COLUMN

菅俊一 まなざし

菅俊一 まなざし
第10回「読書感想文の恐怖」

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第10回 読書感想文の恐怖

この春の時期になると「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書が発表される。そのため、書店に行くと児童書コーナー(大抵端の方にある)だけでなく、特設コーナーが用意され、目立つように並べられている。

毎年その様子を見る度に、自分の小学生の時のことを思い出して、少し心が痛む。

今でこそ、この連載のように文章を書くということを、1つの表現手段として用いるようになっているが、私は本当に、読書感想文が苦手というか大嫌いな子供だった。

読書感想文というのは大抵、夏休みなどの長期休暇の前に宿題として「この本を読んで、あなたが思ったこと感じたこと気づいたことを書きなさい」という課題が担任の先生から与えられる。

感想文を書かせる意図について、大人になった私なりの推測で考えてみると、「人の書いた文章を読んで意味を理解する(=読書)」と「自分の考えを言葉として表現する(=作文)」という二つの、言葉を扱うために必要な力を鍛える格好の課題として、使用されてきたように思える。

ところが、実際に「青少年読書感想文コンクール」のwebサイトを見るとこのように書いてある。

    Q.読書感想文は、何のために書くのですか。
    書くことによって考えを深められるからです。読書感想文を書くことを通して思考の世界へ導かれ、著者が言いたかったことに思いをめぐらせたり、わからなかったことを解決したりできるのです。ですから読書感想文は「考える読書」ともいわれます。また、どんなに強く心を動かされても、時がたてばその記憶は薄れてしまいます。読書感想文は自分自身の記録です。読み返すことによって、いつでも「感動した自分」に出会うことができるのです。

読解や作文の能力以上に、情操教育の側面が強かったことに驚いた。実は、私が読書感想文を嫌いだったのは「感動した自分」について書くということが出来なかったからだ。

小学生の頃から「知識のため」の読書は楽しんできたが、「感動のため」の読書はほとんどしたことがなかった。大人になった今でもそういった目的での読書は全くしない。

つまり本当は、私が苦手で嫌だったのは「文章を書くこと」ではなく「自分の感情を出して表現すること」だったわけなのだが、「夏休みの宿題の読書感想文」という形でその苦手な行為を強制された経験から、「文章を書く」という事自体が、自分は苦手で嫌いなのだと錯覚していたのだ。

一度抱いてしまった苦手意識を克服するのは、かなり難しい。特に、子供の頃に抱いた苦手意識は、将来に渡って引きずってしまうことが多い。

私自身も、「文章を書くこと」に対して苦手意識を克服することができたのは、大学に入って、自分の興味のあることを勝手に調べたり、好きなことを書くのは楽しいと知ってからのことだ。「感動した自分を表現する」という以外で文章を書くことができるんだと知った時に、書くことが全く苦では無くなった。

ここまで書いてきたのは私自身の経験なのだが、皆さんにも似たような経験があるのでは無いだろうか。

つまり、今あなたが「嫌だなあ、苦手だなあ」と思っている事は、実はその対象自体ではなく、全く別のところに嫌だと思っている本当の理由があるかもしれないということだ。あなたの苦手意識は、物事の一側面しか見ていないが故に抱いてしまった可能性がある。

自分の可能性を狭めているのは、環境ではなく、自分の意識の方が要因として大きいのではないだろうか。同じものでも別の視点で見ることによって、苦手どころかむしろそこに才能があるということもあり得るのだ。

春になって、新しい職場や部署で新しい仕事を始めた人や、新しいことを学び始めた学生の方も多いと思う。そしてその仕事や学んでいることの中でも苦手だったり嫌いだったりすることもあるかもしれない。そんな方たちにも一度、勇気を出して苦手だと思っていたものにも向き合ってみることをおすすめしたい。それがひょっとしたら、文章が大嫌いだった私が、今では文章を書くことで表現をしているように、あなた自身の人生を変えてくれるきっかけになるかもしれない。

[まなざし:第10回 了]


PROFILE著者紹介

菅俊一(すげ・しゅんいち)

1980年東京都生まれ。研究者/映像作家。人間の知覚能力に基づいた新しい表現の在り方を研究し、映像や展示、文章をはじめとした様々な分野で活動を行なっている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、modernfart.jpでの連載「AA’=BB’」、著書に「差分」(共著・美術出版社)など。2014年4月より多摩美術大学美術学部統合デザイン学科の教員に就任予定。 http://syunichisuge.com/


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