IEによりオープン系技術が拡大、一方でWeb標準への準拠が遅れる
川田:IE6がポテンシャルを発揮しなかったら、オープン系技術がここまで広がらなかったと思うんです。PerlやPHPを使った業務アプリケーションは出てこなかったのではないかと。
物江:個人的には、ActiveXコントロールが動いたのが大きかったのではと思っています。VBで簡単にコンポーネントが作れ、そのコントロールを埋め込むだけで、インストーラーを使わずにローカルで簡単に触れることができるんですから。
川田:どこからそんなアイデアが出てきたんでしょうか。
佐藤:96年の「これからはインターネットだ」というビル・ゲイツの社内号令がきっかけでしたね。
村上:「遅いぜ」というかんじの号令だったけど(笑)。
五寶:僕が初めてIEを見たのは大学生の時で、Office 4.2にバンドルされていました。インストールするとIEが2.0にアップデートされたんですよ。でもその当時から、ブラウザでWordファイルを表示させるという方向に持って行こうとしていたんです。
佐藤:アクティブドキュメントですね。
五寶:その名前すら知らない人もいると思います。
物江:Windows 98ではフォルダを右クリックするとWebに公開という機能もありましたよね。
佐藤:Webパブリッシングウィザード…。
物江:すごくインターネットと融合していました。
五寶:当時はWeb標準自体がマイクロソフトがブラウザ上で表現したいことに追いついていなかったように思うのですが、徐々に追いついてきた。そして時代が移り、携帯などを含むマルチプラットフォームへの柔軟な対応などから、Web標準への準拠や新しい仕様や機能への対応について社内外で声が出始めた中、XP SP2でセキュリティのアップデートで既存のサイトや当時の Web アプリケーションの互換性がぐちゃっとなってしまい、それまで IE を好きだったユーザーから恨みを買ってしまったかなと。
物江:謎がどんどん解けてきましたね。ActiveXを使っている企業はまだあるんですか。
川田:たくさんありますよ。私はいろんな方から企業内のWebのIT資産のお話を聞かせて頂く機会があるのですが、IE5からのシステムは今でも聞きますよ。
佐藤:リリースに関わった立場としては、ざわざわしますね。
物江:ActiveXコントロールで作られたものは、Windows上からVBランタイムがなくなると地獄が待っているというわけですか…。
川田:次の質問に移っていいですか。率直な質問です。IEは過去にシェアを奪うために、本当に悪人っぽいことをしたことはないんですか。
村上:残念だけど、俺はやっていないなあ。
佐藤:その当時はすでに世間的に悪人のイメージをつけられていたので、いかに清廉潔白を示すことを意識していましたね。お客さまに夢を見せられる、未来を示せるようにと。IEは世界中で使われているので、見つけようと思うと見つけられる。隠せなかったとそう理解しています。
川田:Web標準の準拠については?
佐藤:それを強調したマーケティングメッセージを出してきたのは5.5や6ぐらいからなんです。それまではあまり言ってなかったんですよ。Web標準へ準拠するとはいえ、他のテクノロジーを使えなくしてしまうなど、仕様を革命的にがらっと変えることができない事情もありましたからね。
村上:いろんなデバイスでWebが見られる今は、Web標準への準拠は大事なことですけどね。
五寶:Web標準への準拠は開発者の負担を減らすというのもゴールの一つだと思うんだけど、今、開発者の負担は本当に減っているんですかね?IE6はちょうどISVがクライアントのアプリケーションからWebアプリケーション移行しようという動きがあり、企業はIE6でしか動かないActiveXをバリバリ入れ込んだWebアプリケーションを作り出したんです。2000年前後の当時、ActiveX は非常に簡単に、Web ブラウザー上で実装したい機能を実現できましたので。
