クローズアップ現代「“新たな冷戦”は起こるのか〜緊迫ウクライナ情勢〜」 2014.04.01

ロシアと接するウクライナ東部の国境地帯。

緊迫の度を増しています。
電光石火でクリミア編入を決めたロシアのプーチン大統領。

ロシアの思惑はどこにあるのか。
クリミア編入の知られざる舞台裏が取材から明らかになってきました。

欧米各国は、国際法違反だと一斉に反発。
しかし、有効な手だてを打てずにいます。
ロシアの軍事介入を恐れるウクライナ。
避難を考える人も現れています。

ウクライナ情勢によって新たな冷戦は起こるのか。
最前線からの報告です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
ウクライナ情勢を巡って高まっているのが欧米とロシアの緊張です。
焦点となっているウクライナ。
西の国境はEU・ヨーロッパ連合の一員でNATO・北大西洋条約機構に加盟するポーランド。
東の国境はロシアと接しています。
そのロシアがウクライナの一部であるクリミア自治共和国の編入を宣言。
これを受けまして、欧米側は国際法に反するロシアによる領土の略奪だと批判しています。
一方、ロシア側は、クリミアでの住民投票の結果を受け合法的な手続きで行われた編入だと主張。
対立が続いています。
冷戦終結とソビエト連邦の崩壊のあとつくられた地域の国際秩序を揺るがしかねない事態と捉えられていまして冷戦の復活もささやかれていますが事態打開の有効な手だては見つかっていません。
地域を不安定にさせる突然の国境線の変更。
このような事態がなぜ今、起きたのでしょうか。
ロシア、ウクライナ双方に共通しているのがナショナリズムの高まりです。
心配されたテロを防ぎオリンピック・パラリンピックを成功させたロシア。
プーチン大統領はロシアの復活を世界に印象づけ国内では愛国主義・ナショナリズムが高まっています。
一方、ウクライナではロシア寄りのヤヌコービッチ政権が崩壊。
そのあとに成立した暫定政権の中で強い影響力を持っているのがロシア語を公用語から外すなどと主張しているウクライナ民族主義を掲げる極右グループです。
このウクライナで高まっているナショナリズムを目の当たりにしてロシア系住民が6割を占めるクリミア自治共和国ではウクライナから離脱しロシアへの編入を求める声が高まったのです。
ロシアによるクリミア編入はどのようにして一気に進められたのか。
その舞台裏をご覧ください。

今月18日クレムリンで行われたクリミアのロシアへの編入に関する条約の調印式。
プーチン大統領と署名に臨んだのはクリミア自治共和国のアクショノフ首相でした。
これまでほとんど知られていなかったこの政治家がロシアの協力を得て編入に向けて周到な準備を進めていたことが取材から分かってきました。

ウクライナ南部クリミアの中心都市シンフェロポリ。
私たちはアクショノフ氏が率いる政党の事務所に向かいました。
ロシア統一党。
ロシアへの編入を主張してきたロシア系住民の政党です。
交渉を重ねた末、党の幹部がようやく撮影を許可しました。
部屋に入りまず目に飛び込んできたのはロシアのプーチン大統領の肖像画でした。
党員たちは、防弾チョッキや銃で武装していました。
ロシアへの編入に反対する勢力から身を守るためだといいます。
統一党が活動を活発化させたのは先月上旬。
首都キエフでロシア寄りの政権に対するデモが激しさを増していたときです。
このころ、アクショノフ氏はロシアの政党の代表と接触し協力関係を結びました。
旧ソビエト諸国の再統合を掲げプーチン政権を支える「祖国」です。

ロシアの政治家は非常に経験豊かで私たちに積極的にアドバイスをしてくれました。

ロシアと政治的な連携を取り付けた統一党は具体的な行動を起こします。
党の傘下に、1000人からなる自警団を組織。
クリミアの至る所に配置しました。
そして、反ロシアの立場を取る暫定政権が発足した先月末編入に向けた動きを加速させます。
自治共和国の建物を自警団が次々と占拠したのです。
行政府の監視カメラが捉えた映像です。
武装した男たちが突入する様子が映っています。
占拠した議会ではロシア系の議員だけを呼び入れアクショノフ氏をクリミア自治共和国の首相に選出。
ロシアへの編入の是非を問う住民投票の実施が決まったのです。

