先人たちの底力 知恵泉(ちえいず) 既得権を打ち破れ「長谷川等伯」 2014.04.01

ある町にちょっと風変わりな居酒屋がございます。
その名も「知恵泉」。
今月は巨大な既得権者に挑み時代を変えた先人たちに学ぶ…第2回は桃山時代の…芸術家の前に立ちはだかる巨大な「既得権」とは?天下一の絵師に上り詰めた知恵を見ていきます。
安部さんとそしてはなさんまたまたお越し頂きましてありがとうございます。
(安部)お世話になっております。
すっかり溶け込んでもう常連という雰囲気ですよね。
そうですよね。
もういいですよね常連って言っても。
でも何か今日雰囲気ちょっと違いますよね。
分かります?はい。
何でしょう?あれ等伯の「松林図屏風」じゃないですか。
これね安部さんのためにご用意したんですよ。
(安部)それはありがとうございます。
安部さんは去年歴史小説の「等伯」で直木賞を受賞されましたからね。
うれしいですねここに飾って頂くとは。
はなさんといえば「新日曜美術館」のキャスターも務められたほどの美術好きでいらっしゃいますが。
今月のテーマというのがありまして「既得権を打ち破れ」という事なんですよ。
等伯と既得権。
どういう闘いが待っていたのでしょうか?桃山時代都には画壇を支配する絵師の集団がいました。
信長や秀吉など権力者の仕事を一手に引き受ける大既得権者です。
この巨大な絵師集団にたった一人で挑んだのが今回の主人公長谷川等伯です。
北陸能登から上京し何の人脈も持たなかった等伯はひたすら得意分野に磨きをかけチャンスを狙います。
狩野派の既得権を乗り越え天下一の絵師となった等伯の知恵とは?それを一緒に読み解いて頂くのはこの方。
株取引の主流であった対面営業や電話取引を廃止し本格的なインターネット取引をいち早く導入。
数々の慣行を打ち破り証券業界に衝撃をもたらしました。
今夜の「知恵泉」は巨大勢力にたった一人で挑んだ絵師と証券業界の風雲児が競演します。
(松井)こんばんは。
いらっしゃいませ。
すみませんお名前は?松井と申します。
お待ちしておりました。
予約を頂いておりました松井さんでございます。
(はな)はじめましてよろしくお願いします。
証券会社の社長さんをされております。
今日は予約を頂いておりましてお越し頂いたんですよね。
松井さんがいらっしゃって頂けるという事でとっておきのものを仕入れておきましたよ。
こちらなんですよねはい。
(はな)すごいきれいですね。
これは?松井さん。
(松井)私の絵なんですけどね恥ずかしいな。
松井さんは…松井さん会社の経営者でいらっしゃるじゃないですか。
経営と芸術というのはどういうふうにご自身の中ではお考えですか?
(はな)同じなんですか?何かね経営と芸術ってかけ離れた世界のように思えますけれども。
だから完璧なものは出来ない。
常に前へ前へと。
もっといいものはないかいいものはないかという…。
切りがないんですよ。
ある意味では終わりがない。
そういう意味では非常に似てるなと思いますね。
今日は長谷川等伯の知恵を見ていきたいんですけれども味わって頂きますのは…こちら「能登の酒等伯」と書いてありますけれども北陸の能登。
等伯の出身地です。
さあ京都にたった一人でやって来た等伯。
既得権益とどういうふうに闘っていくのか?その知恵を味わって頂きたいと思います。
北陸能登で絵師をしていた長谷川等伯がふるさとを離れたのは33歳のころ。
養父母を相次いで亡くし都で絵師として成功しようと上洛します。
しかしそこには大きな壁がありました。
幕府や朝廷の仕事を一手に引き受ける絵師の集団狩野派です。
戦国の覇者織田信長が上杉謙信に贈ったとされる…都に暮らす貴族や武士そして庶民の様子まで生き生きと描いた傑作です。
描いたのは狩野派の総帥…狩野派は数百人とも言われる絵師を抱え権力者の注文に応じて次々と作品を制作するいわば…狩野派の市場独占を前につけいる隙がなかった等伯。
しかし等伯には得意分野がありました。
ふるさと能登で描いてきた仏画です。
絵画にはさまざまなジャンルがありました。
狩野派は花鳥画や山水画など権力者の城を飾る大量の襖絵制作に掛かりきりでした。
そこで等伯は狩野派があまり手がけてこなかった仏画に活路を見いだします。
上洛してすぐ等伯が描いた日堯上人の肖像画です。
経典に描かれた文字は一字一字まで判読できるほどの緻密さ。
細密な描写で丹念に描き込む等伯の絵は高い評価を得ました。
狩野派を超え都で名を挙げるにはどうすればいいのか?等伯は大胆な行動に出ます。
舞台となったのは京都有数の古刹大徳寺。
寺の記録には等伯がとった行動が残されています。
「かねてから『襖絵を描きたい』と申し出ていた等伯。
しかし住職は『不要だ』と断った。
ある日寺を訪れると住職は不在。
等伯は勝手に上がり込み襖に一気に水墨画を描き帰っていった」。
その時のものと伝わる襖絵が残っています。