Internet Explorer のベータ プログラムのフィードバックでは、その互換性に関する質問は嫌っていうほど来ましたが、Web標準に準拠するにするどうすればいいですかなどという質問はほとんどありませんでした。
川田:そりゃそうですよ、言わないですよ。
村上:互換性がどうのっていわれてもね。
五寶:そうですよ。
物江:Web標準では対応できないですからね。
川田:企業向けのWebのシステムだと、ActiveXもHTML5もIEの機能の一つですよ。
物江:IEはアプリのプラットフォームなんですね。
川田:位置付けはそうですよね。アプリを動かすためのミドルウェアの一つです。
佐藤:最初のIE4の時からすでに、そんな話をしていましたよね。プラットフォームでありミドルウェアだと。
五寶:その辺の方向性は変わっていないですよね。だから単体版のIEが出るのは遅いじゃないですか。出したくないんじゃないかな(笑)。
村上:エンタープライズのお客さまはアップグレードを嫌がるので、逆に出さないでくれと思っているのでは。
川田:だからIE11がリリースされて、私は内心ひやひやしていますよ。そんなスピードで、バージョン上げちゃうのって感じなんですが(笑)。
10年後までは想定したが、こんなに長く使われるとは思わなかった
物江:XPのサポートが終了します。その開発に携われた方としての感想をお願いします。
佐藤:正直、まだ続いていたんだというのが感想です。XP日本語版は2001年11月23日発売でした。同時多発テロが起きた年。テロが起きる何カ月か前に日本語版ヘルプの文言のレビューをしていたのですが、「これを10年後見たとき、なんと言われるかな」と話ながら直していったんです。
まさかそのとき、10年超えるとは思っていなかった。びっくりしました。まだXPでまごついている人がいるのを聞くと、なんだか申し訳なくなります。思ったよりも長く使われていたんだと。
川田:デファクトスタンダードになっちゃっていましたからね。
村上:実家と家のパソコンを何台か処分しなくといけないけど、よくできていたOSだと思います。
物江:XPは愛されていましたよね。見た目のカスタマイズもできますし、好きなようにできるので。
物江:次にIEのここが愛おしかったけど、ここが憎たらしかったというようなことはありませんか。
村上:いいものを作るためには愛さないと。愛のない人は採用しません。
全員:(笑)。
村上:本当ですよ。面接で「あなたIEを愛していますか」と投げかけて、「えー」とか、答えられない人には「帰ってください」と言っていました。
佐藤:寝るときもだっこして寝る感じです(笑)。だからOSリリース前日に、行列の人を見ているとやっぱり嬉しいんですよね。ちょっとつらいことがあるとそのことを思い浮かべて、この人たちはきっと並ぶはずだから、頑張らなきゃと思いましたね。
物江:愛しかない。憎しみなんてあるはずないと。
村上:困ったことは一杯あったけどね。
佐藤:確かに。
物江:たまにあるじゃないですか、オレのMS製品がこんなはずじゃないという、愛しているが故の憎しみとか。オフレコですが、昔の某あれが出たとき憎たらしくて仕方ないと思いましたもん。
村上:Vistaを作っていた人もVistaを愛していたと思うよ。本当に会社一丸となって取り組んでいたからね。
佐藤:β版をこっそり本部長さんのPCにインストールして、「入れておきました」と置き手紙を残したり。
川田・物江:ええー。
村上:そんな時代でしたよ。
佐藤:そのぐらいでした。まだ使っていないというと、じゃあ入れに行きますからと。
村上:五寶さんの時代はもうドッグフード(自社で開発したソフトのベータ版を実際に社内に導入し、評価するというマイクロソフトの哲学を表した用語)やっていなかった?
