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【衝撃事件の核心】「ガーナ大使公邸」は違法カジノだった!! 「外交特権で捕まらない」が誘い文句 大使は逃げるように帰国
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「ガーナ大使公邸」の看板が掲げられた東京都渋谷区の雑居ビルの一室に入ると、そこは高級スーツやドレスに身を包んだ男女が夜な夜な集う違法カジノだった。「外交特権があるから摘発されることはない」という誘い文句で群がった会員は約800人。運営責任者やディーラーらカジノ側の10人と客2人が3月、警視庁保安課に一斉摘発された。現役のガーナ大使も売り上げの一部を受け取るなどしていた疑惑が浮上しているが、保安課から事情聴取を要請された直後、逃げ帰るように日本を後にしてしまった。(荒船清太)
ビリヤード台のようなテーブルの周りを、高級スーツに身を包みチップを手にした男らが取り囲み、トランプを配るディーラーの手先を見つめていた…。渋谷区道玄坂の雑居ビルの一室。3月5日の夜も、「賭博の王様」と呼ばれるトランプ賭博の「バカラ」が行われていた。
賭博に興じた客は、刑法の賭博罪で50万円以下の罰金が科される。だが、客の男らは賭博が合法である中国・マカオや韓国のカジノで遊ぶかのように、まるで逮捕されることはないと確信しているかのように、いっこうに周りを気にするそぶりは見せなかった。
ただ、この日、普段と違っていたのは、警視庁保安課の捜査員がひそかに紛れ込んでいたこと。間もなく、男らの確信は見事に裏切られる。潜入捜査員がゴーサインを出し、外で待機していた他の捜査員が店内に踏み込み、運営責任者の山野井裕之被告(35)ら10人、客の男2人を賭博容疑でいずれも現行犯逮捕した。
捜査関係者によると、大使館をめぐる違法カジノは、都内で常時営業しているとされるが、少しでも捜査の気配が忍び寄ると、営業を停止し、場所を変更するなどするため、摘発できるのはまれ。警視庁では平成17年にコートジボワールの外交官名義で開かれていた違法カジノを摘発して以来のことだった。
潜入捜査員には何カ月も前から実際に毎回数十万円単位で賭博に参加させて店内の様子を探るなどし、摘発にこぎ着けた。
今回のカジノは遅くとも24年10月に営業をスタートし、2億円以上を売り上げていたとみられる。身分証を提示して会員登録した客は約800人に上り、毎日10人前後の客が訪れていた。上場企業の社長など、いずれも相当の年収のある人物ばかりだった。
賭博容疑で逮捕された会社役員の男は「20回以上通っている」と話しており、保安課は常連客が常時数十万円単位で賭博を繰り返していたとみている。
山野井被告は同様の違法カジノを営業したとして複数回摘発され、今回は執行猶予中での逮捕だった。他にも現金をチップに交換するキャッシャーや専従のディーラーが雇われていた。「山野井被告は違法カジノのベテラン。指定暴力団のバックがいるに違いない」(捜査幹部)。
社会的地位が高い客がこぞって通っていたのには、十分な理由がある。カジノが行われていた部屋は、ガーナ大使が実際に賃貸契約を結んでいたのだ。「大使館の関連施設だから、捕まることがない」。山野井被告らは、客にこう言い含めて安心させていた。
なぜ、大使館の関連施設だと捕まらないのか。外交官はウィーン条約で、いかなる理由があろうと身柄を拘束されず、関連施設に立ち入られることもないと定められている。それが違法カジノであっても変わらないからだ。
部屋の玄関には「駐日ガーナ共和国大使」の肩書と現役大使の実名を記した表札が掲げられていた。客が署名する会員規約書にも「ガーナ共和国のもとにレジャー施設として運営させていただいております」と明記されていたという。
ただ、この部屋は外務省に大使館関連施設としての届け出がなかった。保安課が外務省に問い合わせたところ、外交特権が及ばないというお墨付きが与えられた。さらに、捜査の過程で、実際に大使が関与していたという驚くべき疑惑が明らかになったのだ。
部屋が借りられたのは、営業開始1カ月前の24年9月。契約者は当時の大使で、現役大使の前任者。実際の大使公邸で、外交官の身分証を提示して不動産業者と賃貸契約を結んでいた。契約書には当時の大使の署名が残されていた。
逮捕されたカジノの従業員らは「大使もカジノに出入りしていた」と供述。大使は違法カジノに使われることを了解した上で名義を貸していたとみられ、捜査幹部は「大使の方から名義貸しを持ちかけた可能性もある。売り上げの一部を受け取っていたと考えるのが自然だろう」と話す。
大使の交代に伴い、25年3月には現役大使に名義を変更。その後、大家のもとには現役大使名義で、毎月約50万円の家賃が振り込まれるようになった。現役大使が赴任したのは同年1月31日で、2カ月弱の間に“利権”を引き継いだことになる。
保安課は摘発から2週間後の3月17日、外務省を通じ、現役大使に任意の事情聴取に応じるように要請したが、大使は同24日にガーナに帰国。「本国で協議する」と回答した。
保安課と外務省は聴取に応じない場合、大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として通告し、本国に召還するか解任するかを求めることも検討している。捜査幹部は1万5000キロほど離れたアフリカ大陸に向かい、こう訴える。
「国家元首の名代である現役の大使が主導していたとすれば、ゆゆしき事態。事情聴取には積極的に応じ、真実を明らかにするべきだ」