校卒業後、通信制の大学で学びながら地元で正社員の仕事を探していました。
しかし、結局見つからず、非正規の仕事を転々としている時に、このシェアハウスのことを知りました。
紹介を受けたのは、パチンコ店でのアルバイトでした。
これも非正規の仕事ですが、生活費をかせぎながら東京にとどまり、映画制作会社の仕事を探したいと思っています。

前田遥さん
「高知にいても(将来が)不安になるし。
先は見えないけど東京の方がいろいろ道があるのかな。
自分の就職、道が見えてくるまではこっちで頑張ろうかなと。」


「職業紹介付きシェアハウス」。
今、運営会社には全国から問い合わせが相次いでいると言います。

運営会社担当者
「例えばこの方ですと、新潟県からですね。
宮城県ですね。」

運営会社担当者
「こちらにきて仕事をして収入を得る、そういう部分を提供してあげないと東京に出てこようにも出てこられない。
そこのハードルを低くするのが弊社の仕事。」

上京も正社員になれず… “ダブルワーク”の実態

仕事を求めて上京した女性たち。
しかし必ずしも、正社員の仕事に就けるわけではありません。
今、東京の非正規で働く若い女性に、仕事をかけもちするダブルワークという働き方が広がっています。
去年(2013年)までの5年で30%増えました。
東北地方の大学を出た25歳の女性。
昼は、学校の非正規教員。
夜はキャバクラで働いています。

25歳の女性
「東京で1人暮らしをするには、経済的に厳しいところがあったので。」

非正規教員として受け取る給料は月17万円。
生活費と家賃を払うと手元にはほとんど残りません。
いつ契約を切られるかも知れないという不安から、3か月前にキャバクラに登録しました。

25歳の女性
「地方に行けば行くほど採用は厳しい。
少子化で学校が少なくなって、(倍率は)10倍、20倍、難しい。」

女性が登録しているキャバクラ店の紹介会社。
登録している1,000人近くの7割は地方から上京した女性で、多くがダブルワークだと言います。

キャバクラ紹介会社 春木耕平代表
「地方の方は多いと思う。
本業では稼げていないけれどもナイトワークで補てんして二つの仕事でという方は多い。」


仕事がないため上京する女性たち。
そのために、地方の少子化や衰退が進み、さらに戻りにくくなる。
そんな悪循環が起こりつつあります。

25歳の女性
「いずれは帰りたいと思うが、仕事がないので現実的には帰れない。」

近田
「取材にあたっている社会部の那須記者とお伝えします。
職業紹介付きのシェアハウス、正直、私初めて耳にしたんですけれども、それからダブルワークですね。
こう見てきますと、暮らし方・働き方が変わってきていると見ていいんでしょうか?」

那須記者
「もちろん、地方から上京した女性のすべてが、シェアハウスで暮らしたり、ダブルワークといった働き方をしているわけではありませんが、広がり方を見ますと、決して特殊なケースではないと実感しました。」

和久田
「これまでだと人口減少の問題というと、少子化とか過疎化・高齢化といったキーワードと一緒に語られてきたように思うんですけれども、地方の女性の減少が要因の1つになっているというのは、あまり注目されてこなかったんじゃないでしょうか?」

那須記者
「はい、その通りなんです。
実は、人口減少がどのように進むかという推計には、この地方の女性の減少という要因が大きく関わっています。
この問題も、待ったなしで考えるべき時期だと思います。」

近田
「シリーズ『DATAFILE.JPN』では、インターネットとも連携してさまざまなデータをもとに今、日本で何が起きているかを読み解き、お伝えします。
こちらの画面が、今回のグラフや統計データを紹介したシリーズの専用サイト、こちらも是非ご覧ください。」

シリーズの専用サイト: DATAFILE.JPN