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日米共同訓練、対戦車火器射撃演習
2011年02月23日
この日の訓練開始は早朝からとなり、撮影にあたって前日深夜より移動を開始。取材チームの出発の地である大阪都市部では、外気温が6℃であったが、京都を抜けた頃には既に3℃、そして滋賀県に入り高島市近辺では遂に0℃となっていた。この日までの連日の強い寒気によって、饗庭野演習場は北海道の雪原を髣髴させる程に見事な雪景色となっていた。
さて、21日に公開された訓練では、日本側は、四国4県の防衛警備を担う陸上自衛隊第14旅団の第15普通科連隊より1コ中隊の約180名が参加。この第14旅団の前身は、大日本帝国陸軍時代の第11師団となり、日露戦争において旅順要塞の攻略で活躍し、名を馳せた名将、乃木将軍(乃木希典=のぎ まれすけ)を初代師団長(最終階級は陸軍大将)とした伝統のある部隊だ。
そして、一方の米側からは海兵隊、キャンプ・コートニーの第3海兵機動展開部隊(ⅢMEF:Marine Expeditionary Force)司令部隷下の第3海兵後方群第9工兵支援大隊より、1コ中隊の約170名が参加となった。沖縄の牧港補給地区をベースとする第3海兵後方群は、数年前より戦務支援群からの改称を受けており、沖縄の米軍再編計画でも、兵力削減とグアムへの移転の際に名前の挙がったことのある部隊である。なお、その隷下となる第9工兵支援大隊はキャンプ・ハンセンをベースとしている。
海兵隊らしく、デジタル・ウッドランドのBDU(Battle Dress Uniform:迷彩服)を上下に着用し、アーマー類はコヨーテ・ブラウンで統一。支給品のバックパックにも同様の迷彩パターンとなっているが、カメラ撮影を担当する海兵隊の隊員においてはカメラメーカーCanonのバックパック、200EG- Case for SLR Camerasを使用している姿も見受けられた(写真中央)。このCanon製のバックパックには、最大でカメラ本体を2個、取り替え用レンズを4個分収納することができる。Black/ODのツートンカラーで、戦場カメラマン(風)を目指すユーザー諸氏にもオススメできる一品だ。また、3枚目の写真では、右側に写る2名の兵士が着用しているジャケットの色味が何とも興味深い。その他の隊員が着用しているマーパット・グリーンと比べて明るく、日本の海兵隊マニアの間でも一時高値で取引されていたAOR2と呼ばれる迷彩と似た雰囲気にもみえるが、もちろん確証には至っていない。
さて、今回実施される一連の共同訓練は2月20日から3月6日までの期間において、下記要領で予定されている。
■主要訓練
・機能別訓練:
対戦車火器射撃、至近距離射撃、障害処理、攻撃戦闘、市街地戦闘
・総合訓練:
陣地攻撃における日米両部隊の機動と火力の相互連携要領および共同作戦時の日米各級指揮官の指揮統制要領
■実弾射撃
・陸上自衛隊:
対戦車火器、小銃等
・米海兵隊:
小銃、対戦車ロケット(AT-4)等
在沖縄米軍の再編問題、いわゆる普天間問題を皮切りに、尖閣諸島での中国との衝突や、北朝鮮による韓国延坪島砲撃事件、ロシアによる不当占拠が続く北方領土での軍備拡大問題などなど、日本を取り巻く近隣諸国の情勢において、これだけ一度に軍靴(ぐんか)の音が鳴り響いたことは、戦後65年でも例が無かったのではないだろうか。まさに平和ボケに浸っていた多くの日本人にとっても、日々流れるニュースの中に、ある種タブー化されていた「軍事」に関する問題が、政治や国際情勢と、切っても切り離せない密接な関係が現実にあることを思い知らされたのではないだろうか。
10tトレーラー程度の大きさはあるだろうか、屈強な海兵隊員が小さくさえ見えてしまうほどに大きな兵員輸送用車両が並ぶ。その大きな図体と迷彩が施されたボディーが格好良く、雪を掻き分けて登場する様子は圧巻だ。
