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全力で彼をサポートします!!~始まりのとき~

作者:イコ
はじめまして(*^^*)


「初めまして、小宮(こみや) 彩月(さつき)です。…えっと、よろしくお願いします」

頬をリンゴ色に染め上げて、若干俯きがちにその少女は言った。
一方、教室の最前列かつ教卓の真ん前の席に座る私は、口を半開きにして、恥ずかしそうに黒板の前に立つ少女を見つめていた。
――いや、呆然としているのは私だけではないだろう。
クラスのほぼ全員…主に男子が、彼女に釘付けに違いない。


(何この美少女…!!)

これは、何なんだろう。
まさに神様に愛された容姿だ。
鎖骨辺りで切り揃えられた艶やかな黒髪に、同色の形のいいくっきり二重の目。
すっと通った鼻梁に、薔薇の蕾のようなぷるぷるの唇。
華奢で清楚な、文句なしの美少女がそこにいた。
いやほんと、お人形さんみたいだよ。

担任の川園先生が小宮さんの簡単な紹介をしていたみたいだけど、小宮さんに見入ってしまって、全く耳に入ってこなかった。




「あの可愛さは事件だって」

私はお弁当の蓋を開けてから、隣で負のオーラを放ちまくっている男子の背中をバンバン叩いた。

「そう落ち込むなって優佐(ゆさ)。あれだけ可愛いんだよ?もうこの際攻略されちゃってもいいんじゃ…」
「ちょ、葉月(はづき)!静かにしろ声でけえっつうの」
「ごめんごめん、冗談だよ」

パシッと軽く頭を叩かれ、私はムッとした。

「でも屋上だし、今は絶対私と優佐しかいないでしょ、大丈夫」
「万が一があんだろ。小宮が聞いてたら困る」

はあぁ、と目の前のイケメン――もとい、笹田(ささだ) 優佐(ゆさ)が深い溜め息をついた。

「とうとうこの日が来た…。俺、これからどうなんだろ」
「だから、これから小宮さんが形成するであろう逆ハーの一員になって、例の乙女ゲーム通りに…」
「葉月っ!」

優佐が目を吊り上げて、半ば怒鳴るようにして私の言葉を制した。
うおー、こわいこわい。
この辺りでからかうのはやめておこう。
イケメンの怒った顔は普通の人の5倍こわいからね。

せっかくのお昼だというのに、優佐はお弁当を放置して頭を抱えていた。

「あの乙女ゲームのシナリオに沿って生きていくなんて、俺は絶対に嫌だ」



――ひとつ、昔話?をしよう。
ある所に、一人のイケメンがいました。
イケメンには二つ年の離れた姉がいて、その姉は美人でしたが大の乙女ゲームオタクでした。
日頃から乙女ゲームについて姉が熱く語っていた為か、イケメンはまあそれなりに乙女ゲームがどういう物かというのを知っていき、まあそれなりに恐怖を感じていたそうです。
そんなある日、イケメンは事故に遭ってしまい、唐突に人生の終わりを迎えました。
17年間という、短い人生でした。
しかしイケメンは事故に遭った直後、生きてきた17年間の記憶を持ったまま、転生していました。
イケメンが今までいた世界ではありません。
けれどなぜか、イケメンはその世界を知っていました。
この世界は、ま・さ・か…。

なんとイケメンが転生した世界は、前世で姉がはまっていた乙女ゲームの世界そのものだったのです。
こんなこと有り得ないと、イケメンは悩みました。
しかも自分が、やがて現れる美少女主人公の攻略対象だという事を知り、困り果てました。
攻略されるなんぞ絶対に嫌だ…!
そう思ったイケメンは、誓いました。

意地でも自分は攻略されない。
フラグを破壊し、乙女ゲームのシナリオとは違う普通の人生を送る!!



「そしてイケメンは、フラグ回避の為に幼馴染みである山岡(やまおか) 葉月(はづき)に事情を説明し、協力者として巻き込み…」
「イケメンて言い替えた意味あるのか、それ」

呆れた果てたような優佐の視線を無視して、私はお母さんお手製の卵焼きを口に運んだ。
この甘さ加減が最高なんだよ。

「うーん、美味しい。…とにかく小宮さんが登場したって事は、もうゲームが始まっちゃったわけだね」
「ああ。せっかく今まであの手この手尽くして来たのに」


――はい、もう皆さんお分かりでしょう。
さっきの話のイケメンというのは、この笹田 優佐の事ですよ。
そして私こと山岡 葉月は、優佐のフラグ回避の為に巻き込まれた彼の幼馴染みです。


