クローズアップ現代「埋もれた証拠〜“袴田事件”当事者たちの告白〜」 2014.04.03

袴田事件を担当した元検事。
再審開始の決定を受け当時者たちが重い口を開き始めました。
逮捕から48年。
先週、釈放された袴田巌さん。
なぜ無実の可能性が見過ごされてきたのか。
私たちは、捜査や裁判の当事者たちを徹底取材。
証言から新たな事実が次々と浮かび上がってきました。
死刑判決の根拠とされた血に染まった衣類。
見つかった場所や経緯に当時から疑問が持たれていたのです。
袴田さんが自分で入れるのは不可能ではないか。
時期も変だしあんな所に隠すのかという疑問があった。
捜査機関によるねつ造の疑いまで指摘された袴田事件。
重要な証拠はなぜ埋もれてきたのか。
当事者の証言から検証します。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
僅か3畳の独房。
袴田巖さんは5000通にも上る手紙を家族に書き続けました。
しかし、独房からの無実の訴えに対して司法は長い間、真摯
(しんし)に耳を傾けることはありませんでした。
袴田さんにとって有利な証拠は埋もれ再審開始の決定が出されるまで48年もの歳月がかかったのです。
その鍵となったのが最先端の技術を使って行われた血液のDNA鑑定とそして弁護団のたび重なる要求で検察がようやく開示した600点にも上る埋もれた証拠です。
これらは裁判には出されず検察が管理を続けていたものです。
その中には死刑判決の根拠とされた証拠の信ぴょう性を覆す袴田さんにとって有利な証拠がいくつも含まれていました。
この衣類のカラー写真もその一つです。
被告にとって有利な証拠がありながら裁判には生かされない。
裁判にどんな証拠を出すかは検察の裁量に委ねられてきたからです。
証拠は一体誰のものかという重い問いかけを袴田事件は突きつけています。
袴田事件の捜査や裁判で一体何が起きていたのか。
事件から半世紀。
多くの人たちが亡くなる中一人一人を訪ねて話を聞きました。
当時の捜査員の一人が撮影はしないという条件で取材に応じました。
取り調べの時間は限られていたので焦りがなかったといえばうそになる。
物証が乏しく、自白がなかったら起訴は難しかった。
警察が早くから疑いの目を向けていたのが元プロボクサーの袴田さんでした。
事件が起きたみそ会社に勤めていました。
取材の中で入手した当時の警察の内部資料です。
警察は、「素行が悪くアリバイがない」という見方を強めていました。
物証が乏しい中、「犯人は袴田さん以外にいない」として自白を迫る方針を決めていました。
1日平均12時間。
連日、深夜にまで及んだ取り調べ。
逮捕から19日後袴田さんは自白しました。
しかし裁判では一貫して事件への関与を否定し無実を訴え続けたのです。
1審の裁判を担当した裁判官の一人、熊本典道さんです。
当時、ほかの裁判官と話し合い死刑判決を書きましたが過酷な取り調べで得られた自白について疑念は拭い切れなかったといいます。
病気を押して語ってくれました。
裁判が始まって1年近くたってから重要な証拠が現場近くのみそタンクの中から見つかりました。
血に染まった5点の衣類です。
袴田さんが隠したとして死刑判決の決め手とされました。
しかし、今回の決定では時間がたってから突然、発見された経緯が不自然だと指摘されました。
取材を進めると、当時警察の内部にも同じ疑問を持っていた人がいたことが分かりました。
事件の直後、みそタンクを調べた捜査員です。
みそタンクの中を棒でかき回したり中に入ったりして徹底して捜索を行っていたから最初は中に何もなかったことは間違いない。
タンクを調べたあと警察は袴田さんの行動を常に監視していたため衣類を隠すことはできなかったはずだといいます。
5点の衣類が出てきたときには驚いた。
袴田さんが自分で入れるのは不可能ではないか。
さらに決定では5点の衣類そのものがねつ造された疑いがあると指摘しています。
弁護団の強い求めで検察がようやく開示した600点の証拠。
その一つみそタンクで見つかった下着のカラー写真がねつ造を疑わせる根拠とされました。
弁護団が比較のために行った実験の結果に比べると色の染まり方が薄すぎると判断されたのです。
さらに、ほかの衣類にも重大な問題が見つかりました。
ズボンのサイズです。
袴田さんが、はけるかどうかが裁判の争点となっていました。
弁護団の求めに応じて行われた実験ではズボンは、はけませんでした。
…と主張しました。
根拠の一つとしたのがタグにあったBという記号。
ウエスト84センチのB体を意味すると主張しました。
裁判所はズボンに補正した跡があることなどからウエストはおよそ80センチだと判断。
袴田さんがふだんはいていたズボンは76から80センチだったため裁判所は、当時はけたと認めました。