また昨年末、政府は新防衛大綱(=22大綱)と中期防衛力整備計画(=23中期防)発表した。従来掲げていた「基盤的防衛力構想」から、「動的防衛力」の構築が初めて提唱されたのは周知のとおりだ。この「動的防衛力」について防衛省では、有事の際に迅速かつシームレスに対応することが述べられており、その背景に軍事科学技術の飛躍的な発展があるとし、有事の兆候が現れてから現実に事態が発生するまでの時間が、より短縮化傾向にあることを挙げている。また、防衛力を単に保持することにはとどまらず、情報収集・警戒監視・偵察活動など、安全保障上での抑止力の信頼性を高めるとしている。
以上のことからも、相対的に耳障りの良さそうな内容でまとめられ、政府による安全保障理事会と閣議の決定がなされた格好となっているが、その詳細を紐解いてみてみると、現実として抱えている問題点との乖離(かいり)が目立つ。それら個々で抱える問題については、今回のテーマとは掛け離れた内容となってしまうので、割愛させて頂くとして、興味のある方は、そうした専門書籍が多数存在しているので、そちらをご覧頂ければ幸いである。
そしてまた、新大綱でもう1つ大きな特徴として掲げられた「南西諸島の防衛強化」についても注目が集まるところだ。これはもう端的に中国対策として理解されている内容といえ、あの唾棄(だき)すべき中国による蛮行が、今後繰り返されない為にも、必要な施策の1つであると認識できる。
冷戦時、ソ連の脅威による上陸・侵攻を想定していたが、その可能性が低減したとして、近年いずれの防衛計画においても、その回を重ねる毎に、陸上装備の削減がおこなわれてきた。限られた防衛予算の中、とりわけ陸上自衛隊は、予算カットの波を大きく受けている格好となっている。
従来より継承し続けられてきた防衛費の「GDP1%論」は、経済成長の低下に伴い、こと近年において、その劣悪ぶりが浮かび上がってきた。弾道ミサイルやテロなど「新たな脅威」が次々に現実のものとして降りかかっている最中、果たしてGDPの1%を譲ることの出来ない機軸として算出することが、本質を突いた防衛体制となっているのか、疑問を感じると同時に危機感を抱かざるを得ないのではないだろうか。
近年における地政学的に日本を取り巻く、周辺諸国との軍事情勢をみた場合、空海戦力への比重が高く、こと戦車に対抗するような状況が少なくなっきているのかもしれない。しかし、それでもやはり戦局の最終を決定付けるのは、陸上戦であるのは、古今東西ゆるぎないものではないだろうか。
英国生まれの米国の経済学者であるKenneth Ewart Boulding(ケネス・エワート・ボールディング)は60年代前半に、軍事行動における攻撃目標が、母国との距離が遠いほど、軍事力の影響を及ぼし難いことを理論的に説いた。「Loss of Strength Gradient」=「強度喪失勾配」の法則と呼ばれるこの理論では、「距離と軍事作戦」の重要性について詳しく述べている。また一方で、距離が近くとも、海洋を隔てた状況など、陸続きでない国家間での戦争においては、空爆や遠方射撃による攻撃は可能であるが、このような場合でも、最終的な戦局を左右するのは揚陸後の陸上戦ともいわれてきた。
米軍が所有する砂漠仕様のTANカラーに塗装されたハンビーは、ミリタリーマニアなら一度は憧れる車輌だ。対する陸自も負けていない。名だたる世界のトップメーカーを有する日本では、自動車製造世界一のトヨタ自動車が製造を担当した「疾風(はやて)」こと、高機動車(高機:コウキ)がその存在感をアピール。
さて、今回の訓練では仮想敵国がどこであるか、また実際にどのような戦闘状況を想定した際の訓練であるかといったことは、報道陣へ特段の説明が無かった。しかし、海洋国家日本で空・海における「接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area Denial: A2/AD)」を掲げる中にあっても、陸戦の雄である戦車との対峙を想定した、対戦車弾発射訓練をおこなうのは十分な意義をもつものである考えられる。
