国際報道2014

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特集

2014年4月1日(火)

北朝鮮 ”統治資金”の実態

世界に衝撃を与えた北朝鮮でのチャン・ソンテク氏の粛清。背景には、最高指導部が権力を維持するための資金「統治資金」を巡る争いがあった。北朝鮮は、世 界中で合法・非合法のビジネスを手がけ外貨を獲得し、最高指導者に収める。その外貨が「統治資金」だ。指導者は、その資金で外国製の高級車や時計、ワイン などのぜいたく品を調達して、部下にプレゼントとして贈る。忠誠心の維持のために欠かせないシステムとなっている。今も様々な手段で「統治資金」を得よう とする北朝鮮。一方、国際社会は制裁措置を科し、その資金獲得とぜいたく品の調達を阻止しようと監視の網を縮めつつある。秘密のベールに包まれてきた北朝 鮮の「統治資金」の実態を追う。
出演:池畑修平(国際部デスク)

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有馬
「昨日(3月31日)までの日本との政府間協議で拉致問題を含めた協議の継続に合意した北朝鮮。
日本から経済制裁の緩和を引き出そうという狙いがあるものとみられます。
その背景にあるとみられるのが、統治を支える独特なシステムに欠かせない外貨が不足している現実です。」

黒木
「こちらをご覧ください。
幹部にプレゼントを渡すキム・ジョンウン第1書記です。
高級時計を次々と渡しているところなんですね。」

有馬
「泣いてる人もいるんですね。」

黒木
「さらに、模範的とされる家庭を訪れて家電製品などをプレゼントする様子もあるんです。
このように、北朝鮮では、最高指導者が幹部の忠誠心をつなぎとめるため、高級なプレゼントが重要となっています。
それは社会主義の計画経済とは別の経済、『宮廷経済』とも呼ばれています。
その原資となるのは、北朝鮮が世界各地で展開するビジネスです。
その実態を取材しました。」

世界で展開する外資稼ぎ

先月(3月)、アフリカ南部のナミビアで、指導者の巨大な銅像の除幕式が行われました。
実は、この銅像、北朝鮮の芸術家集団がつくりました。
除幕式には、キム・イルソン主席のバッジをつけた北朝鮮の当局者も出席していました。
今、北朝鮮はアフリカ各地で多くの銅像をつくり、外貨を稼いでいます。

それを担っているのが、ピョンヤンにある芸術家集団「マンスデ創作舎」です。
北朝鮮国内のキム・イルソン主席らの銅像をつくってきました
北朝鮮の外貨稼ぎは、ヨーロッパでも展開されています。

佐々記者
「ヨーロッパ経済の中心都市フランクフルト。
町の真ん中にあるこちらの噴水。
実は北朝鮮が復元作業に関わりました。」

100年以上前につくられた銅の装飾は、ヨーロッパに修理できる技術者が少なく、北朝鮮に修理を依頼したと言います。
支払ったのは20万ユーロ。
今のレートでおよそ2,800万円が北朝鮮に渡ったとみられています。

復元プロジェクト責任者
「ヨーロッパの会社に依頼していたら、5割以上も高くなったでしょう。
北朝鮮の職人の腕は、とてもすばらしかったです。」





さらに、今、北朝鮮は、大量の建設労働者を外国に派遣しています。
モンゴルの首都、ウランバートル。
極寒の中で働く50人以上の北朝鮮労働者の姿をカメラが捉えました。

「どこから来たのですか?」

男性
「北朝鮮です。」

雇っているモンゴルの建設会社の社長によりますと、労働者たちの技術力は高く、毎月の給与は1人あたり7万円ほどですが、一括して北朝鮮の会社に支払う約束です。

モンゴルの建設会社社長
「彼らはたばこやあめを買う程度の金はもらっているようですが、それ以上の金はもらっていないでしょう。」





かつて3年間、北朝鮮に駐在した駐日モンゴル大使は、最近、北朝鮮からの労働者が増えていると言います。

モンゴル ソドブジャムツ・フレルバータル駐日大使
「北朝鮮から労働者を受け入れ始めたのは、5年ほど前からです。
現在1,700人ぐらいいます。
ほとんどが建設分野で働いています。」


こうして獲得した外貨は、北朝鮮の専門部署に集められ、キム・ジョンウン第1書記が自由に使えます。
この外貨で高級な品々を調達し、幹部にプレゼント。
忠誠心をつなぎとめる独特のシステムなのです。