その後も、自警団は空港などを占拠。
軍服や自動小銃を構える姿からロシア軍も関与していると見られています。
さらにアクショノフ氏らはメディアを使った世論形成にも乗り出しました。
住民投票の10日前にはウクライナのテレビ放送を停止。
ロシアの国営テレビに切り替えました。

ウクライナの暫定政権の支持者がロシア系住民を襲撃したというニュースなど、住民の不安をかきたてる放送が繰り返されたのです。
その上で、ロシアへの編入のメリットを強調する広告ビデオを流し続けました。

結果、住民投票では9割以上の人がロシアへの編入に賛成。
その2日後にロシアは編入を決定。
統一党は、僅か1か月の間にその目標を達成したのです。

こうなることを待ち望んでいました。
クリミアにとって大きな成果であり大きな喜びです。

編入の裏で、一体、ロシアはどんな役割を果たしたのか。
アクショノフ氏と協力関係を結んだロシアの政党「祖国」を訪ねました。
宣伝を担当するビリュコフ氏はプーチン政権が積極的に編入に関与していたことを示唆しました。

クリミアの編入はわれわれが、あらゆる手段を講じた結果、実現したものです。
これは、われわれの勝利で大変誇らしく思っています。
具体的に何をしたかを今は言うことができません。
ただ、いずれ時がたてば明らかになるでしょう。

今夜は国際政治がご専門でいらっしゃいます、東京大学教授、藤原帰一さんにお越しいただきました。
オリンピックが行われているさなか、そうした中で、今見ましたように、クリミアの統一党と、そしてロシアの政党の協力関係のもとで、編入に向けた流れが着々とできていた。
このクリミアを編入したということがもたらす、国際政治への影響っていうのはどのように捉えていらっしゃいますか?
非常に深刻ですね。
今、冷戦が終わった、ソ連がロシアに変わってから二十数年間、24年間ですか、の間で、ロシアとヨーロッパ、アメリカとの関係は、最も厳しい状況になったと思います。
クリミアは併合する過程では、すぐロシアがウクライナの東部に部隊を進めるんじゃないかとか、いろいろな観測があって、一気に緊張が拡大する懸念がありましたが、今のところ、それは起こっていないですね。
NATOも兵隊を展開しないというふうに言っているし、ロシアも東ウクライナに兵隊を動かさないと言っている。
ただ、両方の緊張は、このロシアと欧米の間の外交関係をずたずたにした状態です。
サミットをソチで開こうと、ロシアにとって非常に大きなイベントだったわけですけれども、ロシアで開かれるサミットを各国は拒否することになった。
そして、このヨーロッパとロシアとの緊張によって、いろいろなところに波及が起こります。
例えばアメリカとロシアの間での核軍縮、これはもともと今、止まりかかっていたんですが、全く動きが取れない状態ですね。
そしてシリアの和平について、ロシアが主導権を握って、アメリカがそれに加わるような協議が行われましたが、シリアも動かなくなる。
イランについても、やはりアメリカとロシアが関わるという土台が崩れてしまう。
ですから、ヨーロッパ、アメリカとロシアの関係が緊張するだけで、国際関係全体に大きく波及します。
旧ソ連を構成する地域に絞ってみた場合、もちろんクリミアはロシアが制圧した状態、制圧だけじゃなくて、クリミアの住民からはかなりの支持を受けて、住民投票でも成果を受けた。
ただ、じゃあ、これでロシアがどんどん力を伸ばすことができる状況かといえば、必ずしもそう思いません。
まず、確かにクリミアはロシアの影響下にありますけれども、ウクライナに軍隊を進めることに対しては、ウクライナ政府はもちろんですけれども、NATO諸国は、非常に強い警戒をしている。
兵隊を進めたら、実際に軍事紛争が起こる可能性があるわけですね。
そしてもとのソ連を構成していた共和国をとっても、クリミアのように、ロシアで一緒になりたいという方向に各国動いているという状況ではない。
西側との距離があったベラルーシをとっても、クリミア統合については、かなり警戒する立場というふうに、実は、クリミアを取ったけれども、ほかのところではむしろ、ロシアの影響力を伸ばすことが難しい状態、国際的には孤立した、決して得をした状態じゃないんですね。
そうですよね、G8からもロシアを締め出そうというふうな流れになっていて、プーチン大統領が、ロシア全体が払うこの代償というのは、非常に大きいように思えるんですけども、それにしても、なぜ、そういうことが十分に予想されるにもかかわらず、このクリミアという所に踏み込んだのか、これ、ロシアのナショナリズムの背景ではないかといわれてますけれども。
私はナショナリズムは大きいと思いますね。
これはもとのソ連の支配地域を回復しようとする、大きな戦略に基づくものだと議論することもできないわけじゃないんですけれども、たぶん、それよりも具体的に、ウクライナの政情不安が、昨年度11月から続いていた。
ここでの報道、NHKのRTRの報道が流れてましたけども、かなりすさまじいものですね。
これは結局、ロシアが冷戦が終わったあと、ずっと力を失ってきた、西側に奪われてきた、負け組だった。
そういう状況をなんとか反転していきたい、もう負けるばっかりじゃないぞという、そういう見方ですね。
NATOは拡大する、そしてユーゴスラビアでは。

