中・東欧で経済格差が広がり、有権者が内向き志向を強めている。選挙では欧州統合よりも「強い指導者」や「変革」への期待が先行し、ハンガリーでは6日の議会選で外国支配からの脱却を訴える与党が圧勝。スロバキアではまったく政治経験のない富豪が大統領選を制した。存在感を増す中・東欧での政治の迷走は欧州連合(EU)にとっても頭痛のタネだ。
6日に投開票されたハンガリー議会選。暫定集計で133議席と、憲法改正も可能な3分の2超の「圧倒的多数」を得たオルバン首相は、こう勝利宣言した。「これまでの路線が信任された」。
報道の自由や中央銀行の独立性の制限、それに公共料金の値下げや外資系企業を標的にした課税などの大衆迎合策――。危うい政治路線を憂う欧州連合(EU)の忠告には耳を貸さないが、それが有権者には頼もしい「強い指導者」と映る。
冷戦時代は「共産圏の優等生」で民主化運動を先導した自負もある。だが、いまは欧州の小国のひとつにすぎず、多くの地元企業が西欧との競争に敗れて市場から去った。金融機関はイタリアやオーストリアなど外資系が9割のシェアを握る。
東欧革命から続く欧州統合の恩恵が一部のエリート層に偏っているとの不満が高まり、EU調査には国民の95%が「自分の国は貧しい」と回答。強権政治が支持される裏には、そんな実感がある。
隣国スロバキアでも有権者は現状打破を望む。3月末の大統領選では、立候補した現職の首相を退けて企業家で大富豪のキスカ氏が当選した。政治経験はゼロ。産業の少ない地方都市の疲弊が著しく、ともかく「変革」をもたらしてほしいとの声に押された。
ブルガリアでは与野党の対立から政治が不安定で、目まぐるしく首相が代わる。自由と豊かさを求めた1989年の東欧革命のときから25年間にわたって欧州統合の先駆者だった中・東欧で内向き志向が強まり、国や民族の誇りを取り戻したいという国民感情が高まっているのは確かだ。
だが長続きするかは微妙だ。かつてポーランドのカチンスキ大統領は「反EU」を掲げて一時的に人気を集めた。だがEUと対立しても閉塞感の解消には役立たないことが有権者にも伝わり、いまは親EU派に取って代わられている。
貿易取引の過半をEUに頼る中・東欧諸国にとって欧州統合に背を向けることはもはや現実的ではない。それは90年代のユーゴ紛争で西欧と対立して経済が疲弊したセルビアを見れば明らかだ。
「統合に向かって歩むしかない」。3月の議会選でEU加盟を訴えて圧勝したセルビアのブチッチ次期首相は6日、独テレビにこう語った。
(ベルリン=赤川省吾)
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