企画特集 1【ルポ かながわ】
見抜けブラック企業
新入社員が真新しいスーツで街を歩く春。就職活動を終え、やっと入社した会社が「ブラック企業」だったら――。過重な労働やパワハラが横行し、働き手を使い捨てにする企業による被害が深刻化している。本人や家族は自己防衛が必要だ。
県内に住む20代後半の女性は以前の会社で受けた傷が癒えず、再就職に不安を感じている。
大学卒業後に4年間アルバイトをしていたが、2011年に25人規模の小売業者に入社した。
顧客からの電話やメールへの対応が主な業務で、給与は月に手取り20万円。最長で月約90時間の残業があり、日付が変わって帰宅する時もあった。自宅にパソコンを持ち帰り、日曜の夜も仕事をした。残業代は一切、支給されなかった。
前任者からは「インフルエンザの時も、同僚がパソコンを自宅まで持ってきて仕事をさせられた」と聞いた。社員の健康診断の手配や年賀状の配送など、本来の業務とは関係ない仕事もふられた。
昨年2月、勤務場所が本社に変わると、ストレスを感じるように。会議で発言すれば社長に「会社の方針に従わないなら辞めてもらっていい」と叱責(しっ・せき)された。
腹痛で早退するようになり、過敏性腸症候群と診断された。早退してもパソコンは持ち帰り、自宅で仕事をする状況は続いた。電話応対にも声が震えるようになった。社長からは「髪の毛が抜けたらいい病院を紹介する」と言われた。会社は自分の味方ではないと思い知った。
5月、後任が決まるまで保留になっていた退職を再び申し出ると、「手続きはしない。退職手続きしないと他のところでは働けない」と脅された。医師に「会社を辞めることも休むこともできない」と伝えたところ、適応障害と強迫神経症で「1カ月の休養が必要」との診断書が出て、5月中旬から休んだ。
5月分から給与は振り込まれず、7月中旬付の退職届を送ると、解雇通知が届いた。「損害賠償を請求する」とも書かれていた。
女性は、若者の労働相談などを受け付けるNPO法人「POSSE」(本部・東京都)に相談。その後、未払い分の給与や残業代の支払い、慰謝料など約500万円を求め、労働審判により一部を受け取った。
横浜弁護士会は2月、ブラック企業の被害を考えるシンポジウムを横浜市内で開いた。過労死や、自殺を考えるまで追い詰められるなど取り返しのつかないケースも報告された。
パネリストの今野晴貴・POSSE代表によると、ブラック企業という言葉は、10年ごろから学生の間で広く使われるようになったという。若者の非正規雇用の問題が大きく取り上げられ、学生は「なんとしても、安定した正社員にならなければならない」と学校や家庭で言われてきた。
だが、「正社員雇用」を掲げながら使い潰すのがブラック企業だ。離職率の高さが特徴で、外食や小売り、介護、保育といった業種に多く、3年で5割が辞める小売業もあるという。「若者にこらえ性がないのではなく、会社が巧妙に自己都合による退職に追い詰めている」と今野代表は話した。
嶋崎量弁護士は「100人採用しても、最初から全員を育てる気がない。正社員を求める若者の心理を悪用し、悪質だ」と述べた。
親や周囲ができることは何か。今野代表は「親世代は頑張ればなんとかなるという考えが強い。だが、我慢していたら思うつぼ。実情を把握して欲しい」と語った。帰宅時間を親がメモするなどして、子どもの異変に気づいたら相談機関につなぐよう提案した。
県が作成したリーフレットでは過重労働のほか、賃金不払い残業やパワハラ、「正社員募集で採用されたにもかかわらず、入社したら契約社員だった」といった合意のない労働条件などを、「ブラック企業」の一例として挙げている。
神奈川労働局が昨年9月、若者の使い捨てが疑われる222事業所を調べたところ、8割を超える185事業所で法令違反が見つかった。違法な時間外労働が101事業所で、賃金の不払い残業は70事業所で見つかった。39事業所で、時間外・休日勤務が月100時間を超えた労働者がいた。
こうした被害を未然に防ごうと、労働局は昨年度、県内の12大学で働く上での基礎知識を知ってもらうための出前講義を開いた。
■求人や選考でこんな会社に要注意!
・業務内容を具体的に説明しない
・「若手でも活躍できる」とうたう
・不自然に大量採用する
・給料が明らかに安かったり、高かったりする
・過酷な労働条件について普通であるかのように説得される
・すぐに内定がでる
・内定後のフォローがない
(ブラック企業対策プロジェクト「ブラック企業の見分け方」より抜粋。全文はhttp://bktp.org/よりダウンロード可能)
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朝日新聞横浜総局
伊丹和弘
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