むしブロ

クマムシ博士のドライ日記

小保方さんの会見に思うこと


2014年4月9日、小保方晴子さんと代理人の弁護士が記者会見を開き、理研調査委員会の最終調査結果への不服申し立てないようについて説明しました。


小保方氏一問一答: 毎日新聞


会見で小保方さんはNatureに掲載されたSTAP細胞研究論文に不適切な点があったことを認めて謝罪しました。しかし、理研調査委員会による調査は不十分であり、データ画像の改ざんと捏造の認定については容認しない旨が述べられました。その他にも、STAP細胞を200回ほど作製してきたことや、第三者がSTAP細胞作製の追試に成功したことが報告されました。


ただ、作製した細胞の多能性マーカー遺伝子Oct4の発現を確認しただけなのか、それとも細胞の分化能まで確認したのかなど、STAP細胞をどのレベルで確認したかについては言及されませんでした。また、追試に成功した人物についても明らかにされませんでした。


ここでは、STAP細胞の存在自体の真贋については脇に置いておきます。科学論文が適切なものかどうかと、研究結果に再現性があるかどうかは、切り分けられるべき問題だからです。そして、論文がその体を成していない不適切なものであれば、その研究結果の再現性がどうであれ、そこに書かれた研究内容の妥当性は無いものと判断されます。それが科学コミュニティのルールだからです。理研調査委員会が調べたのは論文上の疑義についてであり、この中で一部のデータに改ざんと捏造があったという結論が出ました。


小保方さんの主張に、理研から小保方さんへの聞き取り調査が不十分だった、というものがありました。理研は調査は十分だったと反論しているようですが、これについては現段階ではよくわかりません。ただし、当該のNature論文が論文の体を成していないのは事実であり、改ざんと捏造の認定も妥当に映ります。


先日のメルマガに書いた予想通り、代理人の弁護士の主張は、あくまでも悪意(=故意)のない過失であったという主張を通していくとのことです。しかし、弁護士が主張するような捏造や改ざんの定義は、科学コミュニティーのそれらとは大きくかけ離れているため、理研に対する不服申し立ては棄却される可能性が高いと思われます。


また、こちらも先日予想したように、今後、理研で設置されるであろう懲戒委員会により何らかの処分が小保方さんに下された場合は、法廷に場所を移して地位保全について争うことを厭わないとする旨を暗に示す発言も弁護士からありました。


万一、小保方さん側の主張が法廷で全面的に認められることになると、そのときは、日本の科学が終焉を迎える瞬間になるかもしれません。日本の司法機関からあのレベルの体裁の論文が不正でないというお墨付きが与えられれば、倫理を守らない研究者は野放しでも問題ないということになってしまいます。もちろん、法廷でのジャッジによって科学コミュニティの小保方さんに対する評価には影響を与えませんが、日本はそういう国だということを世界に向けて宣言することになるわけです。


そう考えると、この争いは一個人の問題の枠にとどまらず、日本の科学界全体の未来に影響を及ぼしかねない案件になりかねません。もっとも、いくら世間が小保方さんを擁護したとしても、まともな裁判官であれば、このような判決を下さないとは思いますが。


STAP細胞が本当に作製できようができまいが、Nature論文と博士論文の不適切さが明らかになった時点で、小保方さんを信頼する研究者は残念ながらほとんどいなくなってしまいました。ただ、不正を認めて学生からやり直すくらいの姿勢を見せれば、まだ研究活動をするチャンスはあったと思います。


ところが、今回の「不正は無い」とした不服申し立てをするという行動で、その可能性もほぼ完全になくなってしまいました。これ以上争うのは小保方さんも理研もお互いにとって不毛であり、多大なリソースの無駄になります。最初の研究成果発表で大きな注目が集まった揺り戻しもあって、問題を長引かせれば嫌でも小保方さんはマスメディアに取上げられ続けてしまい、心身も消耗してしまいます。共著者間で連携をとって論文取り下げに向けて動き、早くリセットすることがベターな選択ではないでしょうか。


最後に。堅いデータが揃わない限り論文にせず、あと一歩のところでアカデミックポジションに付けずにドロップアウトしていった正直で優秀なポスドクを、私はたくさん見てきました。彼らの本件での心中を察すると、正直、なかなか堪えるものがあります。


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