中沢啓治さん:「ゲン」作者の詩、加藤登紀子さんが歌収録

毎日新聞 2014年04月07日 21時54分(最終更新 04月08日 03時14分)

「広島 愛の川」のレコーディングをする加藤登紀子さん=東京都港区で2014年4月7日、小川昌宏撮影
「広島 愛の川」のレコーディングをする加藤登紀子さん=東京都港区で2014年4月7日、小川昌宏撮影

 広島原爆を描いた漫画「はだしのゲン」で知られる故中沢啓治さん(2012年に73歳で死去)の詩「広島 愛の川」を、歌手の加藤登紀子さん(70)が歌うことになり、東京都内のスタジオで7日、収録に臨んだ。登紀子さんは「行間に伝えたいことがたくさんあり、歌うのが難しいが、原爆を生き抜いた中沢さんの強さと大きな優しさを次の世代に伝えたい」と語った。 

 きっかけはAKB48や東方神起らに楽曲を提供してきた作詞作曲家、山本加津彦さん(34)が、毎日新聞の記事(2013年6月)を読んで詩に感動し、メロディーが浮かんだことだった。小学生の頃に教室で「ゲン」と出合った世代。訃報に接して買い求め、読み返していた。山本さんは広島市に中沢さんの妻ミサヨさん(71)を訪ね、詩は晩年に幼なじみから「広島の歌を作ってくれよ」と頼まれて書いたことなどを聞いた。ミサヨさんは歌にして広めてほしいと望み、「生き方も含めて(夫が)好きだった登紀子さんを」と希望した。

 登紀子さんは旧満州(現中国東北部)ハルビン生まれ。太平洋戦争の敗戦と旧ソ連軍侵攻で、2歳8カ月で日本に引き揚げた体験を母から繰り返し聞いて育った。被爆後の広島で、母と懸命に生き抜いた少年を漫画で表現した中沢さんに共感した。収録に際し「ゲンは原爆が落とされた日に妹が生まれる。赤ん坊が母にすがり、母が今日どうやって子に食べさせようかと悩み、たゆまぬ命を表現した。歌を機にゲンを読んでもらいたい。戦争の歴史を正確に受け止める強さを若い人に持ってほしい」と語った。

 スタジオで登紀子さんの歌を聴いたミサヨさんは「悲しみが伝わった。この日が待ち遠しかった。夏が来る度に歌われてほしい」と語った。

 シングルCDは6月25日、ユニバーサルミュージックから発売。登紀子さんは東京都渋谷区のBunkamuraオーチャードホール(7月12日)や、広島交響楽団と広島市で共演するコンサート(同27日)などで披露する。問い合わせはトキコ・プランニング(03・3352・3875)。【松本博子】

 ◇「広島 愛の川」(1番のみ)

 愛を浮かべて 川流れ

 水の都の広島で

 語ろうよ川に向って

 怒り、悲しみ、優しさを

 ああ、川は 広島の川は

 世界の海へ流れ行く

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