この世界が乙女ゲームの世界だなんていう摩訶不思議な話を信じるのには、私もかなりの時間を要した。
そもそも私は優佐みたいに前世の記憶を持ってはいないし、はっきり言ってゲームの世界のモブキャラというやつだ。
モブも甚だしいレベルのモブキャラだと思う。
――モブキャラ、なんだけれど。
でも優佐の幼馴染みっていう設定が、何とも言いがたい。

家が隣同士だった私と優佐は、小さいときから仲が良かった。
生まれた時から前世の記憶を持っていた優佐は、今考えると異常なほど落ち着いた子どもだった。
妙に大人びてたなぁ。
同い年なのに、私はいつも優佐に面倒を見てもらってたっけ。

そんな優佐から乙女ゲームの件を聞いたのは、中学生になったと同時だった。
とにかく衝撃を受けた。
でも優佐の話を信じたのは、もともと優佐が変な嘘をついたりする性格じゃないのを知ってたからというのが大きかった。
それに優佐は、攻略対象としての未来を変えるために、めちゃくちゃ試行錯誤してた。
乙女ゲームの舞台である学園に入学することを避けるために、あらゆる策を練っていた。

舞台である学園――如月学園は、偏差値の高い全寮制の私立高校だ。
だから、優佐は頭がいいのにわざとテストの点を低くしたりして、是が非でも如月学園へ進学するルートを避けていた。
私はずっと、必死になって未来を変えようとする優佐を見てきた。

だから、信じていた。
優佐が、乙女ゲームとは離れた人生を送ることを。
優佐の努力は報われると、信じていた。

中学三年生になって、優佐が県立高校へ進学する事が決まった時は、二人で手を取り合って喜んだ。
よかったね、優佐――。
私は確かにそう言ったし、優佐も笑顔でそれに応えてくれた。
まさかこの後、乙女ゲームのシナリオに連れ戻されるなんて、思いもしなかった。

県立高校の合格発表から数日後だった。

優佐のお父さんの、転勤が決まった。
転勤する場所を聞いて、私は固まった。
当時の事は、今でも鮮明に覚えている。


優佐のお父さんが転勤するのは、如月学園のある市内の会社だったのだ。

それだけでは終わらなかった。
その頃に、優佐のお母さんが亡くなった。

お父さんが単身赴任、優佐はお母さんと今の家に残る…という選択すら失われたのだ。
未成年である優佐は、半強制的にお父さんについていく事になった。

それを話していた時の優佐の顔は、もう2度と見たくない。
全てを諦め、もういいと無理矢理笑顔を浮かべていた、あの時の優佐。

そんな顔、してほしくなかった。もう、絶対させたくなかった。

だから私は決めたんだ。
私も如月学園にいく。
何ができるか分からないし、何もできないかもしれない。
でも、優佐の力になりたい。



――と豪語したものの、結局運命の日は来てしまった。

「でも、見た感じ優佐が言ってた“小宮さん”とイメージ違ったな」

ぽつりと私がそう言えば、優佐も頷いた。

「俺もそれは思う。…でも、これから“あの”小宮になっていくのかもしれない」
「まだなんとも言えないね」

私はかぼちゃコロッケを食べながら、眉をひそめた。

「でも、ここまではシナリオ通りだから。やっぱり注意した方がいいかも」
「…そうだな」

優佐は少しだけ笑うと、ようやくお弁当を開けて食べ始めた。
その姿がいつもより頼りなさげに見えて、私はなんとなく悲しくなった。

「…優佐」

優佐が顔をあげて、私を見た。
私は優佐を見つめて、にっこりと最大限の笑顔を向ける。

「まだ始まったばっかだからね。大丈夫!いざとなったら、私が何が何でも優佐を守るから!」
「…」

優佐は一瞬きょとんとして、それからいきなり吹き出した。
げらげらお腹を抱えて笑う優佐に、逆に私がきょとんとしてしまう。

「ったく…!これだから、葉月は」
「むっ。何よ、聞き捨てならんその台詞」

優佐はひとしきり笑ってから、いきなり私の頭をくしゃくしゃとかき回すようにして撫でた。

「ちょ、優佐!」
「ありがとな、葉月」
「いきなりどうしたわけ」
「…いや、なんとなく」





もぐもぐとお弁当を食べる優佐を眺めながら、私は思った。


――優佐が、望んだ道を歩いていけますように。




ここまで読んでくださりありがとうございました!短編ですが、第二弾も投稿する予定です!

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