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【社説】

国民投票法改正 改憲前のめりが心配だ

 国民投票法の改正案を、自民、公明、民主など与野党七党が共同提出した。憲法改正の是非やその内容の議論を置き去りにして、手続き法の整備だけをなぜ急ぐのか。前のめりの姿勢が心配だ。

 憲法改正の手続きを定めた国民投票法は、第一次安倍内閣当時の七年前、与党だった自民、公明両党が強引に成立させた。この際、決着を先送りした、いわゆる「三つの宿題」がある。(1)選挙権、成人年齢の引き下げ(2)公務員の政治的行為の制限緩和(3)国民投票の対象拡大−だ。

 今国会中に成立する見通しの今回の改正案では、国民投票ができる年齢を、経過措置の「二十歳以上」から「十八歳以上」に引き下げる。改憲を目指す勢力には「一歩前進」(自民党の船田元・憲法改正推進本部長)なのだろう。

 しかし、多くの課題や議論を置き去りにしたまま、改憲の手続き法だけが、着々と整えられることには危惧を抱かざるを得ない。

 憲法は、どうあるべきかを常に検証され、論争にさらされるべき存在であることは確かだ。

 その一方、現憲法には平和主義や立憲主義など、守られるべき多くの価値が含まれ、改正を急ぐべき緊急性はないというのが、わたしたちの立場である。

 国民投票法の制定も見直しも、憲法改正論議が具体化してからでも遅くなかったのではないか。

 そもそも今回の改正案では重要な論点が欠落している。一定の投票率に達しない場合、無効とする「最低投票率」導入の是非だ。

 現行法では、国民投票に付された憲法改正案は、有効投票総数の過半数の賛成で承認されるが、近年の自治体首長選のように投票率が極めて低くても、国民に承認されたと言い切れるのか。投票成立の最低線を決めておくことも、検討に値するのではないか。

 また、選挙権年齢や民法の成人年齢を、国民投票年齢に合わせて「十八歳以上」に引き下げることについては依然、結論が出ていない。整合性をどうとるのか。

 折しも、政府の憲法解釈を変更することで「集団的自衛権の行使」を認めようとしている安倍政権下である。そのようなことを許せば、憲法は空文化し、権力が憲法を順守する「立憲主義」は形骸化する。憲法に対する畏れが感じられない。

 野党の協力を得て手続き法を整えておけば、憲法改正も数の力で押し通せると考えているのだろうか。大きな間違いである。

 

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