DV:離婚7年後に襲撃被害 「不安」周囲に伝わらず

毎日新聞 2014年04月11日 08時00分

「出所後にまた襲われるのでは、と真剣に恐れています」。女性はいまもフラッシュバックや悪夢に悩まされている=河津啓介撮影
「出所後にまた襲われるのでは、と真剣に恐れています」。女性はいまもフラッシュバックや悪夢に悩まされている=河津啓介撮影

 神奈川県伊勢原市で昨年5月、ドメスティックバイオレンス(DV)の果てに離婚した元夫(33)に路上で刺され、瀕死(ひんし)の重傷を負った30代女性が毎日新聞の取材に応じた。事件前、元夫からの襲撃の不安を訴える女性のSOSを、警察を含めた周囲は真剣に取り合わなかった。心身の傷が今も癒えない女性は「被害者の思いを、そのまま受け止めてほしい」と繰り返した。【河津啓介、藤沢美由紀】

 女性が、大学で知り合った元夫と結婚したのは2004年のことだ。待っていたのはささいな理由での暴力と罵声で虐げられる日々だった。相手の機嫌を損ねないよう神経を擦り減らした。

 「膨らんだ風船がいつ破裂するかというようにおびえ続けた。緊張が解けるのは殴られる瞬間だけ」と振り返り、毎日の生活を「『痛み』と『痛み』の間にずっと続く『恐怖』がある。それが全てだった」と表現した。

 会社勤めの女性が家計を支えていたが、逃げようとは考えなかった。奴隷のような扱いに正常な判断力さえ奪われ、「自分は駄目な人間。この人の元でしか生きられない」と思い込んでいた。

 05年末、妊娠中に実家に逃れた。突然、「家を出て大丈夫じゃないか」との考えが浮かんだからだ。翌年離婚が成立したが、元夫は「どこまでも追い詰める」と言い放った。

 寄る辺のない土地の避難施設に移り、パートで働いた。育児に追われ、身も心も疲れ果て倒れたこともある。いつか元夫が襲ってくると考え、親子で偽名を使って家族にも居場所を伏せた。口座開設や病院の診察では本名を明かさなければならず、「元夫の知り合いが見ないように」と祈りながらペンを握った。

 それでも暴力のない世界は人間らしさを取り戻させてくれた。耳に入る音楽を「いいな」と感じ、起きる時間や食べ物などを選べる幸せは、硬い心を少しずつほぐした。

 昨年5月。小学生になった長男と自宅近くを歩いていたときだった。後ろから突然大きな衝撃を感じた。骨が削れるほどの力で刺され、体内の血液の半分を失ったが、奇跡的に命は取り留めた。

 殺人未遂罪などに問われた元夫は昨年12月に懲役12年の判決を受け、服役した。それでも女性は身を隠す生活を続けている。

 「事件前と不安は変わらない。次は助からないでしょう。離婚しても7年後に襲撃された。懲役12年だからといって安心できる要素がありますか」

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