「価値あるコラボはフェアな状態で生まれる」小笠原治氏が語る、IoT時代の“ルータな人”待望論【特集:New Order】
2014/04/07公開
さくらインターネットの創業陣の1人として、いまやWebサービスの汎用インフラとなったクラウドサービスを国内でいち早く手掛け、その後はシェアワークスペース『NEWSBASE』やWeb業界で有名な立ち飲みバー『awabar』を開業。
シリアルアントレプレナー(連続的起業家)として、そして投資家として、小笠原治氏がかかわるビジネスには必ず「コネクト」というキーワードが隠れている。
近年は、【ハードウエア×インターネット】、【モノづくり×スタートアップ】をテーマに、アクセラレーターとして多方面で活躍。
昨年DMM.comが立ち上げた『DMM 3Dプリント』ではパートナーを務め、デジタルファブリケーションの支援・投資を行う『ABBALab』では設立者としてMOVIDA JAPAN孫泰蔵氏と協働するなど、にわかに脚光を浴びるIoT(モノのインターネット)実現のきっかけづくりに奔走している。
さらに今年4月、北九州に作られた「Fab×IT」をテーマにしたインキュベーション施設『fabbit』の企画・運営にも携わるなど、特集New Orderのテーマである「融合」について考える上で、今、最も話を聞くべき人物といえる。
そんな小笠原氏が、異質な人やモノをつなげていく際に大切にしていることとは何か? 同氏の話に耳を傾けよう。
「ハブな人」と「ルータな人」の違い
―― 携わっているプロジェクトの数々を拝見する限り、小笠原さんのお仕事を一言で説明するのはもはや不可能ですね(笑)。お忙しい中で取材を受けてくださりありがとうございます。
日ごろはあまり表に出ない役回りなので、ちょっと照れますね。
―― DMM 3DプリントやABBALabなど、昨年から始めた取り組みは軌道に乗りつつありますか?
ええ、何とか、おかげさまで。DMMさんやアパマンさん、(MOVIDA JAPANの孫)泰蔵さんという、強烈な方々に挟まれながら、細い平均台の上を歩いているよねとよく言われます(苦笑)。
―― 小笠原さんのお仕事遍歴を見ると、最初はネット起業家だったのに、途中でawabarやNEWSBASEのような「場づくりの人」に変わっています。なぜ方向転換を?
起業家、投資家、飲食店オーナーと、さまざまな顔を持つ小笠原氏
awabarを始めたのは、人と人とが気軽に出会える場所が作りたかったから。4~5年くらい前、ベンチャーというか、その中でも超ド短期に急成長を目指すスタートアップ気運のようなものが高まってきたのを感じて、「プレイヤーとして競争に参加すんじゃなくて、競争できるフィールドを広げたり、競争に参加するプレイヤーを支援できる人になろう」と思ったんです。
だから、awabarを例えるなら、冒険を始めようとしている人たちが集う「ルイーダの酒場」。僕はそれを切り盛りする存在でいたいと。
ここ(※取材はNEWSBASEで行われた)をシェアワークスペースとしてオープンしたのも、人と人、人と仕事が出会って、その延長線上でビジネスとお金がつながるようにしたかったからです。
―― じゃあawabarやNEWSBASEは「ハブ」だと?
いや、僕がやりたいのはちょっと違っていて。ハブって、基本的にはノードを接続することで1つのネットワークを大きくしますよね。僕はネットワーク同士をつなげられる「ルータな人」になりたいんです。
―― 「ハブな人」と「ルータな人」の違いとは?
ハブは単なる集線装置で、ルータはネットワーク上を行き来するデータを別のネットワークにつなげる役割。だから、「情報が行き来するだけの場所」をハブとするなら、僕がやりたいのは、ルータのように違ったネットワーク上にある人々や知識、資金を結び付けることなんですね。
この辺りは、インフラ出身者っぽいこだわりがあります(笑)。
例えば、面白いアイデアと志を持っている起業志望の人がいるとして、優秀なエンジニアや支援してくれる投資家を探しているとしましょう。そういう人がawabarやNEWSBASEに来た時、僕が「そういう人を知ってるから紹介しようか」と何気なく言うだけなら、それはハブでしかない。
アイデアは形にしなければ意味がなく、そのためにお金や技術力が必要なら、バックボーンを把握して、誰と誰がどんなタイミングで、どういう風につながったら面白くなるかまで考えて、行動に移していく。それが「ルータな人」だと思うんです。
―― 例を挙げると?
