懲戒の理由となったのは、①クロマルハナバチ販売 、②他自治体でのホタルの水路造営に関することで、いずれも板橋区に断りなく独断で他自治体に事業を持ちかけ、営利企業に便宜供与した事実が確認されたためです。 ホタル館をめぐる数々の疑惑にはじめて決着がついたことになりますが、ホタルの闇はこれだけではありません。今回は懲戒理由のほかの問題について検討したいと思います。
最大の問題は「ホタル館でほんとうにホタルを飼育していたのか?」という疑惑です。すでに2月19日の区民環境委員会では「ホタルの成虫を外部から持ち込んだ」という関係者の証言があったことが報告されています。今回の懲戒免職の処分理由には含まれていませんが、外部からの持ち込みがあったのか、どうか、をぜひとも解明しなければなりません。
この問題を考えるうえで重要なのは、元職員がかかわっていた全国各地でのホタル放流イベントです。
たとえば2012年6月4日、「ふくしま復興ホタルプロジェクト」 というイベントで、福島県いわき市でゲンジ300匹、ヘイケ400匹の幼虫を放流しています。このイベントは当時、マスコミでも大々的に報道されました。 朝日新聞の「板橋のホタル 福島に里帰り」と見出しを掲げた記事では、放流したゲンジボタルは、「区のホタル生態環境館が、23年前に同(福島)県大熊町で採取した卵から繁殖を続けてきたものだ」と説明されています。
しかし、この記事の中にはイベントに板橋区が協力、協賛したということがどこにも書かれていません。
私はことし3月7日の区議会代表質問で「この福島県いわき市でのホタル放流イベントに板橋区がホタルの幼虫を提供した事実はあるか?」と坂本健区長に尋ねました。
区長はつぎのとおり答弁しました。
「福島県いわき市でのホタル放流につきましては、板橋区としての正式な依頼は受けてございません。
また、ホタル生態環境館の担当者に確認をしましたが、板橋区のホタルを福島県いわき市に提供した事実はないとのことでした」
どちらが本当なのでしょうか?
区長自身が本会議場で答弁した「正式な依頼は受けていない」が事実でしょう。
それでもいわき市で放流したホタルは板橋区ホタル館で飼育したホタルだと元職員が主張し続けるのであれば、元職員の独断によるものであり、区の財産の横領、または窃盗に近い行為だと言わざるを得ません。
しかし私は、ホタル館のホタルを放流したとは、思っていません。
いわき市に2012年6月4日に放流された幼虫は、7月21、22日には成虫となりホタル観賞会が予定されていました。
一方、板橋区ホタル館では6月22~24日に成虫が公開されています。
私が疑問に思うのは、7月に成虫になるホタル(元職員は「4~5令幼虫約数百匹」といっています)と、6月中に成虫になるホタルを、どうやって仕分けたのか? ということです。
もちろん、ホタルの専門家であるなら、幼虫の大きさで成長の程度は見分けはつくでしょう。しかし、700匹のホタルをホタル館のせせらぎから捕獲し、選別するのは、時間も手間も人手もかかるはずです。
そもそも羽化直前の時期にせせらぎに足を踏み入れて、ホタルに悪影響はないのか?心配するはずです。
どんな作業をすれば、ホタル館で7月に成虫になる4~5令虫のみをゲンジ300匹、ヘイケ400匹も選別できるのか? 元職員に説明してもらわなければなりません。
いわき市に大熊町由来のゲンジボタルを放流することについては、当時から「同じ福島県内とはいえ、ホタルの遺伝子の地域性を撹乱するもので、放流すべきではない」という批判がありました。
そして、この著書のなかで、いわき市に放流したヘイケボタルは「21年前にいわき市から預かった成虫の卵を孵化させたもの」と書いています。
いままで板橋区ホタル館のヘイケボタルは栃木県栗山町(現・日光市)で採取した卵を累代飼育をしてきたといわれてきました。
いわき市由来のヘイケボタルを20年以上も飼育しつづけてきたという話は、このいわき市での放流イベントで、はじめて聞く話です。
著書のなかにはさらに、「『生態環境館』では全国23か所のホタルさんを預かり、施設内で繁殖させているのですが、それぞれの遺伝子を保存し続けることにも配慮しています」と書かれています。
私がことし3月に、神社に電話で確認すると、神社のホタル担当の方は「震災後に全滅のリスクを避けるため、神社で生まれた卵の一部を板橋区ホタル館に預けたことがある」と話してくれました。
また、渋谷区のある公立小学校の学校だよりにも、2013年6月に「板橋区ホタル生態環境館の専門の方をお招きしてご助言をいただいています」「今年はこの地に適した成虫を放した後,メスの成虫を板橋区の施設に預かっていただき,生まれた幼虫を小学校のホタル池に戻すことも一案として検討」していることが書かれています。
この学校にも電話をかけてみると、副校長先生が「ホタルの成虫のつがいと、卵が生みつけられた土のかたまりを板橋区ホタル館の職員に預かってもらいました」と話してくれました。
神社のホタルは無事に神社にもどったことになっていますが、小学校のホタルは現在、行方がわからなくなっています。
子どもたちが育てたホタルですから、小学校に返してほしいのですが、元職員はこの件について何も語っていません。
ホタルやホタルの卵を元職員に預けたという証言は、確認できましたが、そのホタルをじっさいに板橋区のホタル館で飼育していたという事実は確認ができません。
ホタル館にはホタル飼育の水槽は6器しかなく、うち3つをゲンジボタル、のこり3つをヘイケボタルの飼育用と説明されているので、23か所ものホタルを交雑しないように飼育するなど、施設の条件としても「できる」とは到底思えません。
区議会代表質問で、この問題を質問したとき、坂本区長はつぎのように答弁しました。
「板橋区ホタル生態環境館は、他自治体や団体のホタルの幼虫を預かり、その方たちに代わって飼育する施設ではございません」。
いわき市のヘイケボタルをはじめ、全国23か所のホタルを預かり飼育していたという元職員の言動には、どこかにウソがあるとしか思えません。
いわき市由来のヘイケボタルがもしウソだとしたら、遺伝子撹乱という環境への影響という点からみても、見過ごせる問題ではありません。(つづく)