自分のほうの国境にどんどん近づいてくる。
どんどん近づいてくる。
オレンジ革命というウクライナでの民主化が起こったんですけれども、これはロシアから見れば、西側の介入によって、ロシアに近い政権が倒された。
このような西側の介入によって力を奪われる状況に対して、断固として立ち上がったんだと、それがRTRのような、ロシア国営放送での報道ですね。
そのナショナリズムがプーチン政権の決定の背後にあるのは事実だろうと思います。
今までの連邦崩壊後の悔しさ、雪辱を晴らしたいというようなところもあるわけですかね。
そうしてそれが具体的にはウクライナでの政情不安がある中で、ロシア系の住民の安全を確保する必要があるということで、非常に多くの国内の支持を集めることができたということではないかと思います。
お伝えしていますように、ナショナリズムのうねりにさらされている、このウクライナ。
危機がこれ以上拡大しないのか、欧米各国は固唾をのんで見守っています。

ウクライナ東部のロシアとの国境地帯。
ロシアとの緊張が高まる中ウクライナ軍が展開し監視を続けています。
ロシア軍の侵攻に備えウクライナ各地から部隊が集まっています。

先行きの見えないロシアとの対立に首都キエフの市民の間でも動揺が広がっています。
腐敗した前政権を倒すデモに参加したアリーナ・マリュシュキナさん。
デモが行われた広場に毎日のように通っていました。
しかし、政変から1か月暫定政権内部で高まる愛国主義に危機感を強めています。
きっかけは、インターネットに流れたこの映像でした。
クリミア編入を宣言したプーチン大統領の演説をウクライナ国営テレビが生中継。
そのことに激怒した暫定政権を支える議員が国営テレビの会長に暴行を加えたうえ強制的に辞表を書かせたのです。

反ロシア色を鮮明にする暫定政権。
このままではロシアが、さらに強硬姿勢を強めるのではないかという懸念が広がっています。
アリーナさんはロシア軍が侵攻する事態に備えいつでも逃げられる準備を始めました。

5歳の娘を連れてポーランド国境の街まで避難する計画も立てています。
僅か数か月で様変わりした国の姿。
ウクライナの人々は国の行方が見えず焦りを募らせています。

この国をどうすべきなのかその手段も、今は分からなくなってしまいましたがまだ希望は捨てていません。
もう暗黒の時代へ後戻りはできませんから新しいウクライナは自分たちの手でつくるしかないのです。

強硬姿勢を強めるロシアに対して欧米各国は経済制裁を発動。
しかし、その足並みはそろっていません。
ロシアとの経済的な結び付きに違いがあるからです。

ロシアなどの新興国マネーを積極的に取り込んできたロンドン。
どこまで制裁を拡大するのか。
イギリス政府は難しい対応を迫られています。
今月、政府の内部文書が大きく報じられました。
…という政府の方針でした。
ロシアマネー流出につながる厳しい制裁を望んでいないイギリス政府の本音が明らかになったのです。
しかし、ロンドンの金融関係者は欧米が厳しい制裁に踏み切ることを警戒。
市場が混乱することに危機感を強めています。