具体的なの出しちゃうと、「え? アレそうだったの?」とか不快感を持たれちゃうかもなんですが(笑)、例えば、投資先の一つである音楽コラボサービスは、awabarでとある投資家の方にピッチしたことが、次のステップに進むきっかけになった、というのがありましたね。
その時は、「具体的に興味を持ってくれそうな事業会社と強いつながりを持つ投資家は誰か」を考えながら、徐々に話を振っていました。
pixivの片桐(孝憲)くんによく言われるのは、「ネット界隈における地方のライブハウス店長」って役割を狙ってるよねって(笑)。
ソフト×ハードが融合するためには、「IXな人」の育成が不可欠
取材場所となったNEWSBASE1階には、多くの3Dプリンタが
―― なるほど。最近のNEWSBASEは、3Dプリンタを複数台導入するなど、デジタルファブリケーションを生み出すルータとしても存在感を増していますね。
もともと、nomadはOpen、Share、Joinという3つのキーワードを掲げて事業を始めました。
この3条件は、ソフトウエア産業や、OSSの発展によるメリットを享受してきたネット産業が急激に伸びた理由でもあります。
OSSは、誰かが作ったソフトウエアのソースコードをネット上に公開し、シェアし、その開発哲学に共感したプログラマーがジョインしていくことで進化してきました。
そういう発想方法や行動様式によって、モノづくりが変わり始めたら、もっと面白い世の中になるだろう。そう感じて、NEWSBASEをデジタルファブリケーションの創発拠点にしようと思ったのです。
ただ、3Dプリントの普及は、デジタルファブリケーションだったり、オープンハードウエアのトレンドを決定付ける「最後のワンピース」でしかないと考えています。
中国のアリババなどを利用すれば、けっこう前からプロダクトの小ロット生産に必要な部品などの調達は可能になっていたし、3Dプリントサービスも今ほど安価ではなかったものの以前から存在していた。4~5年くらい前から、下地はできつつあったんです。
―― 最近バズワード化している「IoT(モノのインターネット)」へつながっていく動きは、すでにそのころから起こっていたと?
大まかに言えば、そういうことになると思っています。
いつの時代にも先を見ている人たちがいて、Webブラウザの中だけでできることや、スマートフォンの画面の中でできることには限界があることを感じ取っていたし、「次はどうする?」、「何が面白い?」という議論はけっこう前から起きていました。
その過程で、モノづくりがソフト開発やネットの世界と徐々に近付き始めて、そこに3Dプリンタブームがやってきた。
また、クラウドファンディングによる資金調達が、挑戦的なハードウエアを小ロットで生産する際に有効な手段になることも分かってきました。技術面でもお金の面でも、こうした複数の要素がそろってきたことも、IoTが現実味を持ち始めた要因だと考えています。
―― では、ソフトとハード、ネットとハードの融合を加速させるには、何が必要だと考えていますか?
やっぱり、人と人のつながり方が大事だと思います。ソフトウエアエンジニアとモノづくりエンジニアって”違う人種”ですからね。してきた経験が違えば、勘所も違うし、開発の過程で大事にしている価値観も違うわけで。
―― 情報工学の人と機械工学の人の違い、みたいなものですか?
それもあるでしょうけれど、扱う技術の違いよりも、身を置いてきた産業の違いが大きいと思います。
ソフトウエア産業やネット産業などで育ってきた人たちというのは、「まずやっちゃえ」みたいなイケイケどんどんな方が多い(笑)。
次々にイノベーションが起きる急成長期の業界の中で生き残るため、常に変化の波にさらされながら、価値観や行動パターンを身に付けてきたからでしょう。
一方、モノづくり産業というのは、特にここ10数年間はゆるやかに衰退するような時流にありました。中の人たちがダメだったわけではなく、産業自体が成熟し切って、次のイノベーションを模索しているタイミングだったからです。
あくまでも一般的な傾向値として、モノ系のエンジニアはとても実直にモノづくりに取り組むものの、ネット産業の人たちが持っているようなアグレッシブさには欠ける節があります。
そういう違いを持った両者がつながって、新しいモノを生み出していく時代が来たわけですから、双方が経験の違いを乗り越えて歩み寄っていく必要があります。
IoTサービスの実現に向けて「超えるべき壁」について話す小笠原氏
―― 小笠原さんは、そこでもルータになろうとしているわけですね?