AT-4は、個人携行が可能な対戦車火器とするため、大型化・重量化を回避するような設計となっている。一方で、高い破壊力を維持させるために、AT4ではカートリッジケースのアッセンブリーにおいてHEAT(High-Explosive Anti-Tank:対戦車榴弾)形状としている。HEATのメイン構成においては、成形炸薬弾が活用され、モンロー効果を狙った造りとなっている。モンロー効果とは、円錐形状に掘り込んだ爆薬の後端を起爆させることで、円錐形状に爆轟波が集中する現象のことで、成形炸薬弾の構成には欠かせない特性とされる。爆轟波によるジェット気流は、実に10Km/sにも達し、その莫大な運動量が衝突することで、圧力と温度による変換がおこなわれ、膨大な破壊力へと繋がるのだ。この衝撃波理論を提唱したフォン・ノイマン、解析をおこなったモンローの名を連ねて、モンロー・ノイマン効果(Munroe/Neumann Effect)として知られている。
今回海兵隊員が自衛隊員向けにおこなった解説の冒頭で、AT-4のその特異な形状について触れ、その構造上、射撃においては、右肩からのみの発射が可能であることが述べられた。隊員の解説によると、AT-4のリアサイトはターゲットまでの距離を100-500mまで調整対応が可能としており、サイトの1つのメモリで50m区切りとなっているとのことだ。また、AT-4の最大射程は2,100m、最大有効射程は300mとのことが解説され、今回のような訓練時では、ターゲットまで30mの射程を、また戦闘時においては最低でも10mは射程距離を確保しておかねばならないとしている。
海兵隊員による実射結果はというと、300mほど離れたターゲットに対する2回の射撃いずれも外すものとなった。トリガーを引いた直後にターゲット側の地表を打ち砕く轟音が、ほぼ同時に鳴り響く。アイアンサイトでの射撃ゆえ、精度は高いものではないと言えそうだ。
弾頭の発射直後、AT-4本体後部には高温により空気に靄(もや)が掛かっているのが分かる。射場から50m近く離れた距離で撮影していても、発射時の衝撃による発生した轟音とソニックウェーブにより、空気の振動を感じることができる。ちなみにこの日の取材にあたって陸自広報からの案内では、射撃撮影の参加者は耳栓の準備が伝えられていた。
なお参考までに、AT-4の操作方法については下記海外サイトにイラスト付きで紹介されている。興味のある方はご覧頂きたい。
続いて陸自側から装備展示が予定されている01式(まるひとしき)軽対戦車誘導弾の準備までの間、少し時間が空いたので、海兵隊員の装備や車輌などなど撮影してみた。時系列的に少し前後する写真も含めて一挙にご紹介してみよう。
また、中央の写真では5.56mm軽機関銃のMINIMIにTA11SDO-CPが光学機器として搭載されていることに注目だ。こちらの詳細については、前回取材をおこなった霧島演習場での陸自と海兵隊による合同演習のレポートを参照頂きたい。
それ以外で海兵隊員の手元を彩っていることが多いのが、Mechanixのグローブだ。以前、隊員に尋ねてみたところ、Mechanixのグローブを選ぶ理由は「安いからさ」と笑顔で答えてくれた。
もちろん、日本国内で出回ることもなければ、使用することも不可(禁止)だが、モナカ仕様となったダミーバージョンがZ-Tacticalより登場しているので、そちらで雰囲気重視のコスプレアイテムとして楽しむことができる。汚れ具合などを再現して、自分なりの1つを演出するのも面白い。なお、「AN/PRC」とは主に軍用電子機器に特徴的な接頭語である「Army/Navy」と「Portable Radio Communication」から由来している。