ロシア系企業は数千億ドルもの資金を運用していてグローバルな金融市場において重要なプレーヤーです。
欧米の銀行が、ロシアの企業や銀行と取り引きを停止されれば世界は再び深刻な金融危機に陥るでしょう。

欧米は事態がエスカレートすれば、その制裁を強化するという余地を残していますけれども、しかしこうしてその相互依存が急速に高まっている、そのグローバル化の時代を見ますと、あまり身動きは取れないんではないかと思いますが。
取れないでしょうね。
クリミアをロシアの影響下から排除するっていうのは、非常に難しいだろうと思います。
ただ、ロシアも今、大きな部隊をウクライナとの国境を越えて動かすことはリスクが高い。
ただ、それだけで話は終わらないんですよ。
ここで例えばロシア系の住民が、暴力事件で殺されるとか、逆にロシア系じゃないほうが殺されるとか、そういった事件が起こりますとね、ナショナリズムですから、急速に相手を倒さなくちゃいけないという意見が高まる可能性がある。
非常に緊張をはらんだ、きっ抗した状態、にらみ合いが続くっていうところですね。

ウクライナに住んでいるロシア系住民も不安でしょうし、民族主義的でないウクライナの人々も不安を抱えている。
これ、どうやって収めていくのが。
これをどう打開するかですね。
もともと頭に置いておかなくちゃいけないのは、ロシア系、ウクライナ系の2つに、社会がすっぱり分かれていて、相手を排除することばっかり考えているという状況があったわけじゃないということなんですよね。
もっと多元的、そもそもポーランド系の住民だって、いろんな所の住民だっているわけで、そうして誰がロシア系、誰がウクライナ系っていうのが、すっぱり分かれていたりするというのは、これはむしろ間違いだと思います。
これは専門家じゃないですが、それぐらい間違いないですね。
ただ、紛争が暴力化すると、やつらに俺たちは殺される、われわれとやつらという2つの方向に社会が分かれちゃうんですね。
そしてそれを加速するのが政治家がナショナリズムに頼ること、政治家がナショナリズムを導引すること、これは逆に解決につながるんですね。
どういうことかというと、政治家がナショナリズムをあおり立てるような政策を慎むことは、結果的には状況を変えることになる。
そのことをするのか、いや、する可能性があるんです。
というのは、ナショナリズムをあおると、自分の首を絞める可能性がある。
例えば、今、プーチンがやりたくないのに、東ウクライナにいるロシア系の住民が、俺たちは虐待されていると言って、そして非ロシア系、ウクライナ系の住民と、暴力事件とになったとする。
このときに、プーチン大統領は介入せざるをえなくなる可能性はありますよね。
だから、それは自分の意思じゃなくて、巻き込まれる。
ナショナリズムというのは、もろ刃の剣ですから、主体性を失う可能性がある。
これが第1のポイントですね。
もう一つのポイントは、経済です。
ナショナリズムは、ものの考え方、正義の問題、われわれとやつらといった、偏見、見方の問題ですけれども、しかしながら経済的には、先ほどおっしゃったように、グローバル化が進んでいる。
ロシア経済は西側経済との統合が急速に進んでいるわけですね。
先ほども出てきましたけれども、ロンドンのシティ、これはロシアの金融取り引きがなくなったら、シティも打撃を受けるけれども、止められたらロシアも打撃を受けますね。
この経済活動から見ると、相互依存性が高いときに、軍事的な緊張が高まることは、自分も損するし、相手も損するっていうことなんですね。
今、われわれがどこにいるかというと、経済制裁が急速にエスカレートする可能性がある。
今の経済制裁はまだ限定的ですけども、資源の供給を巡る制裁、例えばウクライナがクリミアに電力や水道の供給をやめるとかいうことです。
あるいは今度はロシアの側が、ウクライナにガスの供給をやめる。
そうするとどんどんエスカレートする。
2014/04/01(火) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“新たな冷戦”は起こるのか〜緊迫ウクライナ情勢〜」[字][再]

ウクライナ南部のクリミア自治共和国の編入を表明したロシアのプーチン大統領。反発するEUやアメリカとの“新たな冷戦”は起こるのか。緊迫する国際情勢の行方を展望する

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学教授…藤原帰一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学教授…藤原帰一,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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