『ABBALab』は、まさにそういう役割を果たそうと思って立ち上げました。
ソフトの人とハードの人をつないで、出てきたアイデアをプロトタイピングし、クラウドファンディングなどのアプローチで資金調達とマーケティングをしながら一定量の生産まで結び付けていくプロセスをサポートしていこうと。
僕らはそれを「適量生産」と呼んでいます。大量生産・大量消費の時代はとっくに終わっているので、確実に市場ニーズをつかんで、利益につながる適量の生産に到達させるのです。
ただ、実際には、多くのプロジェクトが適量生産にたどり着く手前のフェーズで、融合がうまく行かなくなるケースが多いのですが。
―― その壁を乗り越えるために、小笠原さんは何を心掛けていらっしゃるのか教えてください。
作るモノやかかわる人たちが違えば、動き方はケース・バイ・ケースになります。だから成功の方程式のようなものはありません。
その前提を踏まえた上で、最近僕が仕掛けようとしているのは、異業種ハッカソンの企画ですね。比較的経験値の高い企業さんなどにテーマを持ってきて頂いて、それを元にソフトウエアエンジニアとハードウエアエンジニアが「一緒に何かを創り出す経験」をするための場を提供しようと考えています。大雑把な言い方かもしれませんが、同じ釜のメシを食って、1つのモノを共に作る経験さえ増えていけば、互いに価値観の違いを乗り越えて良いチームワークが生まれると思っています。
結果として、「ルータな人」というよりも「IX(Internet Exchnge)的な人」が、ソフト側からもハード側からも生まれてくれば、どんどん面白いIoTサービスが出てくるだろうという考えです。
フェアなつながりを生むためにも、お金は「不動の2番」に置くべき
―― IXな人、つまりネットワークとネットワーク間でピアを張れる人を増やす。それが、次世代のモノづくりを活発にすると?
そうですね。僕の経験上、異なるバックボーンを持つ人同士が何かを一緒にやる時の失敗要因となるのが、互いにとってフェアじゃない状況で物事が進むことです。
よく、ビジネスの現場では、交渉事なのに「お互いWin-Winになるように」という言葉が出てくるじゃないですか。あれ、好きじゃないんですよ。というか、あり得なくないですか?
こういう言葉の出る時って、何か隠して進めているようなフェアじゃない歪曲とか、操作を感じてしまうんですよね。
―― では、小笠原さんの考える「フェアな状態」とは?
一緒に取り組む・関わる時に必要とされる対価が、お互いに納得できるという状態です。
開発であれば、自分の「やってきたこと」と「やりたいこと」が、相手からも必要され、その対価に納得出来るのがフェアな状態。自分がやりたいことを実現するために、相手のスキルや資金を使いたいだけ、という状況はフェアではありません。
投資であれば、投資することによって求める対価(リターン)が、投資先の事業主にとって適正かどうかが大切になります。その判断は非常に難しいところではありますが、だからこそ、ピアを張れるIXな人に価値があると思っています。
―― 創り手と投資側がフェアにつながるには、どうすればいいのでしょうか?
経営者と投資家が良好な関係でつながることができれば良いのですが、時には水と油、アンフェアな関係になったりします。だから僕としては、水と油ではなく、水と果汁みたいな関係づくりをしたいと思っています(笑)。
起業家が濃縮還元果汁で、投資家の資金が水のような関係と言えばいいですかね。
エンジェル投資家たちは、サービス以上に、それを作ろうとしているメンバーに可能性を見出しているケースもあります。その場合、あとでサービス内容が変わるとしても、投資は実行されるし、結果として「ピボットに成功した」という事例にもなったりします。
逆に、投資を受ける側が「お金」を一番に考えて、作るモノへのこだわりを2番目、3番目に置いてしまった結果、うまくいかなければ投資家も経営者も失敗を味わうことになります。
大切なのは、投資する側と受ける側が前もって「どういう対価を一番に求めて自分たちはつながるのか」をはっきりとフェアにぶつけ合うことです。そして、僕が常に心掛けているのは、「お金は『不動の2番』に置いておく」ことなんです。
―― お金を「不動の2番に置く」とは?
事業を運営していく上で、最も重要な「1番目の優先事項」は、その時々で変わります。
立ち上げ当初は理念やサービスポリシーが最重要だったけれど、うまく成長軌道に乗ってチームメンバーが増えてきたら組織運営のポリシーが最重要になる局面も……などというケースは、よくあることです。
投資家から得る資金というのは、常にその局面での「1番の優先事項」を果すために使うべきだと思うんですね。一方、投資する側も、そう考えてお金を出さなきゃダメだと思う。
お互いにお金稼ぎを常に1番にしないといけないとなってしまうと、事業としての魅力や志を失うでしょうし、お金が3番、4番目の優先順位になってしまうと事業の存続が危ぶまれる。だから、お金は常に「気まぐれな1番」のための「不動の2番」なんです。
―― 共感できる考え方です。貴重なお話をありがとうございました。
取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