プロフェッショナル 仕事の流儀「四季を感じ、命を食す 料理人・中東久雄」 2014.03.31

(鳥のさえずり)豊かな自然が残る京都・大原。
何かを探す男がいる。
ほらつくし。
見つけ出したのはつくしやノビルなどの山菜だ。
実はこの男京都で最も予約が取れないと言われる料亭の料理人。
振る舞うのは自ら摘んだ山菜を使った料理。
その味は世界の名料理人たちをもうならせる。
海外にもその名をとどろかす和食の巨人。
四季の移ろいを繊細に表現した中東の料理。
命の一品を作るために野菜の声に耳を澄ます。
お!おいしい。

(主題歌)去年世界無形文化遺産に登録された「和食」。
中東はその精神を体現する料理人だ。
客に言われたひと言で進むべき道を見失った。
この冬挑んだのは根菜類を使った新作料理。
春に向かって芽吹く命を一皿に込める。
しかし困難を極めた。
日本が誇る魂の料理人。
妥協なき日々に密着!一面雪に覆われた…料理人中東久雄の一日はここ大原での食材集めから始まる。
お気に入りの帽子にオレンジのマフラー。
厨房の外では服装にこだわる。
目当ての山菜の多くは立ち入るのが難しい場所に生えている。
雪に覆われどこに山菜があるか全く見えない。
それでも経験を頼りに進んでいく。
突然雪を掘り始めた。
ほらほらほら。
ほら!雪の下で春の訪れを告げるつくしが顔を出していた。
野の草はどれもが食べられるわけではない。
中には危険なものもある。
手を施せばおいしくなるものを中東は知り尽くす。
地権者の許可を得てこの土地で17年野草を摘み続けている。
見えます?中東の店は京都銀閣寺の程近くにある。
大原から戻るとすぐに厨房で下ごしらえを始めた。
中東は値の張るぜいたくな食材は用いない。
集めてきた山菜に合わせるのは山で捕れた鹿やイノシシの肉。
魚はびわ湖のコイや川魚を主に用いる。
昼12時の開店と共に予約客で席が埋まる。
中東の料理には季節ごとに移ろう自然の情景が巧みに表現されている。
さまざまな山の幸と川魚を合わせた「八寸」。
雪を思わせる白あえの上にあのつくしをあしらった。
器の上に大原の情景を描き出した一品。
春の訪れを告げるツバキの花びらを赤カブを組み合わせて表現した。
客の顔を思わずほころばせる極上の味のハーモニー。
今国内外の一流料理人たちからも絶賛されている。
7年連続三つ星獲得。
世界最高峰の鮨職人小野二郎さんもその料理に魅せられた一人だ。
こうありますでしょ。
和食の匠としてその名を知られる中東。
求め続ける理想がある。
味わうほどに命を感じさせる中東さんの料理。
それはどのようにして生み出されるのだろうか。
食材の新鮮さに加えさまざまな調理の技が駆使されている。
例えばこのフキノトウ。
独特の苦みがあるため普通は塩や重曹を加えてその苦みを取り除く。
だが中東さんはあえて真水でゆでる。
真水でゆでる事でアクを出さず苦みをとどめる。
この苦みこそ風雪を耐えてきた山菜の命を感じさせるものだと考えている。
2月苦みのきいたフキノトウはいなりの具材に使う。
合わせるのは食感の良いユリ根土の香りがするむかごそして甘みのあるおこわ。
異なる味や香りを響き合わせる事で重層的で奥行きのある一品となる。
食材に宿る「命」を味わってもらいたい。
そのためにこだわるのは食材の全てを食べ尽くす事だ。
この日はネギの根を料理に使うと言いだした。
硬くアクが強い根。
おいしく食べるために独自の調理法を編み出している。
まずは海水を吹きつける事で塩味をつけ更にこめ油をまとわせる。
それをホイルで包んで炭火でじっくりと焼き上げる。
塩味を加える事でネギの甘みを引き立て同時にこめ油で軟らかい食感を生み出すのだ。
一つの食材を徹底的に使い切るのが中東さんの流儀。
そこから独創的な料理がいくつも生まれている。
これはそぎ落とした…一旦揚げた後山椒と合わせて佃煮にする。
更には日野菜カブの切れ端。
そのまま食べても硬くておいしくない。
中東さんはこれをすりおろして寒天で固める。
その上に葉をのせる事で日野菜カブを全部食べ尽くす料理を生み出した。