襖にもともと施されていた桐紋様。
これを降りしきるぼたん雪に見立てたのか山あいに静かにたたずむ楼閣を描きました。
大胆な方法で自分の腕前を披露した等伯。
同じ年大徳寺からある依頼を受けます。
再建中であった三門の天井画です。
絵師のひのき舞台というべき大徳寺に長年磨き上げてきた仏画を描いた等伯。
その躍動感あふれる描写は広く都中の評判になりました。
この時等伯51歳。
得意分野を磨き上げる事で狩野派の既得権に風穴を開けたのです。
実力でちゃんと自分の突破口を見つけていくっていうのはすごく勉強になりますね。
既得権が未開拓の分野に自分の勝負の道を見つけたと。
松井さんご自身の歩みと重ねるとどうでしょうか?どうご覧になりました?「33歳に」と言ってましたよね。
僕が前の会社日本郵船を辞めてこの会社に入ってきたのがちょうどそのころなんですね。
等伯みたいに仏画をずっとやってるっていうそういう経験はなくて証券なんて何も知りませんでしたから。
ただ何ていうかなその前に郵船でいわゆる自由化というかほんとの競争っていうのを経験してたので新しい証券業界というのに入ってきた時に…実際は競争が全くない世界に入った時にものすごく違和感を感じてある意味怒りさえ感じたんです。
ぼろもうけしてましたから。
その時に一気に吐き出してわっと変えた。
既得権への怒りというかこれはなんとかしなくちゃいけないという思いを抱かれていたというお話ですよね。
たまたま当時の権力の最高が大蔵省だったんですね。
大蔵省が箸の上げ下ろしまで全部牛耳ってた。
これは銀行でも何でもそうですけど。
ところがたまたま自由化という一つの流れがあって僕が思ったのはこれは大蔵省は邪魔しないなと。
むしろ…一歩間違えると大蔵省からボカンと頭殴られて100年の歴史ある会社も潰れちゃうかもしれない。
でもその時は何かそんなにおいを感じた。
実際にやってみたら大蔵省は全く邪魔しなかった。
自由化の流れですから。
きっと時代とのタイミングも…。
運が良かったんです。
安部さんそれにしても襖絵を描く。
でも大徳寺ですからこれ処罰の対象になる可能性って考えられないですか?三玄院は秀吉ゆかりの寺ですし桐紋という豊臣家の紋を雲母で刷った非常に豪華な襖なんですね。
そこに無断で絵を描いたとなるとこれはお坊さんに対する失礼だけじゃなくて秀吉を侮辱したっていう事になりかねませんのでこれは命がけの挑戦だったと言ってもいいんじゃないでしょうかね。
どういう罰が下されるんですか?それは打ち首になったりする可能性はありますよ。
打ち首ですか…。
ええ。
ほんとに退路を断った挑戦と言えるわけですよね。
そう言えると思います。
その襖絵を描いた事によって少しずつ等伯にも運気が向いてきた。
ですがやっぱりこの既得権益からの大反撃を受けてしまうんですよね。
そこにどうやって立ち向かっていったのかをご覧頂きたいと思います。
大徳寺での仕事を終えた翌年等伯に天下一の絵師となるチャンスが巡ってきます。
それは御所での大仕事でした。
当時造営中であった建物に障壁画を制作するよう命じられたのです。
しかしそれを知った狩野派は仕事を奪われかねないと恐れを抱き妨害工作を講じます。
当時の公家の日記です。
狩野派の総帥永徳自らが公家のもとを訪れ等伯へ仕事を回さないよう頼みました。
「長谷川という者に仕事を任せるのは大変迷惑な事だ」。
大きな意味を持ちますので…結局依頼はキャンセル。
等伯は狩野派に大きなチャンスを潰されたのです。
それから1年等伯に再びチャンスが巡ってきます。
それは天下人秀吉からの依頼でした。
幼くして亡くなった息子鶴松の菩提寺を建立した秀吉はその障壁画の制作を等伯に命じたのです。
今度こそ絵で勝負ができる。
等伯は狩野派にはない自分にしか描けない絵を模索します。
当時狩野派が得意としたのは力強く遠近感のある画風。
対象を立体的に描く事でそこに現実的な空間をつくり出しました。
しかし子を亡くした秀吉の悲しみを踏まえ等伯は全く別の手法をとります。
等伯が描いた絵です。
両腕を広げるように左右に伸びる枝は見る者を優しく包み込むかのようです。
特徴的なのは幹の部分。
狩野派とは異なり立体感を出さず平板に描いています。
立体的な描き方をやめる事で絵に優しさを与え見る者の内に響く独自の絵を生み出しました。
狩野派にはないものを見事提示した等伯。
その後も叙情性豊かな作品を次々と生み出し天下一の絵師として不動の地位を築いていったのです。
今回は店内に「楓図」。
これでも縮小サイズなんですけれどもね。
はなさんどういうふうにご覧になりますか?ほんと見てると心の隙間を埋めてくれるような温かさがある絵ですよね。
秀吉の亡き息子鶴松の事を思って描かれたと言われていますがほんとに鶴松が住む世界とこの絵を見ている人の世界をつなげてくれるような一枚だなと思いました。