ところが、検察が開示した600点の証拠の中からBが実はサイズではなかったという事実が明らかになりました。
Bは色を意味していたのです。
さらに開示された調書から捜査員がズボンを製造した会社に聞き取りを行いBが色だと確認していたことも分かりました。
当時、警察の調べに答えた会社の専務を捜し出し話を聞くことができました。
調書には、ズボンのサイズに関する記述もありました。
ウエストは76センチだったのです。
見つかったズボンは補正していたことなどを考慮すれば袴田さんがふだん、はいていたものより明らかに小さいことが分かりました。
元裁判官の一人はこの証拠は極めて重要だと取材に対し証言しました。
判断するうえで大きな要素で当時、この証拠が出されていれば結論にも影響したのではないか。
なぜ重大な証拠が埋もれてしまったのか。
最高検察庁の検事として袴田事件の審理を担当した竹村照雄さんです。
当時、検察は有罪の立証に必要のない証拠を改めて見直す考えはなかったといいます。
竹村さんは、今回の決定を教訓として受け止めるべきだと語りました。
捜査機関による証拠のねつ造の疑いが浮上しているわけですけれども、検察は到底、承服できないとしまして、即時抗告し、今後も審理が続いていくことになります。
さらに今回、取材いたしました当時の捜査員は、証拠のねつ造を強く否定しています。
今夜は48年にわたって無実の可能性が見過ごされてきましたこの事件について、元裁判官で再審にお詳しい、木谷明さんと共に考えてまいります。
よろしくお願いします。
こうやって改めて当時の関係者の証言を集めていますと、自白に疑いを持っていらしたその裁判官がいたとか、あるいは警察内部でも、重要証拠の得られ方に対して、不自然だと思っていた節があったと、さらに何より、この被告にとって有利な証拠が、これほど隠されていたのかと、こうやって人は裁かれるんでしょうか。
そこが恐ろしいところですね。
やっぱり、そういうふうに手持ちの証拠を検察官が全然見せないで、裁判していいというようにやってましたので、これが制度の欠陥ですね。
最高検察庁の元検察でいらっしゃった竹村さんは最後のほうで、公平な立場で証拠を見ることが今回の教訓だというふうに話されていたんですけれども、裁判が積み重ねていかれる中で、私たちとしては、その証拠というのは、すべて一から見直されてるのかなというふうにも思っていたんですけれども。
そうではないんですね。
今の制度では、第1審で調べた証拠、ここで徹底的に調べて、控訴審ではその調べた証拠を、もういっぺん検討すると、こういう原則になってまして、もういっぺん、一から証拠調べをするというわけではないんですね。
そうすると、最初に有罪になってしまうと、その有罪になった証拠を、もう一回、繰り返し見ていくってことになって、ほかのは置き去りになっちゃうと?
証人も調べませんから、調書になった、書面になったものを読むと。
それで1審の判決がよっぽどおかしい場合には直しなさいと、そうでなかったらそのまま通しなさいと、こうなってるわけですね。
今回の袴田事件の再審開始決定の重要な鍵となったのが、4年前から出されてきた600点に及ぶ新しい証拠だったわけですけれども、今回、なぜそれだけの新たな証拠が出てきたんですか?
だから、再審の場合になりますとね、少しシステムが違ってまして、再審の段階では、どういうことをしなきゃならないってことは書いてないんですけれども、どういうことをしちゃいけないということも書いてないんですね。
そこはだから、裁判官の職権による裁量ですね、裁量によって、検察官に証拠を出しなさいということを言える。
それでそういうことを熱心にやる裁判官ですと、検察官に働きかけて、いろんな証拠を出させるということになるんですけれども、それをやらない人もいます。
もしやらない場合は、そうした埋もれた証拠が出てこないで、ずっと最後まで裁判が続くと。
そういうことなんですよね。
それは恐ろしいことなんですよ。
再審というのは、無実の人を救済する手続きなんですけれども、1審、2審、3審で散々やったんだから、いまさら無実の人なんかないんじゃないかとかね、それよりも、もう確定判決の権威を保持したほうがいいというように考えている人もいまして、そういう人は何もしないで、そのまま再審請求を棄却しちゃうということになるわけです。
それだけ、検察への裁判所は信頼が厚いっていうことになるんですか?
そうですね。
検察官は、検察官の段階でかなりの程度、セレクトして起訴しますから、有罪の人のほうが圧倒的に多いわけですね。
だから検察官の言ってるとおりにやってれば、大体間違いないよというような考え方もあるわけです。
ただ、今回のこうしたケースを見てまいりますと、どれだけ証拠があるのか、その全体像、どんな証拠があるのか、それを知っているのは、検察側だけで、何を裁判に出していくかは、検察の裁量に任されてる?