この日なじみの仕入れ先が難しい食材を持ち込んできた。
びわ湖で採れたタテボシガイ。
泥の中で生息しているため臭みが強い。
料亭で使われる事はめったにない。
だが中東は挑戦してみたいと思った。
常に新しい味覚を生み出すために探求を続ける。
それが中東だ。
貝の臭みを取る時には大根と合わせて炊くのが定石だ。
中でも今回は一癖ある大根を用意した。
(大根を切る音)強烈な辛さを持つ…普通の大根と比べ煮くずれしにくいのが特徴だ。
タテボシガイと辛み大根をだし汁で根気よく煮る作戦に打って出た。
酒としょうゆを加えながら何度も味を見る。
(煮える音)15分後。
独特の臭みは消え野性的な貝の風味が引き立ち始めていた。
だが中東は満足しない。
より深みのある味わいを出すため甘みが強い黒ニンジンを合わせてみる。
一歩ずつ階段を上っていく中東。
胸に刻む信念がある。
黒ニンジンの色素で全体が品のある紫色に染まった。
甘みが足された事で味の完成度も更に高まった。
いよいよ客に振る舞う。
厨房にはない器を弟子に取りに走らせた。
白い器に盛る事で紫色を引き立てる。
果たして客の反応は?さまざまな手だてを駆使したタテボシガイの煮物。
難しい食材を見事に料理してみせた。
(笑い声)みんな聞いてるか?日々あまたの食材と向き合う中東久雄さん。
その店で四季を通じて変わらぬ料理が一つだけある。
厨房の真ん中にある特製のかまどで炊く「ごはん」だ。
その振る舞い方がまた独創的。
最初に出すのは炊き上がる直前の「煮え花」と呼ばれるごはん。
続いて目刺しを合わせて炊き上がったごはんを。
最後は「おこげ」。
これをお茶漬けにして食べてもらう。
はいすんませんどうぞ。
素朴な食材だけを使って客の心を満たす中東さんの料理。
しかしここに至るまでには自分に自信が持てず迷走を繰り返す苦悩の日々があった。
昭和27年中東さんは京都北部の山あいの町花脊に生まれた。
実家は明治時代から続く老舗旅館。
白洲正子や司馬太郎らに愛された宿だった。
そこで料理長として腕を振るっていたのが14歳年上の兄吉次さん。
山菜を使った独自の料理で名だたる食通たちをうならせる名料理人だった。
自分も兄のような料理人になりたい。
中東さんは高校を卒業すると吉次さんの下で修業を始めた。
兄は一つ一つ丁寧に指導してくれた。
毎日一緒に野山を巡りその日に使う山菜を集めて回った。
どうすれば最高の味を引き出せるのか秘伝の技を学んだ。
だが中東さんには一つの不安があった。
自分はあくまでも次男。
いつかは独立しなければならない。
偉大な兄に頼り切りの自分が一人でやっていけるのだろうか。
38歳の秋。
中東さんは兄から1通の手紙を手渡された。
独立を促す手紙だった。
わら半紙10枚にわたって独り立ちするにあたっての心構えが書き込まれていた。
中東さんは手紙の最後に書かれていた言葉が気になった。
「誇り高く平らに生きよ」。
その言葉を残して間もなく兄はこの世を去った。
中東さんは不安の中で自分の店を開く。
その時一つの決意を固めた。
兄は研究を重ねて山菜に甘ダイやマツタケなどを合わせた独自の料理を完成させた。
兄のまね事と言われないために自分はあえて質素な食材にこだわる。
毎日のように大原に通い自ら食材を集めて回った。
しかし見た目は地味な料理。
褒めてくれる人もいたが客足はなかなか伸びない。
時折客からこんな言葉をぶつけられた。
これでは家庭料理と大差ないという批判だった。
決意が揺らぎ市場で高級魚を買い付けて出す事もあった。
覚悟を持てない自分。
兄の期待どおり誇り高く生きているとはとても思えなかった。
悶々と考え込む日々。
自分は一体どんな料理を作ればいいのだろう。
迷いの中でそれでも中東さんは大原に通い続けた。
雨の日も雪の日もひたすら野山を巡り山菜を探した。
欲しい野菜があると地元の農家を訪ね歩き買い求めた。
3年5年と通い続けるうちにある事に気付いた。
野菜1個の陰で農家がどれほど苦心して畑の土を作っているか。