五寶:今でもドッグフードはやっています。IEもWindowsも大好きなんですよ。 つらかったことは一杯ありますが、憎しみはないですね。頑張って出したのに、お客さまのところやデベロッパーさんのところにいくとちくちくと文句をいわれるんです。頑張ったのに、まだ言われるんだって、それは悲しかったですけどね。
村上:五寶さんは一番つらい時代だったんじゃないかな。僕らは出したぜ、勝ったぜ、そんな感じだったから。
五寶:でも、フィードバックくれるということは期待されているということ。なんとかIEを使いたいからと。だからぼくらも頑張って、なんとか反映させてきた。
物江:最新のIE11では、互換性を確保するために、エンタープライズモードを搭載しました。エンタープライズモードとはあらかじめ指定したサイトをIE8のエミュレーションモードで表示・動作させることができる機能です。これが標準機能として入りました。
佐藤:なんだかちょっと反対なような。
川田:IE11の一番の優位点は、ハードウェアアクセラレーションです。Windowsに特化している分、有利ですよね。実際にパフォーマンスは高いと思います。
五寶:ハードウェアアクセラレーションも、HW ベンダーとの多くのコミュニケーションの末に実装された、とても手間のかかっている機能の一つです。マイクロソフトの強みを生かした良い実装ですね。
物江:その他にも、最新のIE11はプラグインなしで3Dの表現ができたりするなど、かなり機能向上がされている。ハードウェアアクセラレーションが強いため、3Dの動きも非常にスムーズで他のブラウザと比較するとその動きの洗練さが際立っているんです。
今後のIEについて今後、期待したいこと
佐藤:今、私は映像監視デバイスの業界にいます。例えばH.264という圧縮フォーマットの映像の再生はブラウザに依存することとなり、Firefoxはクイックタイムのプラグイン入れないと再生できない。一方、IEの場合はユーザーが特に何も設定することなく再生できるので、スタンダードのブラウザとして使われています。
まだ一部、アナログのカメラは残っていますが、IEがデジタル方式への移行を進めてくれる存在になると期待しています。また個人的には今の会社に入ったとき、社内システムの状況を見て、デフォルトのブラウザを他社のモノに替えてしまったんですね。その後。IEに戻しましたが、IEはそんな揺れ動く心を思い起こさないような存在でいて欲しいですね。
村上:応援しています。私はネットショッピングサイトやオンライン英会話学校を2件運営しており、ブラウザは欠かせない存在です。だからどのブラウザもよりよくなって欲しい。中でもIEには頑張って欲しい。
五寶:今、Office 365のSharePoint Onlineチームで仕事しているんですが、そこで見ているとうちの製品サービスはいろんなプラットフォームで使ってくれているので、IEもプラットフォームとしてもっとうまく浸透してくれるといいなと思っています。気がついたらなんだみんな結局、IE使っているんじゃんというようになってほしい。
川田:そうですね。ミドルウェアでの質の高さを見せつけて欲しいですね。
川田氏・物江氏の「IE6への愛と憎しみ」ポイントは?
川田:私はIE6に育てられた人間です。リリースされた直後にIE6を起動してJavaScriptでマウスアイコンを変えたのが、私のエンジニアの原点。高校1年の時の初めてのホームページ制作から、学校でソフトウェア工学を学びだした時も、そして仕事とかでAjaxのコードを書きだした頃もまだIE6。私にとってIE6はWebの全てでした。IE6に実装された機能は、自分を育ててくれたもの。ふるさとですね。そういう意味で、IE6は結構愛しかったりします。
私は今、国内ではIEの移行のエキスパートとして名が通っているんです。IEは今もアグレッシブに新しい機能をガンガン入れていこうとしていますが、そこに対してエンタープライズがいい顔をしないんです。もう少し歓迎する雰囲気が欲しい、そういう恨めしさを感じている。それが憎しみのポイントという感じでしょうか。
物江:IEは私にとってのアイドルなんです。ひょんなことからWebのシステムを作ることになって、IE4~5でDHMLを触ったときに、「こんなものをWebで作れるブラウザってすげー」って思ったんです。足りない機能はActiveXコントロールで何でもできる。これは、なんとすごいブラウザだとIE最強説の信奉者でした。
しかし時代が立って、Web標準と叫ばれ出し、なかなかWeb標準に対応できませんでしたが、「オレの愛するIEがこんなふがいなさはないはずはない」とずっと思ってきた。好きだからこそ、憎んでしまう、そんな感じですね。
川田:あらゆるシステムの裏にレガシーNT系のWindowsOSが残っています。エンタープライズは塩漬けが残り続けるので、私にとってはIE6はまだかわいがり続けなければならない存在に思えます。
物江:お疲れ様ですという一言。今回、この企画をしたのもIE6がなくなることについて、IE6がなくなることについて、IE6の復権というか、Web標準に準拠しなかった”ただのならず者”という汚名を晴らしたかったんです。今日はそれができたと思うので、ゆっくり休んでくださいねという感じです。
五寶:サポートの立場から言うと、IE6はお疲れ様でいいですが、次はIE7ではなくIE11に行ってねとお願いしたいですね。
村上:最良のWebブラウザは、常に最新のWebブラウザってことで。
他全員:そうあって欲しいと思っています。
⇒前編「Windows95の登場でIEの歴史が始まり、IE4で圧倒的シェアを誇る」から読む
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