レアアースとはなにか
2010年11月15日(月) 11時17分
レアアースの科学(上) ハイテク支える“調味料” 磁力や光 強める現象も
電気自動車や液晶などハイテク製品に欠かせない元素のレアアース(希土類)が注目を集めている。モーターに利用する磁石や照明で色を出す蛍光体として使われ、レアアースだけが持つ特殊な働きがこうした性能を引き出している。さらに今後の研究で隠れた能力が明らかになる可能性もあり、産業技術をけん引する素材として資源確保が急務になりそうだ。
レアアースはハイテクの調味料といわれる。材料に少し混ぜると、材料が持つ本来の性質を一変させるからだ。モーター向けの磁石ではレアアースのネオジムなどが主成分のため大量に使うが、照明や磁気記録に使う材料では全体の数%しかレアアースを含んでいない。しかし、レアアースを入れないと性能が向上できず製品化できない。
レアアースが最初に発見されたのは1794年。スウェーデンの小さな村で見つかった。その後、性質が似ている元素が複数見つかり、地球上の埋蔵量は少ないとみられたことから、レアアースと呼ばれるようになった。1960年代から応用研究が始まった。レーザーの発光材料として利用され、64年にはカラーテレビ用の赤色蛍光体が開発。日立製作所が発売したカラーテレビの「キドカラー」はユウロピウムという元素が使われた。明るさを示す“輝度”の高い希土類から、こう名付けた。
レアアースを国内で販売する信越化学工業の斎藤文彦・電子材料事業本部主任技術員は「80年代後半からレアアースを入れれば何か起こるかもしれないと産業界で騒がれ、応用研究が盛んになった」と話す。83年には日本でネオジムを使う強力な永久磁石が開発。86年にはスイスでランタンを含む超電導物質が発見され、レアアースの知名度は世界で一気に高まった。
レアアースを入れると、なぜ性能が高まるのか。日本希土類学会会長を務める大阪大学の今中信人教授は「(原子を形づくる)電子が通る軌道が鍵を握る」と説明する。
原子はプラスの電気を帯びた原子核と、その周りを動くマイナスの電子からなる。原子核の周りには電子が通る軌道があり、この軌道は内側から層になって並んでいる。レアアースはこのうち4fと呼ばれる軌道に電子が詰まっていく元素で、磁石や光で優れた性能を引き出す。
4f軌道は太陽を回る惑星のように単純な円形ではなく、いびつな形になっている。タコの足のような奇妙な軌道もある。これにより電子の方向が不ぞろいになって磁力が高まりモーターに使う永久磁石のような強い性能を生み出す。蛍光体も種類により光の色が変わる。いびつな軌道がもたらす性質はレアアースが特に強く示す。中国の輸出規制によってレアアースを使わない磁石などの開発が進むが、実際にはほかの元素で同じ性能は出せない。
「実は4f軌道はまだわからないことだらけだ」と原子や分子の電子配置を研究する横浜市立大学の立川仁典教授は話す。立川教授は高速コンピューターを使ってレアアースはどんな性質があり、隠れた能力がないかどうか調べようとしている。ただ、レアアースは電子の数が多く、現在最速のコンピューターを使っても正確な計算は難しい。現在推定している軌道の形も間違っている可能性があるという。
今後コンピューターの能力が向上し複雑な計算を短時間で処理できるようになれば、レアアースを活用して現在より性能の高い材料の開発もできる。立川教授は「より強力な磁石や、室温で電気抵抗がゼロになる超電導物質も開発できるかもしれない」と期待する。
魅力的な性質を持つレアアースだが、入手しにくい事態が起こっている。ならば国内で人工的に作れないのだろうか。日本原子力研究開発機構の芳賀芳範研究主幹は「レアアースの複雑な電子の配置を人工的に作ることは不可能だ」と断言する。中国などがレアアースの隠し持つ優れた特性を解明し性能の高いハイテク製品を開発する可能性もある。日本がハイテク産業で世界をリードするにはレアアースの研究を最優先課題の1つにする必要がある。
レアアースはハイテクの調味料といわれる。材料に少し混ぜると、材料が持つ本来の性質を一変させるからだ。モーター向けの磁石ではレアアースのネオジムなどが主成分のため大量に使うが、照明や磁気記録に使う材料では全体の数%しかレアアースを含んでいない。しかし、レアアースを入れないと性能が向上できず製品化できない。
レアアースが最初に発見されたのは1794年。スウェーデンの小さな村で見つかった。その後、性質が似ている元素が複数見つかり、地球上の埋蔵量は少ないとみられたことから、レアアースと呼ばれるようになった。1960年代から応用研究が始まった。レーザーの発光材料として利用され、64年にはカラーテレビ用の赤色蛍光体が開発。日立製作所が発売したカラーテレビの「キドカラー」はユウロピウムという元素が使われた。明るさを示す“輝度”の高い希土類から、こう名付けた。
レアアースを国内で販売する信越化学工業の斎藤文彦・電子材料事業本部主任技術員は「80年代後半からレアアースを入れれば何か起こるかもしれないと産業界で騒がれ、応用研究が盛んになった」と話す。83年には日本でネオジムを使う強力な永久磁石が開発。86年にはスイスでランタンを含む超電導物質が発見され、レアアースの知名度は世界で一気に高まった。
レアアースを入れると、なぜ性能が高まるのか。日本希土類学会会長を務める大阪大学の今中信人教授は「(原子を形づくる)電子が通る軌道が鍵を握る」と説明する。
原子はプラスの電気を帯びた原子核と、その周りを動くマイナスの電子からなる。原子核の周りには電子が通る軌道があり、この軌道は内側から層になって並んでいる。レアアースはこのうち4fと呼ばれる軌道に電子が詰まっていく元素で、磁石や光で優れた性能を引き出す。
4f軌道は太陽を回る惑星のように単純な円形ではなく、いびつな形になっている。タコの足のような奇妙な軌道もある。これにより電子の方向が不ぞろいになって磁力が高まりモーターに使う永久磁石のような強い性能を生み出す。蛍光体も種類により光の色が変わる。いびつな軌道がもたらす性質はレアアースが特に強く示す。中国の輸出規制によってレアアースを使わない磁石などの開発が進むが、実際にはほかの元素で同じ性能は出せない。
「実は4f軌道はまだわからないことだらけだ」と原子や分子の電子配置を研究する横浜市立大学の立川仁典教授は話す。立川教授は高速コンピューターを使ってレアアースはどんな性質があり、隠れた能力がないかどうか調べようとしている。ただ、レアアースは電子の数が多く、現在最速のコンピューターを使っても正確な計算は難しい。現在推定している軌道の形も間違っている可能性があるという。
今後コンピューターの能力が向上し複雑な計算を短時間で処理できるようになれば、レアアースを活用して現在より性能の高い材料の開発もできる。立川教授は「より強力な磁石や、室温で電気抵抗がゼロになる超電導物質も開発できるかもしれない」と期待する。
魅力的な性質を持つレアアースだが、入手しにくい事態が起こっている。ならば国内で人工的に作れないのだろうか。日本原子力研究開発機構の芳賀芳範研究主幹は「レアアースの複雑な電子の配置を人工的に作ることは不可能だ」と断言する。中国などがレアアースの隠し持つ優れた特性を解明し性能の高いハイテク製品を開発する可能性もある。日本がハイテク産業で世界をリードするにはレアアースの研究を最優先課題の1つにする必要がある。
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