時論公論 「深刻さ続く 原発汚染水」 2013年12月26日 (木) 午前0時~

水野 倫之  解説委員

汚染水流出の問題が表面化して5か月、現場は今どういう状況か、今月、私は福島第一原発を取材。汚染水の流出は止まる気配がなく、深刻な事態は続いている。収束にはまだかなり時間がかかると感じた。
今夜の時論公論は汚染水問題の課題について水野倫之解説委員。
 
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汚染水の流出が問題になったタンクやタービン建屋海側はどうなっているのか。現場はまだ線量が高く、防護服に全面マスクで向かった。

まずは300tの汚染水が漏れたタンクの現場。
問題のタンクはすでに撤去。水圧などでパッキンがずれて漏れたことが分かっており、ボルトで締めるタンクはいつ漏れてもおかしくないわけで、東電は漏えいを検知する水位計の取り付けを決め、この日も作業が。
また漏れた汚染水や汚染された雨水が海へ流出しないよう、タンクを囲むコンクリート製の堰は鉄板で30センチ分かさ上げされていた。

さらに近くのエリアでは漏れにくいとされる溶接型のタンクの設置も。東電は2015年までにすべて溶接型に置き換える計画、しかし1基組み立てるのに側面だけで11mの板を16枚つなぎ合わせる必要があり溶接部分は170m以上に。この日も溶接行われてたが、2日に1基設置するのがやっとのこと、毎日400t増える汚染水に対応するにはギリギリ。
 
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東電と政府は汚染水対策として、建屋周辺の土を凍らせて地下水の浸入を防ぐほか、雨水がしみ込んで地下水とならないよう敷地をアスファルトで舗装することを決定。
しかし1年以上かかるため、当面タンクの重要性は変わらない。様々な漏えい対策が進められてはいたが、これで万全とは言えない。
たとえば水位計、漏えい量が少ないと検知困難。
堰も、今週、たまっていた200t以上の汚染された雨水が土壌に漏れてしまうトラブルも発生。今後作業員による点検を、より徹底して行うことが重要。東電は1000基のタンクを作業員30人態勢で1日4回見回り、タンクは益々増える上に、今後ひび割れの有無など堰の状態も細かく見る必要があり、作業員をさらに増やして対応しなければ。

また溶接型のタンクの信頼性を確保するには、高度な溶接技術が必要。しかし高線量の現場が敬遠されて熟練の溶接作業員が思うように集まらない。東電は、今後溶接作業の一部を線量の低い原発の敷地外で行うことも検討して要員確保を急がなければ。
 
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タンクの次に向かったのはタービン建屋海側。
地下のトンネルに、タービン建屋から流れ込んだ汚染水が溜まったままで、一部が海に流出している。
このエリアは車内でも1時間で400μSvでバスから降りることはできなかったが、たくさんの井戸が掘られ、汚染された地下水の汲み上げが。しかしその効果は薄く、港の海水からは国の排出基準を超えるセシウムが検出され続けており、大量の汚染水流出は収まる気配がない。
そこで東電は建屋との接続部分を塞いだうえで来年中にトンネル内の汚染水を抜き取ることにしている。
しかし建屋の配管の貫通部分から汚染水が流れ込んできているとみられるため、ここを塞がなければならない。東電は氷の壁を作って塞ごうとしている。
地上から冷却液が通る管が入った袋を入れて汚染水ごと凍らせる計画で、東電が行った実験では氷の壁ができることを確認したということ。
しかしトンネルの中に作業員は入れないため、管は地上から打ち込む。作業員が設計図をしっかり読んで配管などをさけて凍結管を入れなければ。手間取れば被ばく量が増えるなど難しい作業となる。

このように、汚染水対策は最終的には作業員に負うところが大きい。
しかしその作業員、東電の廣瀬社長は「確保するのが非常に困難になっている」ことを最近認めた。現場で何が起きているのか。

福島第一原発で1日に働く3000人のうち2000人は協力企業の作業員。今回、福島県内の2次下請けの協力企業を取材したが、福島第一ほど作業環境の劣悪な現場はほかにはないという。
この協力企業では事故後、高線量の作業が避けられなかったため、結婚前の若い作業員を中心に退職者が相次ぎ、45人いた社員は3分の2に減った。
このため求人を出したが、応募は1件もない。結局ベテランほど現場に出る時間が増え、法律で定める被ばく限度を超え、もう現場に出られなくなったベテラン作業員がいる。
 
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作業員の応募がないのは除染作業に流れている可能性も。

線量が高いため、 福島第一原発構内ではきちんとすわって弁当を食べる場所もない。

今後作業員を確実に確保していくために、東電は環境や待遇の改善に最優先で取り組まなければならない。
まずは敷地内の除染を急ぐ必要。
また東電は今月から作業員全員の日当を1万円増額すると発表した。しかしこの会社によるといまだに増額分は下請けまで回ってきていない。作業員の待遇を改善をしなければ、この先作業員は集まらない。

この汚染水問題、現在検討されている対策がすべてうまくいったとしても、収束までには数年以上はかかる。この間、作業員が不足して廃炉の計画に影響が出ることがないよう、東電は今から長期的な要員計画を固めていってほしい。
 
(水野倫之 解説委員)