(歓声と拍手)日本中がその奇跡に沸いた。
…という途方もない宇宙の旅を成し遂げた。
圧倒的な飛行距離を支えたのは世界初の高性能イオンエンジン。
NASAですら開発を諦めた夢の技術だ。
このエンジンを作り上げた男はもの作りを心から愛する。
「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」プロジェクトマネージャー。
はやぶさ2は今年冬の打ち上げ予定。
更に困難なミッションを背負う。
日本の誇りを懸けた闘い。
(主題歌)大空を自由に飛ぶ夢をいちずに追い続けてきた國中。
その独創性は世界を驚かせた。
研究が日の目を見なかった若き日。
厳しい言葉を浴び続けた。
この冬はやぶさ2は絶体絶命の危機を迎えていた。
若手主体のチームを試練が襲う。
問われる…超機密の開発現場。
不可能に挑むエンジニアたちの記録。
この日國中は朝6時に出勤してきた。
勤務先は日本の宇宙開発の中心JAXA。
機密の開発現場で今回初めて長期取材が許可された。
この日は朝から電話会議の予定が入っていた。
お願いします。
I’msorry.ThisisKUNINAKA.相手はNASAアメリカ航空宇宙局。
この日は國中たちが進めるプロジェクトにNASAが相乗りしたいという相談だった。
多忙を極める國中だが部屋には遊び心があふれている。
部屋の扉には名札代わりにあるおもちゃを飾っていた。
仮面ライダーのバイクにも國中のイオンエンジンが採用されたと喜んでいた。
是非皆さんに主張しようと思って。
ここにも応用されてますって。
宇宙だけじゃありませんって。
これが國中たちが世界に先駆け開発した…イオンエンジンの力の源は原子そのものだ。
まずマイクロ波を当てて原子を激しく振動させプラスイオンと電子とに分ける。
そして両者が電気的に引き付け合う力を利用して噴射し推進力にする。
この力は地上では1円玉を動かす程度の弱さ。
だが重力のない宇宙空間では徐々に加速し時速1万kmに達する事ができる。
燃料を燃やす必要がないため圧倒的に長い時間動き続けられるのが特徴だ。
はやぶさでは地球から約3億km離れた小惑星「イトカワ」に到着。
その地表面のサンプルを7年かけ地球に持ち帰る事に成功した。
このイオンエンジンを始め独創的な開発を次々と手がける國中。
見据えている壮大な夢がある。
多分そんな簡単にはできないと思いますが少しでも火星に住める事を実現するのにできたらいいなと思って。
ちょっとでも近づけたらいいかなと思って。
半歩でもいいので。
この日はやぶさ2の中心メンバーが集まり開発の進捗状況を話し合った。
総勢600人のメンバーが20の専門分野に分かれ同時並行で研究を進めている。
はやぶさ2。
それは極め付きの難易度を持つ宇宙の旅だ。
目指す目標は前回よりも更に遠く離れた小惑星。
生命の起源を解く鍵となる有機物があると考えられておりそれを初めて持ち帰る事を目指す。
前回は小惑星の表面のサンプルを持ち帰るだけだった。
だが今回はなんと弾丸を打ち込み人工的にクレーターを作る。
地表よりも有機物が含まれる可能性が高い地中の石や砂を採取するのだ。
イオンエンジンの改良や惑星に弾丸をぶつける装置「インパクター」そして折り畳み式の高性能ソーラーパネル。
どれ一つ取っても開発が簡単なものはない。
この日課題に挙がったのははやぶさ2の位置を補正するカメラだった。
宇宙空間を想定して温度を激しく変えながら実験するとカメラの性能が落ちてしまう。
プロジェクトマネージャーはこうした会議の場で解決へのヒントを素早く提示できなければならない。
國中といえど解決の方策がはっきり見えているわけではない。
それでも一つの信念が國中を突き動かしている。
(男性1)送信時間19時30分12秒。
(男性2)はい承知しました。
時間の許すかぎり現場を回っては示唆を与える。
