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アップル対サムスン 訴訟の行方は

4月3日 19時20分

芳野創記者

「特許を巡る史上最大の訴訟」と呼ばれる、アメリカのアップルと韓国のサムスン電子の裁判。
両社の主力機種を対象にした裁判の審理が、3月31日からアメリカのカリフォルニア州で始まり、IT業界をリードする大手2社の対決に世界的な注目が集まっています。
この裁判を現地で取材しているアメリカ総局の芳野創記者が解説します。

連邦地裁5階1号室

カリフォルニア州サンノゼにある連邦地方裁判所。

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その5階にある1号室が今回の裁判の舞台です。
傍聴席から見ると、右側のアップルの弁護団は皆アップルのパソコンで作業し、左側に陣取るサムスンの弁護団はサムスンのパソコンを使っています。
サムスン側には、パソコンの壁紙を大きな会社のロゴマークにしている弁護士もいます。
さらにいちばん右側には陪審員が並び、中央に座る韓国系アメリカ人のルーシー・コー裁判官が裁判を取りしきっています。

主力機種が対象に

今回の特許訴訟の特徴は、最新機種ではないものの両社の主力機種として広く普及している商品が対象になっていることです。

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いずれも2年前に投入された、アップルの「iPhone5」や「iPadmini」、サムスンの「GALAXYS3」や「GALAXYNote2」などのヒット商品が訴訟の対象になっています。
このため損害賠償の金額が大きく膨らむ可能性も指摘されています。
アップルは、端末1台当たりの特許使用料は最大で40ドル、日本円でおよそ4100円になるとして、総額で20億ドル、日本円で2060億円に上る巨額の賠償を求めています。
一方のサムスンは、700万ドル、日本円で7億円余りの特許使用料を求めているとされています。
両社は、特許の侵害が故意に行われたとして、アメリカの特許法に従って賠償額を3倍に引き上げるよう求めていて、アップルの請求額の大きさが際立っています。

スティーブ・ジョブズ氏とグーグル

初日に陪審の選任を終え、1日から始まった本格的な審理では、はじめに双方が90分間の持ち時間で冒頭陳述を行いました。
アップル側はまず、スクリーンに創業者、スティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションの場面を映し出しました。

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2007年にiPhoneを発表した伝説的な発表会です。
「アップルが電話を再発明する」という印象的なことばとともに、当時の会場の熱狂的な雰囲気をそのまま法廷に持ち込み、アップルがスマートフォンの生みの親であるという印象を強めるねらいです。
アップルの弁護士は、「革新的なデザインや機能を生み出したのはアップルだ。サムスンはわれわれの特許を侵害して販売を伸ばしてきた」と訴えました。
これに対してサムスン側がとった戦術も意表をつくものでした。
弁護士は「アップルがまねをされたと主張している機能の多くは、基本ソフトのアンドロイドを提供するグーグルの技術者が開発したものだ」と反論したのです。

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実は、アップルが侵害されたと主張する5件の特許のうち4件は、グーグルの基本ソフト「アンドロイド」の機能として使われています。
アップルがあえてグーグルに関連するこれらの特許を取り上げた理由は、サムスンに勝利すれば、最大のライバルであるグーグルにも打撃を与えることができるというねらいがあるのではないかとみられています。
ただ、アップルがなぜ直接グーグルを訴えないのかという疑問も残ります。
これについて、特許法が専門のサンタクララ大学ロースクールのブライアン・ラブ准教授は次のように解説します。
「グーグルは基本ソフトのアンドロイドを無償で提供しているので、特許侵害があったとしても賠償額を認定するのが難しい。直接、携帯端末を販売して利益を得ているサムスンなどの企業を訴えたほうが賠償額を認定しやすい」。

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アップル側は「グーグルの技術者こそが発明者だ」というサムスンの反論に対して、「グーグルは当事者ではなく、模倣したのはあくまでもサムスンだ」と主張していますが、裁判の陰の主役としてにわかにグーグルに注目が集まっています。
アメリカのメディアも、裁判が進むにつれて争いの構図がアップル対グーグルに移るのではないかと指摘しています。

アップルの幹部登場

さて、裁判では1日から証人尋問が始まりました。
最初の証人として出廷したのはアップルのフィル・シラー上級副社長です。
製品発表会では、青か緑のシャツにノーネクタイという印象が強いシラー氏ですが、この日は紺色のスーツにストライプのシャツという一風違った格好で登場。
自社の弁護士の質問に笑顔でよどみなく答える姿からは、この日のために相当な準備を重ねてきたことがうかがえました。

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シラー氏は、2007年にiPhoneを生み出すまでにどれだけの努力をしたのかを強調し「サムスンの模倣によってアップルの革新性に傷が付いた」と答えました。
これに対し、反対尋問にたったサムスンの弁護士は「シラー氏が同僚に出した電子メールからは、サムスンの攻勢にアップルが冷静さを失っていたことがうかがえる」と述べ、アップルの訴えは過剰反応だと主張しています。

和解の可能性は

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両社は一歩も引く構えは見せていませんが、多くの専門家は、消費者のためにも両社は和解を選択すべきだと主張しています。
サンタクララ大学のブライアン・ラブ准教授は「裁判の本当のねらいは、ライバルのブランドイメージを傷つけることにあり、いわばマーケティング戦略の一環ともいえる。裁判のために使う膨大な訴訟費用は、本来は革新的な商品を生み出すために使われるべきものだ」と述べています。
これまで両社の首脳は、裁判所の勧告を受けて何度も協議を重ねてきましたが、いずれも物別れに終わりました。
過去に例のない巨額の賠償が認められることになるのか、今月末にかけて行われる審理の行方に注目が集まっています。