くらしナビ・学ぶ:応用・記述力重視、塾でも 国際学力テスト「PISA」を意識

2013年12月16日

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俊英館が実施する「PISA型」授業。通常は生徒を静かにさせるが、PISA型は逆に生徒の発言しやすい雰囲気づくりをするという=埼玉県所沢市の俊英館小手指校で2日、水戸健一撮影

 2012年の国際学力テスト「PISA(ピザ)」で世界トップ水準の成績を残し、「V字回復」を遂げた日本。03年に大幅に成績を下げた「PISAショック」以降、このテストで問われる応用力や記述力の育成を意識した授業が、学校で浸透してきたことが背景にあるとされるが、首都圏では、塾や学童保育といった民間でも「PISA熱」が広がりつつある。

 ●新聞記事、教材に

 「『無料』と書いてあるオンラインゲームでも料金がかかる場合があるけど、どんな時か考えてみましょう」。中嶋早希講師の問いかけに小学5、6年の生徒は、手元の教材に目を落とし、頭をひねりながら鉛筆を動かし始めた。

 首都圏を中心に約50校の学習塾を展開する「俊英館」(本社・東京都板橋区)の小手指校(埼玉県所沢市)。これはコンピューターの授業でも情報モラルの授業でもない。国語の授業だ。

 教材は新聞記事。インターネットを使ったオンラインゲームを巡って、小中学生らが高額な請求をされて、相談が増えていることを伝える内容。授業は、文中から「答え」を探し出すだけでなく、必要な情報を選び自分の意見をまとめる力を養うことに重点を置く。いわゆる「PISA型」授業で、冒頭の発問も「無料」の文言に惑わされて高額請求トラブルに遭わないための注意点を考えて書かせるのが狙いだ。教材に載っている他の問題からもそうした狙いがうかがえる。

 「お金がかかることを知らないと、どのような問題が起きる可能性があるか考えて書きましょう」「子供の利用料を抑えるために、ゲーム会社はどのような対策を取っているか。記事を参考に説明しましょう」「オンラインゲームで高額な請求を受けないようにするためにはどのようなことに注意する必要があると思うか。考えを書きましょう」−−。

 ●中学入試に導入

 俊英館が本格的に「PISA型」授業を導入したのは今年3月。中嶋講師によると、当初は戸惑う生徒が多かったが「訓練していけば自信を持って自分の考え方を示すことができるようになる」という。

 首都圏20カ所で学童保育を運営する「キッズベースキャンプ」(東京都世田谷区)は昨年4月から目黒区内の学童保育施設で、表現力や論理的思考力の育成に重点を置いた「PISA型教育プログラム」を始めた。

 対象は小学校低学年が中心。それまで遊びや体験活動が中心だったが、保護者から「学習面もフォローして」と要望が高まったためだ。東京五輪、給食など身近なテーマを基に討論したり、本を読んで意見を発表したりする。保護者からは「伝えようとする力がついてきた」などと好評で、来年度以降、このプログラムの実践施設を増やす方針だ。

 民間でこうした動きが広がっている背景について、安田教育研究所(東京都港区)の安田理代表は、首都圏で人気の高い公立中高一貫校の入試で、従来のような教科ごとにその知識をみるような試験ではなく、活用力や思考力などをみる「適性検査」、いわば「PISA型入試」を採用していることがあるという。

 さらに私立中でも公立中高一貫校との併願生獲得を目指し、PISA型入試を導入する動きが強まっている。同研究所の調査によると、都内の私立中でPISA型入試の実施校は、11年度8校▽12年度15校▽13年度20校と増加傾向で、14年度入試ではさらに増える見込みだ。

 ●学校は時間なく

 国立教育政策研究所によると、PISA型授業は、03年の「PISAショック」以降、その必要性が叫ばれ、国公私立問わず小中学校や高校で徐々に浸透してきた。だが、全国的に大きな広がりを見せているとまでは言えないという。俊英館の杉浦豊参事は「学校は時間がなくて、論理的思考力の育成にまで手が回っていないこともある」と説明。都内のある区立小校長は「必要性は分かっていても、新しい学習指導要領が実施(小学校は11年度、中学校は12年度)されて教える内容が増え、なかなか時間を割けない」とニーズと現状のギャップを嘆く。【水戸健一、三木陽介】

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 ◇PISA

 経済協力開発機構(OECD)が、義務教育を終えた15歳(高校1年生)を対象に3年ごとに実施する国際学習到達度調査。2000年に始まった。実生活で直面する課題に対し、知識や技能をどの程度活用できるかを評価するのが狙いで、数学的リテラシー(活用力)、科学的リテラシー、読解力の3分野がある。12年調査はOECD加盟国を含め65カ国・地域が参加し、日本は数学が7位、読解力と科学が4位。OECD加盟34カ国中では数学が2位、読解力と科学は1位だった。

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