“宮廷経済”に詳しい脱北者 キム・グァンジンさん
「幹部の忠誠を得るための資金です。
(最高指導者が)自ら管理して、独自の経済を作り上げているのです。」






ぜいたく品の調達 国際社会との攻防

外貨を使って、プレゼントの調達が主に行われてきた舞台はヨーロッパです。
北朝鮮の技術者だったキム・ジョンリュルさんです。
脱北するまでの20年間、何度もヨーロッパに派遣され、さまざまなものを調達しました。

キム・ジョンリュルさん
「高級車を購入しました。
金メッキを施した銃を買ったこともあります。
命令には背けないと必死でした。」




しかし、2006年の国連の制裁決議は、武器取引に加え、そうした高級品を「ぜいたく品」とみなし、輸出を禁じました。
これに対し、北朝鮮は巧妙な方法で制裁の網をかいくぐろうとしています。
2010年、ウィーンで行われた刑事裁判で、あるオーストリアの実業家が有罪判決を受けました。
判決によりますと、実業家は北朝鮮にドイツ製の高級車8台を輸出し、さらに豪華クルーザー2隻も輸出しようとしていました。
輸出には、中国の企業が関わっていました。
警察では、手付け金を支払ったのがこの実業家ではなく、実際には中国の企業だったことを突き止め、中国経由で北朝鮮に送られると断定。
差し押さえに踏み切りました。

税関担当者
「我々は法を逃れようとする北朝鮮を厳しく検査しています。
しかし残念ながら輸出が行われた可能性は否定できません。」





制裁の網を狭める国際社会に対し、抜け道を探し続ける北朝鮮。
その攻防は、今も続いています。

幹部へのプレゼント その重要性は

黒木
「ここからは国際部の池畑デスクに聞いていきます。」

有馬
「フランクフルトのカイザーシュトラッセだと思うんですけど、特派員の時にあの辺よく通ったんですが、あの噴水が関係してるとはちょっと思わなかったですね。
それにしても、ベンツは分かるんですが、腕時計やテレビ、そのプレゼントってそんなに大事なんですか?」

池畑デスク
「年々、重要になっていると言っていいと思うんですよね。
と言うのも、北朝鮮、かつては社会主義に基づく食糧の配給が機能してて、その頃は人々は食糧をもらえるのでおのずと指導部への忠誠心は高かまったんですね。
でも、1990年代以降、配給制度が崩れて人々が餓死することもあったぐらい経済状態は悪くなって、自分たちで貿易とかして、外に向けて自分たちで金を稼ぐようになってきたんです。
そうすると、もう指導部に頼る必要もなくなってきて、忠誠心をつなぎとめるというのは難しくなってきたんですよね。
そうやって思想統制が崩れてきたころ、キム・ジョンイル総書記のころに、この『宮廷経済』っていうのが形成されたとみられているんですね。
さらに、今のキム・ジョンウン第1書記、なにせ若いですし、なかなか実績もないですし、父親の時以上にやっぱりプレゼントを調達して、あげるっていうのは重要になってるという指摘も多いんですよね。」

有馬
「北朝鮮のマインド・コントロールっていうのはもう絶対ではないということなんですかね?」

池畑デスク
「昔に比べるとだいぶ実は内実は変わってきてると思うんですよね。」


強まる制裁 “宮廷経済”に変化は

有馬
「外貨稼ぎというと非合法ビジネス、それも派手な麻薬ですとか、偽札づくり、そういうイメージがあるんですけれども、今見ていったのは、美術品、それから建築現場っていう話なんですけど、いったいどのぐらいの規模になってるんですかね?」

池畑デスク
「正確な数字は、北朝鮮のことですからなかなか出てこないんですよね。
確かにかつて、稼ぎ頭はミサイルの輸出だったんですね。
そうするとミサイルに偽札や麻薬とかっていう派手な、いろんな取り引きやってたころ、この『宮廷経済』に集まる外貨は年に2,000億円という推計はあることはあるんですよね。
今じゃあ、そういう美術品とか建築現場で得られる外貨って、その数分の1、もしくはそれ以下という見方がありまして、その『宮廷経済』っていう外貨を稼いでぜいたく品を買って、それでプレゼントするという、この流れはなかなか厳しくなってると思うんですよね。」

黒木
「そうした現状の中で、北朝鮮は日本に関係改善を求めてきてるわけですけれども、これに対して、どう日本は向き合っていくべきなんですかね?」

池畑デスク
「まさに北朝鮮が日本、あるいは韓国に今歩み寄ってる背景も、この『宮廷経済』がちょっと不安定になってるということで、日本としてこの独特の統治システムを別に肯定する必要はないんですけど、一方で交渉事には駆け引きが必要ですから、やはりその北朝鮮の内実、台所事情ををよく分析して、今北朝鮮は何を求めているのかっていうことをよく考えて、拉致問題の進展をはかってほしいというふうに期待してます。」

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