( 4/13 付 )
藺牟田池に近い薩摩川内市祁答院麓に住んでおられる田の神は、誠に気の毒な神様である。新婚家庭におじゃまして、共に1年間暮らさなければならない。
先日、お務めを終え別の家へ引っ越す「田の神戻し」が汗ばむ陽気の中であった。顔をすすで黒く塗り、派手な装束をまとった青年らが神様の分身に扮(ふん)し、お供する。道中、池の周りやレンゲが咲く田で五穀豊穣(ほうじょう)の舞を披露し、見物人の顔にもすすを塗りつけていく。
集落に新婚さんがいなくなり、長く途絶えていたのを40年前に復活させた。カップルの実家に引っ越すといった工夫を重ねてである。今年はついに宿が見つからず公民館に置くはずだったが、復活に関わった是枝忠昭さんが手を挙げた。
是枝さんは子ども3人が結婚した際も田の神を受け入れた。「地域が楽しみにしている行事。宝として続けないといけないという思いは皆同じ」と言う。殺風景な公民館暮らしを免れ、田の神もホッとしたことだろう。
民俗学者の宮本常一は自叙伝「民俗学の旅」で、進歩の一方で退歩しつつあるものを見定めることが、われわれの最も重要な課題と記した。そこに大切な価値や意味が含まれていないか、と指摘する。
絆、思いやり、老若の交流。引き継がれる伝統には、忘れかけた大切なものが凝縮されているだろう。そう思うと、分身に塗られたすすもほんのり温かかった。
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