電撃小説大賞

第20回 電撃大賞 入選作品

電撃文庫MAGAZINE賞

「給食争奪戦」

作/アズミ(26歳/東京都)

受賞作品

電撃文庫

給食争奪戦

大人たちが知らない、小学生たちの熱い闘争。

著者  : アズミ
イラスト: すきま

「電撃文庫MAGAZINE Vol.36(2014年2月10日発売)」に全文掲載

プロフィール

北海道出身のポンコツ。大学進学と共に上京して早々、友人に「東京では自転車に乗るのに“免許”が必要」だと騙される。筆記は簡単。あと「ブレーキの握り方」の実技があるという事前情報を持って、いざ区役所へ。……どうなったかは、ご想像にお任せしたい。はい、世間知らずです。

受賞者コメント

よし、本気で小説家を目指して頑張ろう。30歳までにデビューできれば御の字だ。まずは前に書いた短編を電撃に応募して、選評シートで自分のレベルを知ろう。その内容をもとに本格的に頑張ってやるぜ。来年が勝負だ! …なんて思っていたら、そのまま短編で受賞してしまいました。なんだか申し訳ない気分です。ライバル達に比べて圧倒的に努力が足りない分、この先、死に物狂いで頑張らなければ。

あらすじ

鉄の所属する五年二組には一人、学校に来ない子がいた。そのため、毎日デザートの余りを巡って、争奪戦が起こっていた。表面上は、早食い競争の勝者がゲットできることになっていたが、実際にはクラスのボスでいじめっ子のダイキが、その権利を独占していた。
鉄は、クラスメイトのマコトをイジメから守ったことが原因で、ダイキから酷い嫌がらせを受けていた。そして鉄が欠席した日に、小心者のマコトがダイキにプリンを脅し取られるという事件が起こる。そのことに腹を立てた鉄は、密かにダイキへのリベンジを決意するのだった。
その内容は、一年で最も人気があるバレンタインの特別メニュー「チョコレートケーキ」を、ダイキから奪い取るというもの。それも、自分の仕業だとはバレないように。
ケーキを二つも食べられると思い込んでいるダイキ。ダイキにケーキを一つも渡すつもりがない鉄。計画がバレれば即、ゲームオーバーという緊張感の中、鉄は密かに計画を進めていく??。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎(作家)

短編であるにも関わらず、二転三転するストーリー展開の密度に、まずは脱帽。給食の早食いに持てる能力のすべてを捧げる小学生たちも、微笑ましかった。脇役たちにもそれぞれ見せ場があり、細かいエピソードにも捻りが利いている。非常に丁寧に作られた作品だと思う。ラストのすぱっとした締め方も、個人的には好みです。

時雨沢恵一(作家)

短編で最終選考に残るというのは、長編よりずっとずっと難易度が高いものです。この作品が数ある短編の中でトップを取った理由は、読んで納得しました。ラストに向けて二転三転する展開と、最後の爽やかなオチ。実に見事でした。短編の見本のようでした。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

完成度はピカイチ。最終審査で一番最初に読んだ作品がこれだったので、今回はハードルが一気に上がった。短編という制約の中で、伏線とキャラクターを見事に使いこなし、各キャラへのフォローも忘れない。大逆転の展開がちょうど冒頭の伏線を忘れかけた頃にポッと出る辺り、短編の有利さを生かしている。まとまりの良さゆえ他の作品に比べてスケール感はないが、その小品さ加減がいい。

荒木美也子
(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

短編小説として、時代にマッチした題材であり、キャラクター造形もしっかりしており且つ無駄のない構成力と、審査員一同の評価はとても高く、完成度でみれば大賞作品に匹敵すると思います。また、大人が子供に読ませたい児童文学として、是非出版して頂きたいなと思えた作品です。次回、違う題材でこの方の長編小説を是非読んでみたいです。

鈴木一智
(アスキー・メディアワークス副BC長・第2編集部統括編集長)

舞台はとある小学校の5 年2 組、ネタは給食争奪戦──なのですが、主人公は独裁政権に立ち向かうレジスタンスのようで、ある種政治ドラマのような様相を呈しているのが興味深い。キャラも強さや弱さ、純粋さや狡猾さを併せ持った厚みのある人間として描かれており、短編という尺の中できちんと物語を成立させています。個人的に“何故に小学校?”という疑問はあるものの、筆力の高さを感じる作品でした。

徳田直巳(電撃文庫編集長)

一言、うまい! 限られた枚数内で様々な伏線をはり、それをしっかりと回収して、どんでん返しも行い、子供たちの心情や友情をきっちり描いている、非常によく出来た短編。自分の小学生時代を思い出してノスタルジックな気分にもなりました。良いこと悪いこと、ズルいこと陥りやすいこと……教育的なメッセージもこめられていて、老若男女、たくさんの人に読んでもらいたいと素直に思える作品です。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

嫌なガキ大将の鼻をあかすため、年に一度の給食のバレンタインケーキを奪おうと画策する、小学生の主人公の知略が面白かったです。忘れかけていたキャラが重要な役割を担う意外性のあるラストもオチが効いていて、短編としてのクオリティが高い作品でした。アイデアが豊富そうな方なので今後の活躍が楽しみです。