2014年04月02日

「ビットコインは計算量理論から見て「無限連鎖講」である」への反論

ビットコインは計算量理論から見て「無限連鎖講」である(安岡孝一):ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140314/543783/

京都大学准教授の安岡孝一氏がビットコインに対して懐疑的な見解を発表しました。

記事の要旨はこちら。
1. ビットコインの採掘システムに必要な計算量は、正のフィードバックにより発散もしくは収束する。
2. 採掘のために投入される計算能力は、ビットコイン経済の「魅力」によって増加・減少する。
3. ビットコイン経済の「魅力」が失われたときには、投入される計算能力が連鎖的に減少し、崩壊に至る。

この説明については、おそらく適当でないと考えられますので、本稿ではこれに反論を加えたいと思います。
私の反論の要旨は以下のとおりです。
1. 採掘システムには必ずしも正のフィードバックが働いているわけではない。
2. 採掘に投入される計算能力の増減要因はビットコイン経済の「魅力」だけではない。
3. ビットコイン経済の崩壊要件は他にある。

当該記事の3ページ目が問題ですので、まずはそこまでお読みください。2ページ目までにまったく異存はありません。


1. 採掘システムには必ずしも正のフィードバックが働いているわけではない。frostbit.png
引用
 しかし、このフィードバックは、計算量というパラメータに関しては、正のフィードバックとなってしまっている。10分より短い時間でパズルが解かれてしまったならば、難易度を増加することで、もっと多くの計算量を要求する。10分より長い時間の場合は、難易度を減少することで、もっと少ない計算量で済むようにする。増加し始めるとどんどん増加し、減少し始めるとどんどん減少してしまうので、計算量を一定にするということができない。現時点では、計算量は増加しつづけており、そこに正のフィードバックがかかっているために、減少には転じていない。
引用ここまで

ビットコインのP2Pネットワークには多くの採掘者が参加しています。抽象化すると「最も処理能力の高い採掘者が最も多く報酬としてのコインや手数料を手に入れる」と言えます。大抵の場合、最も処理能力の高い採掘者は、さらなる収益をめざして処理能力を高め、より短時間に解答できるようにします。それによりパズルがさらに難しくなるよう変化するため、最も処理能力の高い採掘者はますます処理能力を高めようとします。この場合は当然、正のフィードバックが働いているといえます。

さて、もし仮に、最も処理能力の高い採掘者が自身の処理能力を低下させた場合には、どうなるでしょうか。単位時間あたりのビットコイン産出量は10分に1回、決められた枚数だけと決まっていますから、他の採掘者がかわりにコインや手数料を手に入れてしまう可能性が高まるだけです。新しく「最も処理能力の高い採掘者」となった者は、処理能力を低下させる必要性がないので、相変わらず採掘と能力向上に勤しむことになります。これでは、正のフィードバックが働いているとはいえませんよね。

2. 採掘に投入される計算能力の増減要因はビットコイン経済の「魅力」だけではない。
引用
 BTCを手放すことにむしろ魅力を感じる人が、システムの参加者の半数を超えた場合、Bitcoinはどうなるのだろう。「投入される計算量は必然的に減少する」という状態になる。
引用ここまで

安岡氏のいう「魅力」の内容について記事では明らかにされていませんが、私が読む限りでは、現在の収益性と、経済学的に「期待」「予想」と呼ばれるものの二つが含まれているようです。そこで、現在の収益性と「期待」のそれぞれについて考えてみます。

まず、ビットコイン採掘業について、現在の収益性がよいと思う採掘者と、儲からないと考えている採掘者がいるとします。その場合、儲からないと考える採掘者が撤退するのみで、収益の出せる採掘者、つまり処理能力の高い採掘者のみが操業を続けます。当然、これは「処理能力の高い採掘者ですら連鎖的に撤退するような状況」ではありません。

つぎに、「期待」について考えます。引用文の記述は、「ビットコイン経済への参加者のもつ悲観的な期待は、最大の能力を持つ採掘者が連鎖的に撤退する原因たりうるほどの収益性低下をもたらすか」という問題に読み替えて考えることができます。ビットコイン経済参加者が悲観的な期待を持っている状態とは、ビットコイン価格が長期的に下落している状態です。この場合、もちろん、採掘で得るコインの価値は低下するため、収益性が悪化し、採掘業者のうち処理能力の低いものから撤退します。しだいに競争が緩和され、パズルの難易度も下がるかもしれません。その結果、ある時点で収益性が改善し、均衡します。このように、最大の能力を持つ採掘者は市場が悲観的な期待を抱いていても撤退しないのです。

したがって、ビットコイン経済の「魅力」は、採掘に投入される計算能力には無関係と言えます。


3. ビットコイン経済の崩壊要件は他にある。
はたして最も処理能力の高い採掘者が連鎖的に処理能力を低下させ、じっさいに「正のフィードバックが働く」ことが起こりうるのでしょうか。もちろん、自ら処理能力を低下させるインセンティブはないため、通常は起こりえません。しかし、最も処理能力の高い採掘者ですら次々に撤退するような状況に陥った場合は、連鎖的に処理能力が低下している状況と同じだと言えます。これは、たとえば「採掘が儲からない」「ビットコインシステムの弱点が露呈する」「政府に規制される」といった状況です。いずれにしても、ビットコイン経済に対する市場全体の期待の良し悪しをそのまま反映して採掘者が採掘能力を増減させるとは言い切れません。


したがって、ビットコイン経済は記事のいうような形では動いておりません。


個人的には、将来的には新しいコインが発行されなくなりますが、その場合「採掘の手数料だけで採掘業者は持続可能な利益を出せるのか?」ということが非常に気になっております。そうでない場合、要するに将来的な期待収益率は0%ということになりますから、ある時点ですべての採掘業者が撤退し、システムが崩壊するということになります。どうなのでしょうかね。
posted by blackhorry at 22:52| Comment(0) | NEWS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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