今からおよそ2,500年前の古代中国で生まれその後も多くの人々に読み継がれている「孫子」。
武田信玄ナポレオン新しいところでは本田宗一郎や松下幸之助といった名経営者も「孫子」の読者だったと言われています。
彼らが目指したのは部下のやる気を引き出す優れた組織を作り出す事でした。
リーダーというのはチームに火をつける側なんですね。
ある意味平常の時以上の力100%の力が出せるだろうという。
チームの勢いを生み出すために何が必要なのかをひもといていきます。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今回も古代中国の兵法書「孫子」最終回でございます。
ですね。
前回は戦いに勝つためには一体どうすればよいのかという「詭道」だましもありっていうそういう道をね。
よく言えば心理戦悪く言えばだまし奇策もう何を使ってでも勝ちましょうという。
面白いですね。
でも最後は「逃げるが勝ち」みたいなのもあったりしてね。
さあ最終回の今回は知恵と策で勢いを生み出し活力ある組織を作る方法をひもといてまいります。
指南役は中国思想史研究者の湯浅邦弘さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
さあ今日は組織という事ですが「孫子」が言う組織論というのはどういうものなんでしょうか?私たちは歴史の中でどうしても個人の活躍に喝采を送る傾向があるんですね。
例えば源平合戦の源義経しかり「三国志」の関羽や張飛しかりですね。
しかしあれはかなり歴史を経て脚色されてるんですね。
実際の大規模な戦闘において…「孫子」というのは個人ではなくて徹底して組織チームでどう勝つかという事を説いた本です。
さあなぜ「孫子」は個人よりも組織を重視するんでしょうか。
まずはその辺りからひもといてまいりましょうか。
「孫子」は兵士個人の在り方ではなく徹底して組織論を説いています。
個人のスタンドプレーは一切評価していません。
それを象徴するのが次の言葉です。
戦上手は集団のエネルギーを大切にし個人の奮闘には期待しないというのです。
では集団のエネルギーを保つにはどうすればよいのでしょうか。
「孫子」はその工夫として面白い事を言っています。
軍隊は戦地まで進む間に野営を重ねます。
その際…そのような場所では病気が蔓延するおそれがあるからです。
丘陵や高台など…それが必勝パターンだというのです。
またそのような場所では…
(孫武)丘や高台が自分の右後方に来るように布陣せよというのだがなぜか分かるかな?いきなり「分かるかな?」って。
右後方に…ああ伊集院さんがいて下さるからみたいな。
何でだろう?右後方に。
風水?風水ですか?そうですねと言いたいところなんですが実はこれには合理的な理由があるんですね。
占いとかおまじないの世界ではないんです。
右後方に陣があるという事は万が一敵から攻め込まれた時にその丘に駆け上がって…その高さを利用して駆け下る。
その時に多くの人間これ私も含めてですが右利きなんですよ。
そうすると刀で斬る弓を射る槍で突く全てこれは…ダーッと走りながらビューッていく。
これが一番力を発揮できるベクトルなんですね。
例えばスポーツでもテニスの例を挙げますと右利き選手同士のラリーというのはフォアハンドで打つとこちらの右から相手の左の陣へ打ちます。
相手も打ち返してくる。
これが最も力を発揮できるからなんですね。
それに高さという下り坂というのがついてるから当然こっちが有利だという事ですね。
バックハンドじゃあねやっぱり力がなかなか出ないっていう。
でもさっきのVTR途中途中もまあいい事を言ってましたね。
要は労働環境をきちんとしましょうって事ですよね。
それもただ単に偽善的な話じゃなくてそこをケチって病気でも蔓延した日には戦力ダウンでしょっていうすごくクールなというかシビアな分析の下労働環境をちゃんとしようとか。
単に気力で頑張りなさいとかそういう事は言ってないんですよ。
すごいなぁ。
そういう事が陣営の勢いを増す要因だという事。
でも地理的な要因というのは分かったんですけども心理的な要因という事は書いてるんですか?そうですねもちろん書いています。
