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格闘技コラム
試合後、腫れ上がったエルナンデスの顔とは対照的に、井上尚弥の顔は綺麗なままだった。無傷で世界を獲った怪物はどこまで上るのだろうか。
photograph by AP/AFLO
格闘技特報

井上尚弥、6戦目で最速世界獲得!
王者が噛ませ犬に見えた“力の差”。

渋谷淳 = 文

text by Jun Shibuya

photograph by AP/AFLO

 怪物と命名された20歳の井上尚弥(大橋ジム)が4月6日、WBC世界ライトフライ級王者のアドリアン・エルナンデス(メキシコ)を6回TKOで下し、日本最速記録となるプロ6戦目で世界タイトルを獲得した。

 高校生で世界選手権に出場。アマチュアの国内最高峰、全日本選手権をシニアを押しのけて制するなどの実績を引っさげ、鳴物入りでプロデビューした井上。プロ入り後も海外のナショナルチャンピオン、日本ランカー、日本王者、東洋太平洋王者とステップアップし、その都度能力の高さを見せつけてきた。それでも世界の舞台、本当に強い選手と戦うまでは「まだ試されていない」と見るのがボクシング界の常識だ。「6戦目で世界挑戦は早い」と見る向きもあった。そんな外野の声を、井上は己の拳でねじ伏せてしまった。

 試合後のドレッシングルームで、うつむきながら声を絞り出したエルナンデスの姿が試合のすべてを物語っていた。

「私の調子はよかったが、ナオヤがグレートだった。スピードがあり、上手にパンチを外すことができる。再戦? もしリベンジできるのであれば希望するが……」

 もう一度戦いたい。本気でそう考えている表情ではなかった。長いキャリアで築き上げたプライドを20歳のホープに粉々にされた前王者の姿は痛々しくさえ見えた。

 井上の感想は対照的だ。

「今日はすごく楽しかった。力のある相手と殴り合っている実感。やっぱりこれがボクシングだなと思いました」

メキシカン王者が、噛ませ犬にしか見えない展開。

 序盤の攻防は圧倒的だった。ゴングと同時に勢いよくキャンバスを蹴った井上は、右ボディストレートを皮切りにしてワンツーからボディ、右ストレートから入って左アッパーなど、鮮やかなコンビネーションブローを次々と打ち込んでいった。躍動感が違う。チャンピオンは早くも防戦一方だ。まるで日本のホープが噛ませ犬の外国人選手と試合をしていると錯覚するほどだった。

 無論、エルナンデスは噛ませ犬などではない。戦績は32戦して29勝18KO2敗1分。世界タイトルを2度獲得し、今回が5度目の防衛戦となる28歳である。場数も踏んでいるし「昔の名前で出ています」というロートルでもない。そのメキシカン王者がまるでホープにキャリアを積ませる中堅選手にしか見えないのだ。井上はボクシングのレッスンを施すように世界チャンピオンを翻弄し、最初の4ラウンドをフルマークで獲得してみせた。

<次ページへ続く>

【次ページ】 減量の影響で、試合中に足がつるアクシデント……。

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