WEB特集
大規模緩和1年 銀行に変化は?
4月4日 21時50分
世界を驚かせた日銀の大規模な金融緩和から4日で1年になりました。
通貨を発行しすぎることに慎重な中央銀行の常識を覆しみずから「異次元」の政策と呼んだ金融緩和で日本経済の景色は一変したように見えます。
しかし、大規模に金融緩和しても銀行から企業に資金が流れて行かなければ経済は活性化しません。
「晴れの日に傘を差しだし、雨の日に傘を取り上げる」とまでやゆされることもある銀行の融資姿勢に変化は起きているのか。
経済部で金融を担当する影圭太記者が解説します。
“貸し出し増やせ!”社長の危機感
「銀行の本来業務である貸し出しを伸ばしていく」。
3月下旬の「りそな銀行」東京本社の大会議室。
東和浩社長がおよそ50人の幹部行員を前に強い口調で述べると行員たちの間に緊張感が走りました。
東社長が去年暮れに立ち上げた社長直轄のチームの名称は「成長・再生支援推進委員会」。
リーマンショックの後、いわゆる優良企業は危機に備えて資金をため込み銀行からお金を借りてくれなくなりました。
一方、長らく不良債権問題に苦しんだ銀行は経営不振の企業に対する融資に及び腰です。
「このままでは銀行の成長はない」東社長の危機感を反映した取り組みなのです。
貸し出しリスクをどう取るか
私が取材したのは、経営環境の厳しさが増す東京・神田にある大型書店への融資の現場でした。
書店業界では、アマゾンをはじめとした書籍のネット販売や電子書籍の普及で売り上げが伸び悩んでいます。
この大型書店は事態をどうすれば打開できるか悩んでいました。
そこで、りそな銀行はこの書店を担当してきた地元支店の行員に加え、本社の委員会のメンバーを担当にし、打開策の模索を始めていました。
銀行は書籍のジャンルに合わせその場で関連する品物を手に取ることができれば、新たなビジネスにつなげられると提案しました。
酒類の書籍のコーナーのそばでおすすめのワインを販売したり、ペットの関連コーナーにペット用品を並べられないかというのです。
こうして新たな形の書店が生まれれば銀行にしても新規の融資に結びつく可能性が出てくると考えているのです。
「これまでは赤字の店の見直しなどの提案が中心だったが、今は前向きな事業拡大の提案が増えていて、銀行の対応が大きく変わった」。
書店担当者も銀行の姿勢の変化に驚いていました。
りそな銀行の東社長は「これまでは本業の貸し出しへの踏み込みが足りなかった。どうやってリスクを取るかを考え、貸し出しを増やしていかなくてはいけない」と話しています。
姿勢の変化は実感される
銀行の姿勢の変化は、経済指標にも表れ始めています。
企業の景気判断を取りまとめている日銀の短観は、金融機関の貸し出しの姿勢についても調べています。
4月1日に発表された短観によると、貸し出し姿勢はプラス15ポイントと、前回を2ポイント上回りました。
これは大規模緩和が始まる直前の短観以降、5期続けての改善です。
銀行の貸し出しへの姿勢が、前向きに変わり始めていると、企業の側も受け取っていることがうかがえる結果となっています。
融資姿勢は変わったけれど・・・
しかし銀行の姿勢に変化は生じていても貸し出しは期待されたほど伸びていません。
日銀の統計では全国の銀行による貸し出しの残高は2%台の増加にとどまります。
特に中小企業向けの融資は伸び悩んでいます。
新たに設備投資を行って融資を受けたい企業が増えるよう、銀行の取り組みがますます重要になってきています。
デフレ脱却へ道半ば
日銀が大規模緩和に踏み切って1年。
沈滞ムードが強かったそれ以前と比べ日本経済の景色は大きく変化しました。
円安と株高で個人消費が活発になり企業の業績も回復しました。
春闘では久しぶりにベースアップに踏みきる企業も増えました。
消費者物価も1%台の上昇に転じ、デフレからの脱却に向けて順調な道筋をたどっているようにみえます。
順調すぎたと言えるかもしれません。
しかしこれから先の道のりは平たんではありません。
消費増税による景気の落ち込みをどう抑えて行くのか。
政府と日銀の取り組み、そして銀行と企業の関わりをしっかりと見つめたいと考えています。