それを表す言葉がこちらにあります。
上に立つ者と下の者が同じような気持ちになっている。
こういうチームは勝利ができると言うんですね。
リーダーはこちらを向いているのに部下は反対の方を向いていると。
これは簡単なようで難しくて特に現代はこういう事が起きがちだと思うんだよね。
大きい組織になればなるほどね。
俺ねおっきくなくてもそうだと思うんだよね。
ちょっとどうなの?という店員さんたまにいるじゃない。
その時に「店長はいいよ」っていう。
「儲かれば儲かるだけ給料上がるけど俺ら関係ないもん時給だから」という事って全く組織が同じ方を向いてないでしょ。
そういう時に文句も言えないんだよね。
だってこの人関係ないんだもん別に。
時給の問題だからってなっちゃうからそうするとお店がうまくいくはずがないなと思うんでここは多分何かポイント一個だと思いますよ。
このまま現代の社会ですねあらゆる組織に応用が利きますね。
僕ねここがすごく興味あるところなんですけどみんな同じ方向を向いてるよって言うけども一人冷静ですよね。
恐らくリーダーだけは同じ方向は向いてるけれども同じ事を考えてるわけじゃないというような。
もうちょっと先読んでますよね。
その感じだよね。
リーダーすげえこりゃすげえなと思う。
なるほど。
更に「孫子」は兵にとって非情とも言えるような事を言ってるんですね。
ちょっと難しいんですが兵士を行き場のない所に投入するそうすれば死力を尽くして奮闘し逃げるような事はしない。
つまりいつでも逃げられるというふうな甘えがあると兵士は死力を尽くさないわけですね。
甘っちょろい事だけじゃ済まないんだよね。
さっき言った環境のいい所でジメジメした所やめましょうみたいのは下っ端からしてみたらね兵卒からしてみたらお〜いいねと思うしだけどリーダーはそれだけじゃ駄目で厳しいところとしてはこういう事も考えてなきゃいけない。
そこが将軍の持つべき非情さとそれから慈しみなんですね。
この場合はとにかく兵士を追い込むわけですね。
極限に追い込んでそこで…そういうことわざがありますね。
おっことわざ?「背水の陣」という言葉がありますね。
それって「孫子」から来てるんですか?実はこれ中国の古代の戦争から来てるんですね。
秦の始皇帝死後の混乱期に活躍した武将韓信が趙という国を攻めた時の戦いです。
この時韓信は…「背水の陣」だ!まさしくね。
すると趙の軍隊はこれを見て笑ったんですね。
「兵法の初歩も知らない」。
先ほど言いましたように軍は右後背に丘がある所に布陣すべきだと。
これが基本ですね。
川なんてもっての外。
ちょっと押し込まれたらみんな溺れてしまいますね。
最悪の陣形なんですよ。
ところがあえて韓信は川を背にした陣を敷いた。
すると兵士たちは死力を尽くして戦う以外に方法がないんですよ。
それで平常の時以上の力が100%の力が出せるだろうという。
そして実際に驚異的な力を発揮してこの趙の軍隊を押し返したんですね。
ところが韓信は…すると趙の本隊はこの別働隊と韓信の本隊の挟み撃ちに遭って瓦解してしまったと。
その後の話を割と知らないじゃないですか。
だからテスト勉強ず〜っとしないで前の日になって「わ〜背水の陣だ」なんて言って一夜漬けをし始めるでしょ。
だけどちゃんとした戦略としてやる事はやって全ての分析をした上で背水の陣を敷いてるわけですね。
これはやむなく追い込まれてここに陣を敷くんではなくて自分の方から意図的にここに陣を敷くわけですね。
なるほど。
やむなく追い込まれた言い訳としてしか使った事ないです「背水の陣」は。
別働隊を行かせてる事はないね。
全ての科目でもうやむなく背水の陣みたいな。
さあこの「背水の陣」だけではなくて実は「孫子」には他にも有名な故事成語のもとになったエネルギーについての言葉があるんです。
こちらもご覧頂きましょう。
複数の部隊の緊密で素早い連携運動を「孫子」は次のように述べています。
ライバル同士である呉と越の国の人が同じ舟に乗り合わせて暴風雨に遭ったとする。
たとえ憎み合う仲でもそのような状況になればまるで左右の手のように助け合う。
だから一見難しい離れて展開するような部隊同士でも助け合う事は可能だと言うのです。