この日研究所を後にしたのは深夜12時を回った頃だった。
(取材者)お疲れさまでした。
はいお疲れさまです。
困難なプロジェクトを数々成功させてきた國中さん。
好きな言葉がある。
実はこの言葉あのアニメの登場人物のセリフだ。
「波動砲用意」。
宇宙戦艦ヤマトの技師長真田。
「説明はあとだ」。
ピンチを救った時の名ゼリフがこれだ。
(真田)「ははははははは…」。
「アステロイドリングにエネルギーの吸収装置をセットしておいたんだ」。
実は國中さんこの真田を地でいく活躍をした事がある。
それははやぶさが地球へ帰還する直前の事。
4つのエンジンのうち最後まで生き残っていた1基がついに止まった。
もともとの飛行予定を3年も過ぎ耐久力は限界に達していた。
これでですからもう終わりかなと。
心の中では8割方もう駄目だと。
その時驚きの解決策を提示したのが國中さんだった。
「こんなこともあろうと」。
なんとはやぶさに誰も知らない仕掛けを施していたのだ。
生き残った部品同士を組み合わせてエンジンを噴射するクロス運転。
國中さんが打ち上げの直前にこっそり付け加えた回路がはやぶさを生き返らせた。
周到な準備でピンチをさらりと救ってみせる。
それが國中さんのひそかなプライドだ。
1月中旬。
國中は中東の都市ドバイにいた。
訪ねたのは…2か月前に打ち上がったドバイの衛星は最新式のイオンエンジンを採用。
國中たちはその中核部品を提供していた。
エンジンの心臓部電子を発生させる中和器だ。
これを提供する代わりに國中たちは実際の宇宙空間で性能試験を行う事になっていた。
はやぶさ2に向けて改良を加えてきた勝負の中和器。
すぐに試験が始まった。
まずエンジンに電源を入れる。
次はいよいよ電子を発生させる指示を送る。
新型の中和器は力強い出力を見せた。
ところが…。
プラスイオンを発生させる部品が動かないという。
その部品を開発したのは韓国のチームだ。
このままではエンジンが動かないため急遽國中が力を貸す事になった。
國中は韓国製部品のデータを見直し始めた。
詳しい設計仕様は分からない。
それでも國中は問題を分析し続ける。
國中は問題の部品に出力を入れる間隔を短くする事を提案した。
すぐに國中の案が実行に移された。
ついにエンジン全体が動き始めた。
國中は闇の中から見事に答えを探り当ててみせた。
僕は実はずっと肌身離さず持ってるものがあって大きな立派な会社から手紙が来て…それがほんと悔しくて悔しくてね。
だからそういうのをね見返してやろうっていう…。
ネガティブなアプローチかもしれないんですけどね。
そういう事でやっぱりずっとやってきたんじゃないかなって思うんですね。
休日國中さんの自宅にお邪魔した。
飾ってあるのは鳥や飛行機など空を飛ぶものばかり。
その話になると止まらなくなる。
一生懸命説明してくれるんですけど私が興味がないから「ふ〜ん」みたいな。
妻の和美さんは初代はやぶさと格闘していた時の國中さんの姿が忘れられない。
ため息ばっかりでね。
「はぁ」「はぁ〜」みたいなね。
駄目な時ありましたね。
これはちょっと駄目かな…顔色も悪くなってくるし「あっ寝てないんだな」って。
「眠れてる?」「眠れてない」みたいな。
それは研究者人生を懸けた闘いの日々だった。
國中さんが空を飛ぶ事に憧れ始めたのは幼稚園の頃。
将来はすごい飛行機を造る博士になりたいと夢みていた。
その夢のままに東京大学大学院で宇宙工学を学びそこで師と仰ぐ人物と出会う。
イオンエンジン研究の世界的パイオニア…マイクロ波を利用するという大胆な構想を温めていた。
しかし実現にはほど遠く注目されない分野。
にも関わらず黙々と挑み続ける栗木さんに尊敬の念を抱いた。
でも今だめだめって事は伸びしろがあるって事ですよね。
新領域…やっぱりそういうだめだめなところこそ是非乗り出していってやりたいなと。
