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ここに注目! 『移民規制とEUの理念』2014年01月29日 (水)
百瀬 好道 解説委員
ここに注目です。
ヨーロッパでは、イギリスが同じEU加盟国からの市民の移住を事実上制限する措置をとった事に対し、人の移動の自由を定めたEUの理念に反すると批判の声が上がっています。
百瀬解説委員です。
Q:イギリスはなぜ突然そんな措置をとったのですか?
所得の低い東ヨーロッパの人たちの移住ラッシュで、イギリス人の仕事が失われたり福祉制度が乱用されたりするのを防ぐためだと政府は説明している。今月からルーマニア人とブルガリア人は、EU域内で自由に働けるようになった。そこでイギリスは、外国人への社会福祉の給付を格段に厳しくする事で、移民が押し寄せるのを防ごうとしているわけだ。
Q:その措置の何が問題なのですか?
加盟国の国民なら、域内のどこにも自由に行けて働くことができるのがEUの大前提だ。
イギリスの措置は、このEUの基本理念に反すると他の加盟国やEU当局は批判しているのだ。これまでは移民の規制というと、中東やアフリカといったEU域外からの人たちが対象だった。それが今度は仲間同士で排除や選別をしようとしている。移民問題がヨーロッパで深刻化しているということの表れだと思う。
Q:なぜキャメロン首相は強硬な姿勢を続けるのですか?
政治的な理由が背景にある。イギリスではユーロ危機をきっかけに、反EU感情や移民排除の傾向が強まっている。直近世論調査で、反移民とEU脱退を掲げるナショナリズム政党が、支持率で保守・労働の2大政党を抑えてトップに躍り出た。来年の総選挙を控え、キャメロン首相は移民規制の強化を梃子に、なんとか劣勢挽回をしたいと考えている。
Q:この問題、今後どうなりそうですか?
気掛かりなのは、排外主義的な政党への支持が、フランスやオランダをはじめとしてイギリス以外の国にも広がっていることだ。5月にはEUの議会選挙があるが、こうした政党の躍進が懸念されている。開かれたヨーロッパを保つのか、内向きの傾向がさらに強まるのか、移民問題はヨーロッパの進路を占う今年のキーワードになると思う。