- 一体何を根拠にV字回復
デフレ経済克服を旗印にしてきたアベノミクスの行方が怪しくなっている。これについて本誌は13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」や14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」で取上げた。このままでは現実の経済も、ほぼ筆者が予想した通りの動き、つまりかなり低迷する(ゼロ成長かマイナス成長)ものと見られる。
悲観的な筆者の見方の根拠は、消費税増税と補正予算減額によって新年度から緊縮財政に転換することである。ただ筆者の予想より上ブレする要素がたしかにある。13年度予算(補正予算も含め)の消化が良くないので、その執行が14年度にズレ込むことが考えられる。しかしこの金額がさほど大きくはないとしたなら、景気失墜は避けられない状況である。
「だから第三の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」を急ぐが必要」といった陳腐なセリフがよく聞かれる。しかし安倍政権が発足して既に1年半も経つが、いまだ第三の矢の実態が見えない。筆者は「民間投資を喚起する成長戦略なんて幻想」という結論を出し、早く別のステップに移るべきと考えてきた。
筆者が別のステップと考えるのは、確実に内需を大きく拡大する財政政策である。具体的には、教育・研究予算の大幅増額や公的年金の国費投入による年金改革などである。これについては後日本誌で取り上げる。とにかく筆者は、アベノミクスの第二の矢、つまり「機動的な財政政策」の改変を主張したい。
ややもすれば「機動的な財政政策」と言えば、人々は公共事業のような単発的で臨時的な財政支出をイメージする。これを補正予算で実行するとなれば、どうしても今回のように補正予算が対前年度比で大幅に減額にされているにもかかわらず、「新年度も5.5兆円の景気対策としての補正予算が組まれているから大丈夫」といった誤解を与えやすい。
しかし補正予算同士を比べれば、新年度は5兆円程度の減額である。補正予算の減額はマイナスの乗数効果を生むことになる。そしてこれと消費税増税が経済成長の下振れ要因となる。しかしこれらのマイナス効果を相殺して余り有る効果を生むのが「さらなる金融緩和と第三の矢である成長戦略である」と言った夢物語のような話がいまだに横行している。安倍政権は少なくとも今の「成長戦略」といった怪しい話から早く決別し、方向転換をすべきである。
筆者が打出そうという財政支出を伴う諸政策は、継続性のあるものである。つまり補正予算に相応しいものではなく、本予算に組入れるべきものである。しかし筆者が提案しようと思っているような政策はほとんど議論にもなっていない。これに対して「いや来年度の本予算はこれまでの最高額」という声があるが、わずかに増えたのは消費税増税への手当てがあったからである。
ほとんどの経済研究機関とエコノミストは、4〜6月の経済の落込みを予測している(これは筆者を含め誰もが思っていること)。ところが彼等のほとんど全員が、それ以降の日本経済のV字回復を予想している。しかし、一体、彼等は何を根拠にV字回復を予想しているのかさっぱり分からない。財政が緊縮型に転換し、今後、円安効果も一巡するのに日本経済がどうして急回復すると言うのだろうか。
またさらなる金融緩和に期待している者がいるかもしれない。おそらく次のさらなる金融緩和は実施されるであろう。しかし筆者は、これに反応するのは株式市場だけと思っている。一時的に為替も多少円安に振れ、株価も上昇すると見ている。しかしそこが円安と株価の天井になる可能性があると筆者は見ている。日銀が次の金融緩和に躊躇しているのも、これを警戒しているからではと筆者は勘ぐっている。だいたい財政政策を伴わない金融緩和なんて効果は知れている。
V字回復を予想するエコノミスト達は、これまでも予想を度々外してきた。ただ彼等は予想を外すと、過去の自分達の発言を知らない顔をして無視する。また彼等は言い訳だけには長けていると筆者は昔から思って来た。もし中国のバブル崩壊があれば、これなんかも言い訳に使われそうだと注目している。
- 経済対策は本予算で
日本経済のV字回復を予想するエコノミスト達は、成長戦略の議論に上がっている「戦略特区」「20万人の移民政策」「カジノ解禁」「女性の活用」などの効果を、まさかと思うが本気で期待しているのかもしれない。これらの他にも成長戦略として「所得税の最高額を2億円にする」という驚くようなアイディアまで飛出していると聞く。これは所得税を安くすることによって、大きく稼ぐ投資家や投機家を日本に呼込もうという発想が基になっている。このように思いつき政策のパレードが成長戦略である(要するに財政支出を伴わないものなら何でも良い)。
筆者は、何度も繰返すが「移民政策」を除き(移民政策は一旦実行されると取り返しがつかない)、出ている成長戦略とやらはどんどん実行すれば良いと考える。これらを実行しても経済成長に繋がらないことを確認して、このような主張をしている学者やエコノミストには退場してもらうのが一番手っ取り早いと考える。これによって日本からはうっとおしい経済学者やエコノミストの大半は消えることになる。また日経新聞の論説委員はほとんどいなくなる。とにかく彼等は14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」で述べたように、15年間も同じこと(要するに構造改革)を唱えて生活をしてきたのである。
またV字回復を予想するエコノミスト達は、増税派、あるいは財政再建派の顔色を見ながら経済予測を行っているとも言える。消費税の8%から10%への増税は、今年末の経済状勢を見てということになっている。これには7〜9月のGDP成長率が使われる。つまり日本経済がこの時期にV字回復しなければ、次の消費税増税はおぼつかないことになる。したがって彼等は高めの経済成長を予想し、財務当局にゴマを擦っているとも考えられるのである。
このように日本の経済学者やエコノミストは、日本の経済ではなく自分達の経済(生活)を見ながら経済予測を行っていると筆者は思っている。しかし政治家はリアリズムに徹すべきである。本来なら安倍政権も次の政策を模索する段階にある。
筆者は、4月頃からの経済の落込みがほぼ常識になっているのだから、安倍政権は予算措置を伴う次の経済対策に取組むものと本誌で言ってきた。しかし4月になるというのにその動きが見られない。たしかに新年度の予算が成立したばかりなのに、節操がないという批難が起りそうである。どうもこのような話が出てくるのは、筆者の予想よりもっと先になりそうである。
そして対策となれば、補正予算ということになり、しかもかなりの大型の補正予算が必要になると筆者は踏んでいる。いつ頃、安倍政権がこれに踏み出すのか注目されるところである。しかし今の様子では、7〜9月期に効果を上げるには既に遅過ぎることはたしかである。
ただ筆者は、前段で述べたように補正予算ばかりに頼る今日のような経済対策には反対である。教育や年金などといった重要政策に継続的に予算を配分することを考えると、これらは本予算で対処すべきと考える。国土強靱化政策についてもしかりである。政策を真面目に考えるならこのような結論になるであろう。
これまでも、景気が急落すると補正予算で対処し、少し経済が上向くと緊縮財政に戻るといったパターンが繰返されてきた。筆者は、この繰返しから脱却する必要があるずっと言ってきた。せっかく衆参のねじれ解消し安倍政権という本格政権が発足したのだか、今こそ年金改革などの大型政策に取組むべきである。
ひょっとするとV字回復を予想するエコノミスト達は、4〜6月の景気後退に対して政府が補正予算による経済対策を行うことを暗黙に織り込んでいるとも考えられる。筆者に言わせれば、そうでなければこのような間抜けな経済予測は絶対にできないのである。とにかくこのような低レベルの経済の有識者といわれる者が日本に溢れていては、デフレ経済からの脱却なんてとても無理である。
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