何とか栗木さんのアイデアを形にしてみたい。
だが予算はほぼない。
そこで國中さんは秋葉原を回り中古部品を買った。
更に電子レンジを分解してマイクロ波を出す部品を手に入れついにイオンエンジンを作り上げた。
しかしあくまでもアイデアがようやく形になったレベル。
実用化には程遠い。
学会で宇宙探査機に使う構想を発表すると「そんな事できるわけがない」とヤジが飛んだ。
更にある日エレベーターに乗り合わせた先輩研究者に忘れられない言葉をかけられた。
そうすると30秒後に扉が開いて出て行っちゃってこっちの負けですよね。
そういうのを何回も何回もやられて悔しいなと思うわけですよ。
しかしそんな時だった。
はやぶさの計画を打ち出した川口淳一郎さんが訪ねてきた。
成功すれば圧倒的に遠くまで行ける國中さんのイオンエンジンをはやぶさに使いたいという。
もう二度とは巡ってこない大チャンス。
國中さんは「やってみせます」と答えた。
格闘の日々が始まった。
最大の壁は電子を発生させる中和器の耐久力だった。
小惑星まで往復するには1万時間の運転に耐える事が必要。
だがどうしても100時間で壊れてしまう。
改良の鍵は中和器に使う5つの磁石にある事は分かっていた。
その磁石に練り込む金属の種類や量そして配置のしかた。
ひたすらその組み合わせを考えては実験を繰り返した。
だが1年が過ぎ2年が過ぎても改善しない。
「この研究には出口がないのではないか」。
次第に恐怖で眠れなくなった。
ないかもしれないんですよね。
答えはね。
この方法は間違ってるかもしれないんですよね。
今取り組んでる方法手法が。
そこはだから不安でたまらないですよね。
ある日ついに國中さんは栗木教授を訪ね言った。
「もう開発をやめたいです」。
涙を流して話す國中さんに栗木さんはそっと言った。
未知の荒野を決して立ち止まる事なく歩み続けてきた恩師の言葉。
どんなに怖くてもどんなにゆっくりでも常に足を前に出す事だけはやめてはいけない。
それが未知の分野に挑む者の最も大切な姿勢。
それから國中さんはいつ答えが出るともしれない磁石の組み合わせ実験にまた挑み始めた。
1年後の事だった。
ある組み合わせを試した時。
突然中和器の耐久時間は9,000時間をマーク。
エンジン開発のめどがついに立った。
諦めずに少しずつ半歩でもいいから前に進んで。
どんだけ粘って粘れるか…粘るか粘れるかですね。
去年12月。
はやぶさ2の開発プロジェクトは佳境を迎えていた。
開発中のイオンエンジンにさまざまな負荷を与え動作を確認するテストが続いていた。
この日は心臓部に水蒸気が入った場合を想定する。
宇宙空間では何が起こるか分からない。
あらゆる事態を想定して試験が続く。
水滴が付いた状態でエンジンを点火する。
エンジンは問題なく動いた。
こうしたチェックをこのテスト用のエンジンで行える期間は残り僅かだ。
2月にはいよいよ実際の打ち上げに使う本番用のエンジンの組み立てが始まる。
正念場の闘いが始まろうとしていた。
だが…リーダー國中のもとに厳しい報告が上がってきた。
2月に予定している本番用エンジンの組み立て。
メーカーの部品製造が遅れ間に合いそうにないという。
國中がイオンエンジンの開発チームを緊急に招集した。
既にスケジュールはぎりぎり。
これ以上遅れれば冬の打ち上げが危うくなる。
担当メンバーもメーカーのエンジニアたちも必死の努力を続けている事は分かっている。
それでもあえて國中は言った。
國中は知り過ぎるほど知っている。
どんなに難しくても絶対に実現してみせるという気概がなければ最先端を担う開発などおぼつかない。
その気概こそが日本の宇宙開発のレベルを支えてきた。
今回國中はあえてプロジェクトに若手のメンバーを抜擢していた。
この開発に挑む中で受け継いできたチャレンジャースピリットを次の世代に伝えたい。
