厚労省、20年に日本初の糖類摂取量基準策定へ~消費者庁の対応次第では非表示の懸念も

 3月5日、WHO(世界保健機関)は糖類摂取量に関する新しい指針案を発表した。この指針案では、肥満や虫歯のような公衆衛生上の問題を解消するために、糖類の摂取量を一日のエネルギー摂取量の5%未満に制限することを勧めている。この指針案に従うと、普通体形の大人が一日に摂取する量は約25gで、わずかにティースプーン約6杯分の砂糖で摂取制限となることになる。

 WHOは、2002年から糖類の摂取量について、一日のエネルギー摂取量の10%未満を推奨していたわけであるが、新指針案ではそれを半減することを提言したことになる。さらに、この指針案では、ケチャップや炭酸飲料などのような加工食品に砂糖が含有されていることを警告し、スプーン一杯のケチャップには約4gの砂糖が含まれ、炭酸飲料には約40gの砂糖が含まれているとしている。

 この新指針案を出した背景には、高血圧や糖尿病の原因となる肥満が世界的に深刻な問題となっており、新興国や発展途上国の経済成長で、より事態が悪化することを懸念した点にあるとされている。

 このWHO新指針案のニュースが、和菓子が好きな方やスイーツは別腹と考えている方々には、ショックであったであろうと想像に難くないが、当然、日本政府の糖類摂取量の基準はどうなのかとの疑問がわく。

 本来、日本人の糖類摂取量基準を定めるのは厚生労働省であるが、同省健康局がん対策・健康増進課に問い合わせると、日本人の食事摂取基準(10年版)を策定しているものの、糖類摂取量基準は策定していないとしている。食事摂取基準では次のように記述している。

「欧米諸国では、しょ糖や高果糖含有コーンシロップなどの甘味を補完するために添加する糖(果糖を50%以上含む)を含む清涼飲料水の摂取と肥満との関連を示す報告が蓄積されてきており、WHOは甘味料として添加した糖の摂取量について総エネルギー摂取量の10%を超えないように推奨している。しかしながら、日本人において食事摂取基準で数値を算定できるほど十分な科学的根拠は得られていない」

 要するに糖類摂取基準を食事摂取基準として設定するための、日本人の糖類摂取実態に関する科学的データがないから設定ができないとしている。

●日本で初の糖類摂取量基準策定へ

 そこで、独立行政法人国立健康・栄養研究所の見解をただしてみた。担当者は、日本人の糖類摂取実態の科学データがないことは認めたが、解決の糸口を教えてくれた。それは、文部科学省が策定している食品成分表に糖分の項目を入れれば、加工食品の糖分含有量もわかるという。食品成分表とは、正式には食品標準成分表といい、10年が最新版であるが、食品可食部100g当たりの食品成分の含有量が記載されており、現在食品数は1878品目となっている。この食品成分表は、学校や病院などの給食で栄養素を計算する上で、最も重要な資料である。この食品成分表には現在、糖分含有量は記載されていない。そこで、文科省に問い合わせをしてみる。その結果は驚くべきものであった。

 文科省としては、15年度中に食品成分表に糖分含有量の記載を始めるというものであった。当面、500~600品目で、基礎的食品と炭水化物が多い食品の糖分含有量を記載するという。これらの食品の糖分含有量がわかれば、使用した加工食品も糖分含有量が計算できることになる。

 この文科省の見解を今度は、厚労省健康局がん対策・健康増進課にぶつけてみたところ、そこで明らかになったことは、15年版の食事摂取基準には、糖類摂取量基準は盛り込めないが、食品成分表の糖分含有量記載を受けて20年版の食事摂取基準に糖類摂取量基準を盛り込む方向で、専門家に検討を依頼することにしたいとのことであった。

 つまり20年には、日本人の糖類摂取量基準が初めて策定されることになる。6年後ではあるが、日本も遅ればせながらWHOの指針に近づくことになる。

●消費者庁の対応次第では表示抜きの懸念

 では、表示はどうであろうか。現在、消費者庁が実施している栄養成分表示には、糖分表示は義務付けられていない。その理由は、食事摂取基準で糖類摂取量基準が策定されていないからとしている。そこで消費者庁食品表示企画課にあらためて、厚労省と文科省の方針を伝え、見解をただしてみた。消費者庁の担当者は、食品成分表の糖分含有量記載の実施状況や厚労省の糖類摂取量基準策定状況も踏まえて糖分表示の検討を進めていきたいとのことであり、どうも表示を先行する構えはまったくない。

 だが、少なくとも、20年に同時決着をすべきである。なぜなら、消費者は糖類摂取量基準が策定されても、食品に糖分表示がなければ、その基準を自ら守ることはできないからである。消費者は、食品に糖分表示があり、その表示を見て食品を選択して、初めて基準を守ることができる。消費者庁は、真っ先に消費者を守るべき省庁であり、われわれ消費者は、今後しっかりと消費者庁の動向を見守らなくてはならない。
(文=小倉正行/国会議員政策秘書、ライター)

※画像は「Thinkstock」より

この配信会社の記事一覧へ

テキストサイズ