これが「呉越同舟」の出典となる一節です。
呉越同舟よく知ってる言葉ですけれど。
「孫子」だったんですね。
そうなんですね。
「孫子」が活躍した呉の国と隣の越の国というのはライバル同士なんですね。
ふだんは仲が悪い。
ところが川の激流を舟で渡る時に助け合わなければいけない。
この時は共通の「利」というのがあるわけですね。
それは暴風雨の中でも生き延びるという…そこで助け合う事ができるんだから遠く離れた所でも当然できるってそれはどういう…?一見今のように通信機器があるわけじゃないので連絡は取りにくいんですけどもそれでもいろんな情報網を使ってまるで自分の左右の手のように連携運動をしていると。
呉と越ですらそうなんだからましてや自分の国の違う部隊同士は当然連携ができるんだとまたしなければいけないという事ですね。
とにかくこの「孫子」は孫武さんという人は組織をどういうふうに活性化させていくかどうやったらうまくいくかみたいな事をほんとに一生懸命説いてるんですね。
そうですね。
それはなぜかという事を考えていかなければいけないんですがそれは当時の兵隊兵卒がどういう人たちだったかこれを考えてみる必要があるんですね。
昨日まで農耕に従事していたかもしれない農民たちが徴兵によって戦場に赴くわけですね。
そうすると基本的にやる気はないわけです最初から。
そしてできれば逃げて帰りたい生きて帰りたいそう思っているわけですね。
そういうような組織を統率しそこにエネルギーを持たせるために「孫子」は心を砕いてさまざまな英知を生み出しているんですね。
これが僕はほんとに現代役に立つのかなって思うのはやっぱり個人の時代だったりするので昔だったらばその町にず〜っと代々暮らしてて気心知れた人たちがある程度の価値観とルールはもう分かったよねってやってる時代も終わっちゃってるからいろんな集団がバラバラの方向を向いてる時代だと思うんですよ。
そうすると参考になる事はすごい多い気がしますね。
そうですね。
そういう時代に理想の集団というか「孫子」からしてみれば理想の軍隊は何だと言ってるんですか?一つは有名な「風林火山」の言葉に象徴されるんですね。
こちらをご覧下さい。
「孫子」とあんまり僕の中で関係ない感じですけどこれ「孫子」から来てるんですか?はい。
実は「孫子」の中にある言葉から取っているんですね。
ここまでがワンセットですね。
そこまでは何となく知ってます。
これは軍隊の臨機応変の機動性これを説いた言葉なんですよ。
この後半部分も面白いので。
実は続きもあるんですね。
「陰のように相手からは察知されにくくする。
雷が震うように激動する」。
それから「村里から掠める」。
これは物資や食料を掠める事を言ってるんですね。
その時には「兵隊を分散させて効率よく収奪する」。
収奪する。
はい現地調達ですね。
そして「土地を奪って拡大する時には利益となる要衝の地に分けて駐屯させる」。
そして「権」これは臨機応変という意味ですけども「臨機応変の対応によって行動する」。
単に兵力数が多いとか武器が豊富であるという事ではなくて…何か生々しいのが後半に…。
後半は生々しすぎるかも。
実際はこういうふうにしていかないと勝てないぞというところが後半にぐぐっと。
その泥臭いのが僕はとてもいいんですよ。
比較的美しいところを取って旗頭にしているわけですね。
さあそしてもう一つ「孫子」が考える理想の軍の在り方を表現した比喩があるんだそうでしてこちらご覧頂きましょうか。
さて皆さん私が理想の軍隊を何に例えているか分かるかな?正解はこれじゃ。
そう水。
水は必ず高い所から低い所に流れていく。
障害物があれば迂回する。
そして入れ物ですくえばその形に変化する。
対象物に応じて柔軟にその姿を変えるんじゃ。
同じように軍隊も水のように敵の陣形に柔軟に対応して勝利を収めるのが理想というわけじゃ。
何か兵法を極めていった結果哲学的な…っていうか。
聞いた事ありますねこの水の話。
「老子」にも出てきましたよね。
そうですね。
人の生き方みたいな事として水のようにっていう。
水というのは一見弱々しくて何の取り柄もないようなんですけどもどんな形にでも自在に変形できる。