そこが問題なんですね。
今の裁判員が始まる前の制度では、検事は、検察官は、自分の請求する証拠を、被告人を有罪するのに最も適切な証拠だけ出せばいい。
それ以外の証拠は一切見せなくていいということになってました。
それを見せろと言っても、そんなものは見せられないというと、それでおしまいになっちゃってたんですね。
そこが非常に困ったとこだと。
裁判員制度が始まって、少し検察官も証拠を見せなきゃならなくなりました。
そういう意味で、制度が多少前進しました、裁判員に関する限りね。
そうでない事件、裁判員制度をやってない事件は、そうなりませんから。
もしかしてそうした裁判というのは、本当に公平というか、公正な裁判と、果たして言えるんだろうかというふうに思ってしまうんですけども。
それは言えませんよね。
どこからスタートすべきだと?
やっぱり検察官が、手持ちの証拠をどういうものを持ってるかと。
検察官の目から見れば、事件に関係ないと思われる証拠でも、弁護人の目から見れば、関係がある、非常に被告人に有利な証拠だというのがあるわけですから、そういうものは見せるということを原則にしなきゃいけません。
そこを盛んに議論してるんですけど、それはなかなか先に進まないんですね。
最低限度、検事がどういう証拠を持ってるかということをリストとして開示すると、これは最低限度の義務だと思いますね。
そこまでやらなきゃいけないと思います。
証拠のリストからまず作るところから始めなければならないと。
さあ、この誤った裁判・誤判をどう防いでいけばいいのか。
死刑囚のえん罪が次々と明らかになっているアメリカでは、日本より一歩進んだ取り組みが始まっています。
無実が証明され釈放される死刑囚たち。
アメリカでは証拠開示の徹底とその後のDNA鑑定の飛躍的な進歩によってえん罪が次々と発覚しています。
この40年余りで144人の死刑囚が無罪となっています。
数多くの死刑囚の救済に当たってきた弁護士はえん罪をなくしていくにはまだ、やるべきことがあると指摘します。
今、ある州の検察が始めた先駆的な取り組みが注目を集めています。
テキサス州ダラスの検察局に設置された誤判究明部・CIUです。
CIUのメンバーは検察官と捜査官そして弁護士などです。
有罪が確定した人から無実の訴えがあると協力して再調査を行います。
メンバー全員が捜査機関が集めたすべての証拠を調べる権限を持ち多角的に検証していきます。
この日、20年以上前の事件について再調査が行われていました。
この事件では懲役25年の刑が確定した受刑者が無実を訴えています。
保管されていた証拠をDNA鑑定など最新の技術で調べ直しその結果が報告されました。
えん罪の可能性が出てきたため、より詳しい調査を進めることになりました。
徹底的な調査に取り組むCIU。
無実の確証が得られると検察みずからが裁判所に無罪判決を求めます。
設立後7年間で、CIUが再調査の対象としているのはおよそ400件。
これまでに33件の無罪が確定しています。
木谷さん、アメリカでは無実の訴えがあると、捜査関係者、検察、そして弁護士、協力して再調査する。
本当に羨ましいですね。
日本でもそうあってほしいですね。
日本ではこの誤判に対するどんな取り組みが今、行われようとしてますか?
日弁連では、原発の原因究明みたいなね、ああいう組織を、国会に作ってもらいたいということで、今、法案の要綱案まで作ってるんですけれども、なかなかそれが日の目を見ないという現実があります。
誤判の原因究明をする第三者機関を?
そうです、第三者機関を国会に作ってくれというふうに言ってるんですけど、これに対して最高裁は非常に冷淡ですね。
裁判所以外のところで裁判の内容の討議について議論するのは、そもそも司法権の独立に関する侵害だということまで言ってるんですね。
これ、とんでもない間違いだと思います、私は。
しかし、今やこの裁判員裁判で重大事件を市民が裁く時代になってきた中で、そうした証拠がすべて本当に有利なもの、不利なもの、いろいろある中で、被告にとって、有利なものが隠されてる中で、判断をしなければならないとなると、非常にこれは不安になりますね。
そうですね。
要するに、目隠しをされたまま答えを書けといわれてるわけですからね。
ちゃんと全部証拠を見たうえでなければ、本当の真実は見えないんだということを、みんな意識する必要がありますね。
それに対して、今、何を一番求められますか?
結局、だから裁判所が、そういう無実の人を救済するということについて、どこまで情熱を持つと、それにかかってると思うんですね。
再審の段階で、そうやって無実を救済するということももちろん大事なんですけど、それはひいてはそれは一日の段階で救済するということになっていくわけですから、それをしないで、ほおかむりしてしまうと、司法の権威を保つというのは、私はとんでもない間違いだと思います。
裁判官には本当に証拠開示に向けて強く出てほしいと。
おっしゃるとおりです。
それはやらなきゃね、司法の権威は結局はだめですね。
2014/04/03(木) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「埋もれた証拠〜“袴田事件”当事者たちの告白〜」[字]

逮捕から48年。先週、再審開始決定が出された袴田事件。ねつ造の疑惑が指摘される捜査や証拠開示の問題、検察を追認してきた裁判所…。刑事司法が抱える問題を検証する。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】元裁判官…木谷明,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】元裁判官…木谷明,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:4584(0x11E8)