右:ストックが塗装されたMINIMIを持つ海兵隊員。光学機器としてTrijicon TA11SDO-CPが搭載されている。
右:TAG製のワンポイント・スリングを使用している海兵隊員。ダンプ・ポーチ内には夜間の任務で使用するのだろうか、サイリュームが放り込まれているのが確認できる。
右:左太腿にマガジンポーチ・ホルスターを3つ横並びで装着している。各マガジンポーチがダブル仕様となっているので、計6本のフルロードマガジンが入る計算となり、かなりの重量が予想される。
右:女性の海兵隊員。訓練展示中はコンパクトカメラで要所を記録していた。この他にも数名の女性隊員が男性隊員と混じって存在していた。
さて、本日の対戦車火器射撃訓練の展示も終盤となり、陸自側から01式軽対戦車誘導弾の射場への搬入がおこなわれた。「ATM-5」として97年度から試作開発が進められた01式軽対戦車誘導弾は、略称「LMAT:ラット」や部隊内で「まるひとしき」、「軽マット」と呼ばれ、陸上自衛隊の普通科部隊に装備されている。ちなみに「MAT(マット)」とは、「Missile Anti Tank:対戦車ミサイル」からきている。
01式軽対戦車誘導弾は、主として近距離域の対機甲戦闘において、敵戦車などを撃破するために使用する。川崎重工による製造となった純国産となり、84mm無反動砲(84RR)のカール・グスタフからの更新が進められた。
先程登場した、米軍が運用するAT-4が対戦車「ロケット」に対して、こちらは対戦車「ミサイル」として分類される。「ロケット」と「ミサイル」においては、厳密な定義は専門家の間でも意見が分かれる部分を残しつつも、その違いは「誘導装置」の有無が1つの大きな目安となるだろう。
さてこの「まるひとしき」では、「赤外線画像誘導式」と呼ばれる仕組みによって、戦車などの車輌から発する熱源の赤外線を感知し、ミサイルを誘導し撃破を狙う。ターゲットの熱源から発せられる赤外線の大きさ・強さで認識させていた従来の方式から、その形状を画像認識させることで、より精度の高いミサイル誘導がおこなえるようになっている。
赤外線画像による目標探知については、中波長帯の赤外線画像データを取り込む際、射手とターゲットとの距離がひらくほど、赤外線の大気減衰が大きくなり、赤外線の認識が困難となる。従来はターゲットの赤外線画像を取得後、実際に目視でターゲットとの距離を確認する必要があったが、現在では赤外線画像の取得後にターゲットと背景との輝度差や温度差を算出し、大気透過率を考慮するなど、その技術レベルが格段に上昇しているといわれている。
軽装甲機動車が射場へ進入。軽装甲機動車は小松製作所による製造。その独特で凛々しい外観に、ファンが多いのも頷ける。
そして程なくるすると、軽装甲機動車のターレットハッチから01式軽対戦車誘導弾を構える陸自隊員の姿が見え、射撃がもう間も無くおこなわれようとしていることが知らされる。
周辺の確認をおこなった後、いよいよ射撃開始。射撃距離や、ターゲットの背景との温度差など、射撃性能や赤外線画像での認識に関する事項については、さらりと一通りの解説を受けたが、一部機密情報扱いとのことで、公開がおこなえないことをご了承願いたい。
⇒日米共同訓練、対戦車火器射撃演習(01式軽対戦車誘導弾編)
富士総合火力演習など、陸自が主催する演習で射撃展示されているものをご覧になった方でご存知の方も多いが、発射後、ミサイルの飛翔に当たっては、ミサイルの左右に羽状のものが展開し、推進力と軌道の安定性に一役買っている。このことは、また同時にバックブラスト(発射時の後方爆炎)の強い米軍のFGM-148ジャベリンと違い、射手の安全性が高いとして評価されている。また、発射後の軌道において戦車など、装甲車輌の弱点といわれている車体上面へのトップアタックをおこなうダイブモードと、車輌を水平方向に近い状態で狙う低身弾道モードといった、2つの弾道モードが用意されている。