メドベージェフ「テレビなんて誰が観るんです?」プーチン「・・・・・・」
2008年4月、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)がロシアのソチを訪れた際のエピソード。
ライス国務長官がロシアの若手企業家たちとの会合で、ロシアの主要テレビ局は実質国有化(チャンネル1(国営)、NTV(半国営企業「ガスプロム」のグループ子会社)、ロシア1(国営企業「全ロシア国営テレビ・ラジオ放送会社」運営))され、政権の影響下にあるという点でソ連時代と変わらないことについて意見をもとめ、参加者の一人が肯定しつつこう語った。
『この国のニュースはこんな感じです。まず最初に、かの偉大な人物(プーチン)の動向が伝えられます。第二に、農業生産が好調だという話が来ます。第三に、今日もアメリカが無辜の民を殺したというニュースがあり、最後に、かの偉大な人物の後継者に選ばれた人物の動向が伝えられます。』(ライス著「ライス回顧録」P613)
そのあと、ライスはドミトリー・メドベージェフ露大統領(当時)との会談で同じ質問をぶつけた。大統領は「わかっています」と肯定しつつ、こう答えたという。
『でも、テレビなんか誰が観るんです?僕らはみんなインターネットですよ。』(ライス同書P613)
論点そこじゃねぇ、なメドベージェフの返答の天然ぷりに萌え萌えしつつも、実際、ロシアではインターネット利用者は急拡大している。ロシアのインターネット人口は2011年末時点で5780万人、ロシアの全人口1億4290万人の約40%で、2013年末までに9000万人に達するという予想がある(木村汎著「メドベージェフvsプーチン 〔ロシアの近代化は可能か〕」P438)という。また、メドベージェフはインターネット大好きで、シリコンバレーをモデルにIT産業育成を打ち出していた。
このやりとりにはオチがつく。メドベージェフの「テレビなんか誰が観るんです?」という問いの答えだ。
記者に「首相はインターネットなどのコンピュータをお使いになりますか?」と尋ねられたプーチン、「自分は多忙なので、もっぱら秘書まかせである」と答え、「携帯電話さえ持っていない」ことを明らかにしたという。(木村汎P36)実のところプーチンは自他ともに認めるアナクロ派で、情報源はテレビが主、iPhoneを愛用しツイッターを使いこなすメドベージェフと彼のシンパが「インターネット党」というニックネームで呼ばれたりするのに対し、その対比としてプーチンとそのシンパは「テレビ党」と呼ばれているらしい。
ライス「ロシアのテレビ全部国営化してメディアとしてどうなん?」
メドベージェフ「テレビなんか誰が観るん?みんなインターネットやろ」
プーチン「・・・・・・」
側近「あっ(察し)」
とはいえ、このふたりは政策といい支持者層といい何かにつけて相互補完しあういいコンビで、しかもメドベージェフは敢えて自分の派閥などを作らず自身の生殺与奪の権をプーチンに完全に握らせ、地位を脅かそうとしないことで、生き残りを図る巧みさを見せている。プーチンにとってメドベージェフはいつでも切れるからこそ、簡単に切り捨てられないのだ。古代中国史なんかでよくいる、凡庸そうに見えて妙にサバイバル能力にたけ、気付くと政敵の自滅を横目にのし上がっているタイプの人物っぽい。
帝政ロシアのころからロシアの政権の基本政策は専制(ツァーリズム)強化と近代化(or啓蒙主義)推進のバランスにあったが、プーチンとメドベージェフの関係もそれを踏襲しているようだ。この二人の関係は「シロビキ」と「シビリキ」という言葉でも理解できる。
プーチン政権はプーチンの出身地であるサンクトペテルブルク出身者が多く登用されている、いわゆる「お友達政権」なのだが、その「お友達」も二派にわかれる。シロビキとシビリキだ。
「シロビキ」は武闘派・武断派といった意味で、旧KGB、軍部、内務省、警察など治安・武力系省庁出身者の総称である。プーチンを領袖としてイーゴリ・セーチン元副首相(現ロスネフチ会長)、セルゲイ・イワノフ大統領府長官、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記などがいる。「領土の一体性」を重視し、ユーラシア主義で、強いロシアの復活を標榜して対外政策にも強気で臨む。プーチン政権の政策を実質決定しているのがシロビキで、その勢力の拡大が汚職とも密接で弊害も大きく、シロビキ内でも熾烈な権力闘争が繰り広げられている。
これに対し「シビリキ」はシビル・ローから取られた名称で市民派などと訳される。法律家、エコノミスト、知識人などからなる人びとで一時は「リベラル派」のイメージをもたれていたが、実際のところ思想的にリベラルかどうかとシビリキかどうかは関係がない。経済重視、西欧主義で、近代化の推進、国際協調などがその政策の特徴であるとされる。シロビキと違って派閥化しているわけではないが、代表的な人物としてドミトリー・メドベージェフ首相、アレクセイ・クドリン元財務相兼副首相、ドミトリー・コザク副首相などがいる。
シロビキとシビリキという両勢力のバランスを取ることでプーチンは政権を維持し、ロシアに君臨している。
