G20議長国オーストラリアのホッキー財務相は閉幕後の会見で、2%成長目標を巡る議論について「各国の提案は不十分なものだった」と表情を曇らせた。「従来の成長戦略の焼き直しだったり、期限が盛り込まれていなかったり」。参加国が提出してきた成長戦略の素案をみた日本の関係者も絶句した。
2月にシドニーで開いた財務相会合で、参加国は今後5年でG20全体の成長率を2%以上引き上げる数値目標で合意。関係者は「毎年平均0.5%ずつ、5年間で合計2.5%の成長率アップを意味する」と明かす。
実態は拘束力を持たない参照値だ。財政を追加で絞り出す成長底上げの余地は各国とも小さく、今会合でも多くの国が形式的に既存の成長の枠組みを示すにとどまった。ルー米財務長官は11日、「成長加速がG20の最優先課題だ」と2度強調した。巨額の需要不足で米欧などに低金利、低インフレが定着する「ニュー・ノーマル」(新たな定常状態)を懸念する声も広がる。
米単独で安定成長の機関車役を果たせないとみるオバマ政権は、巨額の経常黒字を計上するドイツに追加財政出動を迫るが、ドイツの猛反発ですれ違う。声明で計画の小手先の対応ではない「新たな行動を」と念押ししたのは、成長・雇用を巡る議論が失速し、立ち往生した結果でもある。
欧州は危機モードを脱したかにみえるが、スペイン、イタリアなどの債務国が持続的な物価下落に陥れば実質債務が膨らみ、財政危機の再燃が現実味を帯びる。「我々当局者は一部先進国のデフレリスクを極めて注視する」。ポロズ・カナダ銀行(中銀)総裁は11日、記者団に言い切った。
緩和マネーの米への逆流が始まった金融市場の先行きにも「まだまだ波乱が予想される」(ダドリー米ニューヨーク連銀総裁)。IMFは最近の金融安定性報告書で、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和縮小に伴う金利上昇で新興国企業の対外債務が現在より35%も多い7400億ドル(約75兆円)に膨張する恐れがあると分析している。
ひとたび市場が混乱し始めれば国債、社債などまとまった新興国債券を保有する欧米金融機関の財務を直撃して「負のシステム連鎖」が生じかねない状況という。
喫緊の課題であるウクライナなどの地政学的リスクには「建設的に議論し、リスクを共有した」(ホッキー氏)という。地政学リスクに背を向けている場合ではないが、日米欧やロシアは突っ込んだ議論を避けたのが実情だ。