セクション

理学部

理学部の教育理念

教育目標

  • 自然科学の基礎体系を深く習得し、それを創造的に展開する能力の養成
  • 個々の知識を総合化し、新たな知的価値を創出する能力の養成

教育の特徴

  • 自由な雰囲気の下で学問的創造を何よりも大切にし、自律的学修が推奨される学風
  • 理学科のみの1学科制
  • 緩やかな専門化を経て、研究の最前線へ

望む学生像

  • 自由を尊重し、既成の権威や概念を無批判に受け入れない人
  • 自ら考え、新しい知を吸収し創造する姿勢を持つ人
  • 優れた科学的素養、論理的合理的思考力と語学能力を擁し、粘り強く問題解決を試みる人

理学は、自然現象を支配する原理や法則を探求する学問であります。その活動の長い歴史を通じて、人類の知的資産としての文化のより深い発展に大きな役割を果たしてきました。また、理学は人類全体の生活の向上と福祉に貢献することを目的としております。

京都大学理学部は、自由な雰囲気の下で学問的創造を何よりも大切にしてきました。この気風が、新しい学問分野の創造に重要な役割を果たしてきました。その一端は、卒業生の中から3名のノーベル賞受賞者と2名のフィールズ賞受賞者を出したことからも覗えます。この学風を継承しつつ、京都大学理学部は広く開かれた教育・研究機関として発展しています。

京都大学理学部は、上に掲げた教育理念を実現するために、理学科のみの1学科制をとっています。それは、学生諸君が自分に最も適切な専門分野を、自分自身の学修を通して見い出せるよう、専門化を緩やかに進めることが出来るためです。このために、学問分野の有機的な関連が分かるよう分野横断的講義が用意されています。その一方で自律的学修の姿勢を養うため、少人数対話型教育が充実されていると共に、学生による自主ゼミ等の勉学活動を積極的に支援する体制が整えられています。そして、相応しい分野を見い出した人が、フィールド実習や実験教育により、学問に対する情熱を沸き立たせられるようカリキュラムが工夫されております。このようにして、学生諸君が自ら体系的な基礎学力と技術を習得しつつ、学年の進行とともにその専門化の程度を進め、最終的にはその研究分野の最前線に接することを目指します。

このように組まれたカリキュラムによる修学により、自己の世界を広げ、自己の相対化ができ、自然に対して謙虚な探求的態度を常に維持できる存在となる基盤を獲得させます。卒業後は、その基盤に立って、研究者として、あるいは責任ある職業人として活躍し、新たな知的価値を創出することを目指しております。

理学部の概要

明治30年に京都帝国大学理工科大学の中核として創設されて以来、現在まで一貫して、出来るだけ視野の広い教育を授け、自由にして独創性に富む気風を育てることを理想としています。

本学部は全体で理学科1学科の構成で、多岐にわたる研究教育が行われています。志願者が、将来専攻する分野を出願時に決定することは難しいと思われますので、入学後、各人が学びながら最適な道を探して、専門化を徐々に進めていくことを期待しています。理学部の科目は一般教育科目、専門基礎科目、専門科目の三つに分類されています。4年間の学修期間のうち1・2年次で主として一般教育科目と専門基礎科目を広く履修します。専門基礎科目の中には、理学部における専門分野及び関連する学際的領域の研究の最先端や将来の展望について分かりやすく解説するオムニバス形式の講義も用意されています。

3・4年次においては主として専門科目を履修します。2年次の終わりに数理科学系、物理科学系、地球惑星科学系、化学系、生物科学系の五つの系のいずれかひとつに登録して専門化を進めます。ひとつの専門分野とその関連分野を重点的に学習し、最終的にはその研究の一端に触れることができることを目指しています。

4年次の学修科目の卒業研究は系毎に、数学講究(数学)、物理科学課題研究(物理学、宇宙物理学)、地球惑星科学課題研究(地球物理学、地質学鉱物学)、化学課題研究(化学)と生物科学課題研究(動物学、植物学、生物物理学)があります。これらは特定のテーマを通じて各専門分野の研究に触れる極めて重要な科目であり、少なくとも一つのテーマを選択して履修しなければなりません。

研究者的な資質を育む教育理念に明らかなように、卒業後大学院に進学する者が全体の5分の4以上に達し、博士の学位取得者は毎年100人を超えます。大学卒業後、民間企業等に就職し専門的・技術的職業に従事する者は全体の10分の1程度です。