今から20年後まで僕はメインプレーヤーではとてもとても働けないわけですから。
そうすると最後は今の若い人たちがそれを引き継いでやってもらう事になるわけですよね。
そういう20年の仕事の入り口のところをチャンスを作るのが多分僕の仕事。
今やらなきゃいけない仕事なんじゃないかな。
國中がとりわけハッパをかけた一人新型エンジン開発の中心メンバー…イオンエンジンの推進力と耐久性を更に高めるためこの6年間身を粉にして研究に打ち込んできた。
3日後。
細田たちは連日メーカーと打ち合わせ開発を急いでいた。
更にテスト用エンジンを使いあらゆる可能性を想定した実験を続けていた。
この日は電力がほとんど残っていない状態での運転を想定する。
メーカーから部品が届く日は2週間後と決まった。
到着後は直ちに噴射試験を行い性能を確認しなければならないスケジュール。
少しでも時間を稼ごうと細田は組みつけの練習をしていた。
これから先一つのミスも許されない。
考えられるかぎりの準備をして臨む。
部品が到着する日の朝。
誰もいない試験室に國中が現れた。
どんなに困難なミッションであろうとも問われるのは結果のみ。
その全ての責任はプロジェクトマネージャーである國中にかかっている。
でもあんまり…そこ考えると他の人もねプロジェクトメンバーもみんなおじけづいちゃうからね。
しょうがないんでそういう顔はしないように。
みんな怖いに違いないんでまあ最後みんな…最後の一番怖いところはきっと僕が抱えていくんでしょうね。
どんなに怖くとも國中はエンジンの組みつけも噴射試験も若手に任せると決めていた。
そうした一つ一つを彼らの手でやり終えて初めて宇宙開発は未来へとつながっていく。
メーカー渾身の部品がついに運び込まれてきた。
職人たちが最高の精度で作り上げた特注品ぞろい。
細田の指示の下エンジンを組みつける。
組み上げるパーツの総数はおよそ600。
そのどれもが替えの利かない一点物。
慎重に手を進める。
ネジの締め具合を一つ一つ確認していく。
8時間後。
宇宙へ行くイオンエンジン。
噴射試験の準備が整った。
運命の噴射試験。
いよいよイオンを噴射しエンジンを加速させる。
エンジンの挙動がおかしい。
國中が不在の中どうすべきか自分たちだけで判断を下さなければならない。
細田は回路に残っていた残留ガスが一時的に影響しているだけだと読んだ。
このまま待つと決めた。
5分後。
新型のイオンエンジンは安定して動き始めた。
翌日報告を受ける國中。
少しだけ顔がほころんだ。
この冬に迫った打ち上げ。
國中たちの闘いは厳しさを増していく。
グッドラック。
ハッハハハ!2014/04/07(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「宇宙工学者・國中均」[解][字]
日本中を感動に巻き込んだ宇宙探査機「はやぶさ」。そのエンジンを開発した國中均が今、来冬の打ち上げを目指し「はやぶさ2」に挑む。超機密の開発現場に異例の長期密着!
詳細情報
番組内容
日本中を感動に巻き込んだ宇宙探査機「はやぶさ」。國中均は、NASAですら実現不可能と諦めた「マイクロ波型・イオンエンジン」を開発し、奇跡の帰還を支えた男だ。今、「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャーとして来冬の打ち上げを目指している。“最先端”に常にトライすることを信念とし、前回よりも遠い小惑星に赴いて有機物を持ち帰るという極めて難しいミッションに挑む。超機密の開発現場に、異例の長期密着!
出演者
【出演】宇宙工学者…國中均,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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