そして野の草たちがどれほど懸命に生きようとしているか。
どんな素朴な食材にも掛けがえのない物語がある。
その感動を料理で表現すればいいのではないか。
かつて理解できなかった兄の言葉を思い出した。
農家の人のふとした言葉。
小さな野草の声なき声。
「平らに生きよ」。
それは決しておごらずさまざまな声に耳を傾けて生きる事ではないか。
何かが吹っ切れた。
独立から17年。
その名が世界にとどろくようになっても日々の大原通いを欠かす事はない。
「誇り高く平らに生きよ」。
兄の言葉を胸に野山を歩き続けている。
店に静かな緊張が漂っていた。
間もなく冬が終わる。
それに合わせて全く新しい料理を作るという。
新作料理を振る舞うのは1週間後の2月1日。
弟子からもアイデアを募る。
課題は冬から春への季節の変化をどう表現するか。
翌日中東はいつものように大原に出かけた。
おはようございます。
向かったのは野菜の直売所。
一つのアイデアがあった。
目を付けたのは大根やカブなどの根菜類。
春に向け地面の下で甘みを存分に蓄えているこの根菜類だけで新作料理を作ろうと考えたのだ。
厨房では一番弟子の今川勇人が一つのアイデアを試していた。
ゆでた大根ニンジンゴボウそしてレンコン。
それを大地の地層のように重ね煮こごりで固めた。
だが一つ気に入らない事があった。
春の訪れを表現しようと入れた菜の花。
シャリシャリとした食感が根菜類と合わない。
翌日中東が新たなアイデアを出した。
焼いているのはイノシシの肉。
冬の間に脂肪を蓄え今まさに脂が乗っている。
根菜類とイノシシという旬の食材をぶつける事でこの時期ならではの料理ができないか。
うん!うん!狙いどおりの味が現れた。
完成度はかなり高い。
だが中東はまだ満足していなかった。
近づく春の足音を表現する何か。
その何かが足りない。
締め切りまであと2日。
大原に向かう車中。
中東が季節の変化について話し始めた。
どうやら今年は春の訪れが早い。
17年通い続けているからこそ感じ取れた今年ならではの春の兆し。
それを表現するには一体何を料理に加えればいいのだろうか。
暦が2月に変わりいよいよ新作料理を出す日が来た。
なじみの農家の畑に向かった。
この時期よく使う辛み大根を手に取る。
いきなり葉をちぎり始めた。
いつもはごわごわでとても食べられないものだが何か様子が違う。
ふだんの年とは違うみずみずしい甘みがあった。
根菜とイノシシ肉の炊き合わせ。
その上にふだんは使わない辛み大根の葉をのせる。
今年ならではの春を伝える最後の決め手だ。
お待たせしてます。
すみません。
ようこそ。
客の反応はどうか?おいしい。
そこかしこで聞こえる感嘆の声。
中東は一人静かにうなずいていた。

(主題歌)今日も野の草の声が中東を誘う。
新しい季節が近づいている。
生命を知り尽くして料理して伝えていく事ですかね。
またあしたも来ます。
孫が来ました。
ピース!2014/03/31(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「四季を感じ、命を食す 料理人・中東久雄」[解][字]

「京都で最も予約が取りにくい」と言われる料亭を営む、料理人・中東久雄。野山で集める素朴な食材から、“命を感じる”と絶賛される料理を生み出す。和食の神髄に迫る!!

詳細情報
番組内容
「京都で最も予約が取りにくい」といわれる料亭を営む、料理人・中東久雄(61)。タイや伊勢エビなどの豪華食材は用いず、野山から集める素朴な食材などから、“命を感じる”料理を生み出す。四季の移ろいを映し出す技は、国内外の一流料理人から尊敬を集める。この冬、中東は、春に向けて命を育む野菜の力強さを凝縮した、究極の一品に挑んだ。世界無形文化遺産に登録された和食文化、その神髄を体現する料理人の闘いに密着!
出演者
【出演】料理人…中東久雄,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:2665(0x0A69)