ところで、クリミア問題の最中の3月19日、シロビキ内でプーチンに次ぐロシアNo.2と目されているセーチンが国営石油会社ロスネフチ会長として「日露投資フォーラム」参加のため訪日していた。ロシア側閣僚が欠席したことで日本側の閣僚もクリミア問題を背景に全員欠席したようだが(参考:産経新聞「【クリミア併合】日露投資フォーラム、両国閣僚は欠席 日本企業「影響大きい」 – MSN産経ニュース」)、良かったんですかね会わなくて。
中央日報はこんなこと書いてましたが。
露-中-韓のガス管“1石4鳥“なのに…手放しの韓国政府(1)
露-中-韓のガス管“1石4鳥“なのに…手放しの韓国政府(2)
ロシアのプーチン大統領がクリミア自治共和国のロシア合併条約に署名した18日。欧州と米国の非難声明があふれる中で、プーチン大統領のある側近が静かに日本へと向かった。プーチン氏の長年の同志でありロシア最大国営石油企業ロスネフチ(Rosneft)のイーゴリ・セーチンCEO(最高経営者)だった。彼は翌日、東京で記者たちを集めて「欧州と米国が、ロシアを孤立させようとすればモスクワはアジアに目を向けるだろう」とトーンを高めた。ロシアのシンクタンクである戦略技術分析センター(CAST)の中国専門家ワシリー・カシン氏は、あるメディアとのインタビューで「西側との関係が悪化するほどロシアは中国に近づき、中国から支持さえもらえば誰もロシアが孤立したとは言えないだろう」と一層強めた。
ロシアの高位要人が相次いでこのような発言をした背景は何か。国際エネルギー専門家たちは「中‐露の天然ガスパイプライン」に注目する。両国は東シベリアのコビクタガス田とサハ共和国内のチャヤンダガス田を中国東北3省~北京を経て山東半島までパイプで連結するために2年余りの間本格的な価格交渉を繰り広げてきた。実際、セーチン氏もこの日の会見で「5月に予定されたプーチン大統領の中国訪問で天然ガスの最終契約が締結されればグローバル・パワーが変わる、そうなると西側は必要なくなる」と大声を上げた。
(中略)
仁川に持ってきたロシアのガス管は対北朝鮮交渉のカードにも活用できる。対外経済政策研究院のイ・ジェヨン欧米・ユーラシア室長は「非核化を前提に、仁川から開城(ケソン)を経て平壌(ピョンヤン)に連結するパイプライン建設を北朝鮮に提案できる」と説明した。エネルギー不足で困りきっている北朝鮮への“ニンジン”策になるということだ。イ室長は「ウラジオストク-北朝鮮内陸-束草ラインが、対北朝鮮関係によって供給安定性を担保できなかったのに比べ、仁川-開城-平壌パイプラインはこういう心配ないという点も長所」と話した。
北朝鮮のほかに日本にも売れる。国内には長さ2400キロメートルの内陸循環ガスパイプラインがある。釜山(プサン)と日本の九州地域を連結すればロシア-中国-韓国-日本を経た北東アジア天然ガス同盟体の結成が可能になる。日本は電力発電の30%をLNG燃料に依存しているが、韓国のようにLNGを全量船舶で輸入すると世界で最も高い天然ガスを使う国になった。実際、メキシコ湾の産地基準ではガス1MMBtuの平均価格が4ドルだが、日本にはこの4.5倍高い価格で導入されている。
ガスの輸入費用を低くするために日本は、ロシアのサハリンから北海道-本州に連結されるパイプラインを開設する案をロシアと長年議論してきたが、北方4島の領土問題などで葛藤を生じさせながら交渉に進展が見られずにいる。ペク研究委員は「日本国内のガスパイプラインの必要性を勘案すれば、仁川に持ってきたパイプラインは私たちが日本に外交的に提示できる良いカードとなる」として「日本の天然ガス市場で米国のLNGに劣らず韓国のパイプラインが影響力を行使できる」と説明した。
ほどなくして、日本へのエネルギー供給で韓国にイニシアチブを握られそうな雰囲気(まぁ、上記記事を観る限り韓国ものんびり構えている風ではあるけど、韓国が優位なことには変わりない)ですけど会わなくて良かったんですかねー。いや、もしかすると秘密裏に会っているのかもしれん。たぶん。「強国は己の同盟国のために自殺しようとはしない(Great powers don’t commit suicide for their allies)」(by.ヘンリー・キッシンジャー)から、まさか、同盟国がロシアと対立しているからといっても、そこは上手く立ち回っているはず・・・はず?あ、日本政府はメドベージェフ流サバイバル術を採っている可能性も微粒子レベルで存在している。
参考書籍・サイト
・コンドリーザ・ライス著「ライス回顧録 ホワイトハウス 激動の2920日」
・木村汎著「メドベージェフvsプーチン 〔ロシアの近代化は可能か〕」
・ドミートリー・トレーニン著「ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く」
・下斗米 伸夫 他編著「現代ロシアを知るための60章【第2版】 (エリア・スタディーズ21)」
・テレビ局一覧 – Wikipedia
・シロヴィキ – Wikipedia
・ドミートリー・メドヴェージェフ内閣 – Wikipedia