各系の概要

数理科学系

京都大学理学部における数学の教育課程は、理学部学生全体を対象にするもの、数学を必要とする専門へ進もうとする学生のためのもの、主に数学を学習する数理科学系学生を主対象にするものの三つに大別されます。

1年次で学ぶ数学は高等学校の数学の発展ですが、より幅広く、深く、厳密になっています。全学共通科目では「微分積分学A」、「微分積分学B」、「線形代数学A」、「線形代数学B」と、理学部科目である「線型代数学演習A,B」があり、毎年70%以上の学生が履修しています。このうち「線型代数学演習A、B」は理学部だけにある科目で、理学部の教室で開講されています。

2年次前期に配当されている「微分積分学続論A」、「線形代数学続論」、「集合と位相」、「数学基礎演習I」は、将来数学を必要とする学生向けであり、特に「微分積分学続論A」は、物理科学系の学生にとって必須のものです。2年次後期からは数理科学系を志望する学生、数学が必要で数学に興味を持っている学生向けの科目が中心になります。「代数学入門」、「幾何学入門」、「微分積分学続論B」、「函数論」とこれらの演習である「数学基礎演習II」が中心です。

3年次では数理科学系の学生を主な対象として、代数学、幾何学、解析学の各分野で相当専門的な講義と演習が用意されています。3年次までのカリキュラムを消化すれば、知識としての数学の基礎付けは出来るものと考えられます。

4年次では卒業研究科目である「数学講究」を中心として学習することになります。各講究は数名単位のセミナー形式で行われ、数理科学系の学生は数学講究のどれかに所属し、教員の個人指導によって、数学の何たるかを学ぶことになります。

上に挙げた「配当」というのは、あくまで標準であり、3年次で学部の教育課程を修了してしまう学生もいます。実際、3年次修了で大学院へ進学する学生も珍しくありません。卒業生の大部分は大学院へ進学しますが、この傾向は今後ますます強くなるものと考えられます。

物理科学系

物理科学系は、物理学と宇宙物理学の専門分野に大きく二つに分かれます。そして物理学の専門分野は物性物理の分野と原子核・素粒子・宇宙の物理の分野とに更に分けられます。

金属、半導体、磁性体、超伝導体等の固体をはじめ、液体、流体、プラズマ、ソフトマター、生体にいたる物質の多彩な姿は原子分子の集合体が示す種々な相です。様々な条件の下でそれらを制御し、それらの性質の解明をめざす物性物理の分野は、現代文明を支える最も基礎的な学問分野の一つといえます。そこではミクロの世界を探索するための高度な実験手段や種々の数理的方法の適用開発を通して物質の新しい様相が次々に明らかにされつつあります。また、レーザー等により高精度に制御された原子や極低温下における原子は量子力学が支配する世界であり、そこで織り成す様々な現象は現代物理学の宝庫です。更に、非平衡条件下における自己組織化現象の解明等は生命科学ともつながる学際的分野を構成しています。

原子核・素粒子・宇宙の物理の分野では、原子よりも小さい極微の物質世界についての様々な現象や法則を研究するとともに、そのような極微の世界についての知識に基づいて、宇宙という極大の世界の構造や現象を研究しています。理論的な研究とともに、原子核・素粒子の極微世界の研究では加速器等を用いて、また宇宙の物理の研究では宇宙放射線の観測を行うなどの実験的研究が行われます。実験的研究の多くは巨大科学となっていますが、学部教育ではその基本を理解し基礎技術を身につけます。

宇宙物理学の分野では、太陽、太陽系、恒星、星間空間、銀河系、系外銀河から宇宙の大規模構造にわたるまで、様々な階層の天体の観測とそれに関する理論の研究を行っています。宇宙物理学の分野の特徴である個々の天体現象の解明とともに、宇宙を支配する法則や宇宙論の研究も行われています。

3年次に入ると、講義等の他に、課題演習、4年次では課題研究(卒業研究)があります。これは上記の分野から代表的なテーマを選んで、教員・学生がいくつかの小グループを作り、セミナー・観測・計算等を織りまぜて実習形式の教育を行うものです。課題演習では研究の先端を意識した基礎的テーマの学習を、課題研究では学生個人が研究そのものに部分的に触れることを目指しています。

