核とミサイルを放棄することしか国家再建の道はない。その現実を直視できないのか。

 北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)氏には、破滅的な国の現状を本気で改める覚悟はないようだ。

 国会にあたる最高人民会議が平壌で開かれた。金正恩体制で先月初めて選ばれたメンバーによる会議で、新体制の方向性をうらなうと注目された。

 結論は、ほぼ現状の維持にすぎなかった。伝えられる会議の結果で目立つのは、核開発と経済の立て直しを両方とも進めるという、強い意志の表れだ。

 経済改革の主導役とみられていた正恩氏の義理の叔父張成沢(チャンソンテク)氏が昨年粛清された。それが改革の流れに影響を与えるのでは、との観測もあった。

 だが、やはり経済改革派と目される朴奉珠(パクポンジュ)首相が再任されたことをみると、「人民生活の向上」を訴えてきた政権の姿勢に変化はないとみていいだろう。

 高齢のため引退の可能性がささやかれたナンバー2の金永南(キムヨンナム)・最高人民会議常任委員長は留任した。崔竜海(チェリョンヘ)・軍総政治局長ら側近グループは国防委員会の要職に引き上げられた。

 こうした人事は、権力システムを急変させるつもりはない姿勢を示している。張氏の粛清を受けた国内の動揺を抑えるための判断だったとみられる。

 問題なのは原子力工業省を新設したことだ。これまであった原子力総局を省に格上げしたとされ、今後も核開発を推し進める意思を鮮明にした。

 北朝鮮は先月、中距離の「ノドン」とみられる弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。

 国連安全保障理事会が発射を非難する「報道機関向け談話」を出したことを受け、北朝鮮側は反発し、「新たな形態の核実験」の実施を示唆した。

 「新たな形態」については、高濃縮ウランを使うのではないかとの臆測が飛び交っている。

 実験用原子炉から取り出したプルトニウムではなく、長らく秘密裏に続けていたウラン濃縮で改めて核の能力を示そうという脅しなのかもしれない。

 具体的な兆候はまだないが、もし強行すれば、自壊への道筋をたどることを自覚すべきだ。

 正恩体制への国際社会の視線はすでに冷たい。最大の支援国である中国も例外ではない。これ以上、孤立を深める愚行を犯すべきではない。

 正恩氏に必要なのは、父の故金正日(キムジョンイル)氏が繰り返した瀬戸際政策からの決別である。軍事と経済の二兎(にと)を追う余裕などない。孤立から脱し、経済を再生する努力にこそ集中すべきだ。