それから一旦集中して流れ出すとどうでしょう水害のように巨大なエネルギーを発生しますね。
そういうところに「孫子」というのは軍隊の理想の姿を見たんですね。
その場その場できちんと必要に応じて必要な事ができる組織って強いですよね。
そうですね。
私たちはやはり…これは自戒を込めて言うんですけれども…時代の求めるものも変わってくるじゃないですか。
だからびっくりするのは例えばカメラのフィルムを作ってた大企業が今そのノウハウを使って化粧品もやるようになりましたみたいなのって勇気が要る事だと思うんですよ。
すごく大切なのは今自分がどういう所に置かれてて自分の能力は何で彼の能力はどうで相手はどうでみたいな事…やっぱり情報大事ですね。
現状の把握とかすごい大事だな。
しかしすごいですねこの「孫子」って2,500年ですよ。
その間読み継がれてそして今の日本社会でも古さを感じないこれすごいものがありますね。
そうですね。
やっぱり哲学の書なんですね。
この「孫子」というのは普通は「孫子の兵法」と呼ばれるんですけども「孫子」を読んでもどこにも具体的な戦争の体験は書いてないんですよ。
あるいは勇敢に戦った武将の伝記いわゆる武将伝は書いてないんですね。
「孫子」は恐らく悲惨な戦争をたくさん経験したと思うんですね。
それを思想のレベルに昇華させている。
そこに思想としての自由が生まれるんですね。
だからその自由な思想を今度は我々読者が自分の体験や現状に引き付けて自由に読む事ができるわけですね。
だから経営論とかスポーツとか処世訓とかさまざまなものに応用が利くと。
だから孫子というのは単なる兵法家戦争請負人ではなくてやはり哲学者だったんだと思いますね。
うわ〜何かずしっとくるな。
僕は途中で「これは今までの本とは違って哲学の本とは違って兵法なんだ」と思う事でちょっと整理してみようと思ってたんですけど更にその兵法を極めていくとやっぱ哲学だと。
何だろう「名著水のごとし」だね。
うまい!うまいね!戦争の世の中では別に兵法として読めばいいけどそれは人間の営みの生活の事だからその世の中がビジネスの世の中ならビジネス書として読めばいいし自分にとってはこれは家族母として世の中はもうこの家族なんだという事ならば家族の事としてとればいいんですもんね。
はい。
僕はもう今日からちょっと考えたいのは自分の戦場はどこだみたいな事をちょっと考えたいかな。
自分の中で守らなきゃならない事は何なのとかその時に立ちはだかってくるであろう困難は何なのって考えていくともしかしたらもう一回読み返した時に一個一個具体的な策が出てくるかもしれない。
夫婦げんかでもなるほどお互いの利を共有し合ってそれから多少でも有利にいくにはこうした方がいいとか。
私は詭道攻めでいきますよ。
策をいろいろ考えて?何とかうちの子におもちゃを片づけさせようとか?私夫の事ばっかり考えてた。
もう操ってやります。
湯浅先生4週にわたり本当にありがとうございました。
頑張りたいと思います。
ご健闘を期待しています。
2014/04/02(水) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 孫子[終] 第4回「勢いを作り出せ!」[解][字]
古代中国の兵法書「孫子」。孫子は、勝利とはひとりの英雄によって得られるものではなく、組織の優れた運用によって得られるのだとした。第4回では組織活性化の術を学ぶ。
詳細情報
番組内容
孫子は、個人のスタンドプレーを重視しなかった。そして勝つために最も大事なのは、集団が作り出す勢いだとした。勢いを生むためには、部下のやる気を上手に引き出さなくてはならない。その方法について、さまざまな案を示している。また孫子は、勢いがあれば小規模の軍でも大軍を倒せるとした。人々の心がバラバラな状態では、巨大な組織も役に立たないことを知っていたのだ。第4回では、孫子の卓越した組織論をひもとく。
出演者
【ゲスト】大阪大学教授…湯浅邦弘,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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