地球惑星科学系

この学系には、地球物理学分野と地質学鉱物学分野があります。地球物理学分野では、固体地球物理学として、地球の形状・重力や水準の測定・地殻の変動などを調べる測地学、地表面下の構造や第四紀の地殻運動などを明らかにする活構造学、地震波の観測や解析、地震の発生機構や地球の内部構造を調べる地震学があります。水圏地球物理学として、陸水と海洋の運動・それらの関連などを解明する、陸水物理学や海洋物理学があり、大気圏物理学としては、大気の大循環を把握し、その数値計算やその力学を解き明かす気象学、長期間の気候変動や気候システムを解明する物理気候学があります。また、地球・惑星の電磁気的性質、超高層大気・磁気圏・惑星間空間の構造と変動を調べる地球電磁気学・太陽惑星系物理学があります。地質学鉱物学分野では、1)地球や隕石を構成する物質の物質科学的研究、2)地殻の造構運動と地球のより深部での過程との関連、3)地球表層部での生物圏とそれをとりまく水圏・気圏・宇宙環境の相互作用の歴史などを主なテーマとした教育と研究を行っています。

両分野とも2年次後期から徐々に専門化するような幅広いカリキュラムが組まれており、授業以外にも野外での調査実習や、各種の実験機器や計算機を用いた室内実験を経験しながら、やがて4年次では具体的なテーマについて卒業研究が行えるようになっています。このような教育や研究を通じて、地球や地球外の惑星などの生成・進化の過程を生き生きと感じることのできる人材の育成を目指しています。

化学系

現在、化学は、「物質の状態、性質及びその変化」の研究という共通点で結ばれた、多様性に富む物質科学の一分野を形成しています。いいかえると、化学は、原子、分子、生命から宇宙に至る、この自然界に存在するあらゆる物質をその研究対象とする学問分野です。そのため、化学系を専攻することは、物理科学系、地球惑星科学系、生物科学系と複合する領域を含む、広範囲にわたる学問分野を専攻することを意味します。このことを踏まえて、この系では広い視野をもって、物質科学の基礎となる知識を身につけさせることを、最優先の目標として学部教育を行っています。したがって、化学系を専攻する上で、他の系と異なる大きな特徴は、理論から実験のコースまでを含む物質科学の幅広い学習により、将来、どのような関連分野の研究を行う際にも望ましい、バランスのとれた基礎学力を身につけることができる点にあります。

具体的には、まず3年次で主として基礎的な科目群を履修します。この科目群は物質科学における基本的知識の修得と、実践を通じてのその本質の理解という2点を考慮し、量子化学、物理化学、無機化学、分析化学、有機化学、生物化学の各教科と、それらの演習、実験のコース(コンピューターの演習を含む)から構成されています。また基礎的な科目群とは別に、理論・物理化学、無機・物性化学、有機化学、生化学・分子生物学などのさまざまな分野にわたる、アドバンストコースとしての専門科目群が用意されています。3年次から4年次にかけ、各人の研究分野への興味に応じ、これらの専門科目を複数選択、履修し、基礎科目群の履修と並行してゆるやかに専門化を進めます。さらに、4年次では理論系や実験系の研究室の一つに所属し、少人数でスタッフの直接の指導のもと、実験などを通じて物質科学における思考や研究の方法を学び、先端の研究に触れられるよう配慮されています。

生物科学系

生物科学は、生命現象を様々な角度から研究し、理解しようとする学問体系です。生物科学系には動物学、植物学、生物物理学の3つの専門分野があり、そうした広範な学問体系を理解しやすいように教育的配慮がなされています。

動物学では、動物系統学、動物行動学、動物生態学、発生生物学、放射線生物学の他に、人類の起源と進化と多様性に関する人類学の講義が行われています。植物学では、植物系統分類学、植物生理学、植物分子生物学、植物分子遺伝学などの講義が行われています。また、講義内容の理解を助けるために講義に沿った実習があります。さらに、臨海実習・野外実習などがあり、フィールドに出て実際の生物に触れながら学べるように配慮されています。生物物理学は、核酸やタンパク質や脂質などの分子の構造と機能及び細胞の構造と機能をもとに生命現象を理解しようとするもので、そのために分子生物学、分子遺伝学、構造生物学、細胞生物学、分子情報学などの講義があります。また、脳・神経系のはたらきを分子・細胞レベルで理解するための講義もあります。

このように専門課程では、さまざまな分野をカバーするように講義や実習が用意されているので、各人の興味に応じていろいろな分野の講義を受けることができます。また、4年次のために各人の興味に応じて25の研究グループの中から一つを選ぶ生物科学課題研究があり、各学生が研究室に配属されます。教員や大学院生の直接の指導のもとに、生物科学の実験を通して研究を体験しながら生物科学の理解を一層深めることができます。

生物科学系では、各人の興味に応じた適度な専門化と、また同時に専門分野にとらわれない、幅広い知識と能力を持った人材の育成を目標にした教育を行っています。