よいしょ。
あ〜戻ってまいりました。
やっぱりここに来ると落ち着くわ。
しかしね安部さん狩野派からの「仕事を彼に与えないでほしい」という露骨な妨害というんですかね。
これはちょっとひどいなと思いましたけどもね。
絵の具…例えば岩絵の具なんかはですね非常に高度な技術で粉末状にして作るわけですからこの絵具を作れる人なんかはあんまりいなかったわけですよ。
そういう人たちはほぼ全員狩野派に納める事で商売ができてるわけですから「それを等伯に渡したらうちでは出入り禁止だ」って言われたら皆さんそれに従わざるをえないという状況はあったと思います。
例えば僕の経験で言うとそういうサボタージュをされればされるほど気力が増してくるんですね。
「そこまで邪魔すんの?よ〜しやったろうか」と。
気力が増してくるという意味ではですね敵に塩を送るみたいなものですね逆に。
どういうような反撃をしたと…。
実はですね自由化っていうのは1999年に起きたんですけれどもその前にいろんな手数料があったんですよ。
それは法律で決まってたわけじゃなくてそれは自由だったんですけれどもそういったもののいくつかを取り上げてですね「そんなもの無くしちまえ」と言った途端にですね「業界の秩序を何だと思ってるんだ」と。
「それで業界全体で数百億の金がお客さんからもらえなくなるのをお前分かってるのか。
けしからん。
すぐ撤回しろ」と。
うわ〜っときました。
うちもその中に昔いましたからだからそういう意味じゃ「気持ちは分かるけれどもでもそれやっちゃいけない法律ないでしょ。
やりますから。
煮るなり焼くなり勝手にして下さい」と言って実行しちゃったんですね。
当然の事ながら日本中で松井証券というとんでもない証券会社があるという事で各営業マンが…他社の営業マンがわ〜って言うわけですよ。
そうすると逆にお客さんは「面白い証券会社だね」と言って逆広告になってですね小さな小さな証券会社が一気に全国に名を知れると。
こういう事があったわけです。
等伯もそういったところってもしかしたらあったんですかね?
(安部)それはあったと思いますね。
つまり絶対にいいものを描いて見返してやるっていうのはそのモチベーションにはなったと思いますね。
等伯がこの既得権益を打ち破る事ができたその一番の理由というのはどこにあると思いますか?等伯は33で七尾から京都に出ていくんですがその段階でですね彼の腕があればもういくらでも絵師として食べていけたと思うんです。
ところが51歳で世の中に認められるまで一切そういう妥協をしないで絵を描き続けた。
それが収入になるとかという問題よりも自分の画道を磨くという事に没頭したわけですね。
それでこの「楓図」にもありますように今までの狩野派にはなかったスタイルというものを確立していく。
新しい境地の絵を生み出した。
その生み出した原動力はやっぱり…松井さんは今日等伯の人生からどんな…私たちは知恵を学べばいいと思いますか?立派な人ですからあれですけれどもやっぱり世の中…彼らはそれを分かってるから故に実はかたくなに権謀術数を使ってありとあらゆるたくらみでそれを守ろうとする。
一番大事なのは自然な無理のないそういう感性でもって行動するのが結局…世の中に受け入れられていくというそういう事なのかな。
自然なスタンスで好きな事を追い求めていく。
だからできないですから。
彼らはそれが。
ロボットみたいにガチガチになってますから。
彼らができない事を自分たちができる事によって結果的に既得権益を打破すればいい。
深いお話ですね。
今日は等伯の作品ずらっとありますけれどもこれに囲まれながらもうちょっとこうね等伯談議をしていきましょうかね。
2014/04/01(火) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
先人たちの底力 知恵泉(ちえいず) 既得権を打ち破れ「長谷川等伯」[解][字][再]

桃山時代の絵師・長谷川等伯に学ぶ既得権の破り方。都の絵画市場を牛耳っていた巨大絵師集団・狩野派にたった一人で挑んだ等伯。天下一の絵師に上り詰めた等伯の知恵とは?

詳細情報
番組内容
桃山時代の絵師・長谷川等伯に学ぶ「既得権打破」のヒント。都での成功を目指し、北陸能登から京に出た等伯。立ちはだかったのは、権力者の仕事を一手に引き受ける巨大絵師集団・狩野派だった。都で名を挙げるには? 等伯は、狩野派があまり手掛けていなかった分野に突破口を見いだす。既得権者から妨害を受けながらも、ただひたすらに独自の芸術を追い求めた。天下一の絵師に上り詰めた知恵をひも解く。
出演者
【ゲスト】作家…安部龍太郎,松井証券社長…松井道夫,はな,【司会】井上二郎

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0×0808)
EventID:3179(0x0C6B)