中選挙区制復活論議

 新聞報道によると、民主党の渡辺恒三議員ら超党派の議員によって、「小選挙区制度を考える会」が本年11月17日に発足したという。発起人は20人を超え、自民党だけでなく公明党やたちあがれ日本からも参加者があるという。11月24日の産経新聞の一面に掲載された、渡辺恒三氏の「国益が第一」と題する論稿では、TPP問題などをめぐって政党が意見集約機能を失った一因として、小選挙区制をあげ、中選挙区制に戻して、国民の選択肢を増やすべきだという提言を行っている。

選挙制度改革の必要

 小選挙区制度を定める公職選挙法(及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法)の改正は必要である。本年3月23日の二つの最高裁大法廷判決によって、いわゆる一人別枠方式(都道府県の区域における選挙区の数に予め1を配当し、のこりの議席(300-47)を人口比例配分する選挙区数決定の方式)が、選挙区間の投票価値に較差を生じさせる主要な原因となっているとして、このような方式によって発生した較差最大2.304倍に達していた選挙を違憲状態と判断しているからである。

 最高裁判決は、平成21年8月30日施行の選挙について違憲状態としたものだが、その後較差はさらに広がっている。直近の国勢調査に基づく試算では、人口最少の高知3区と千葉4区の較差は2.524倍であり、較差が2倍を超える選挙区は実に97に達しているという。都道府県ごとの定数配分のルールから見直す必要があるので、かなり大幅な改革が必要であることはうなずける。しかし、国会が較差是正を行わずに、解散総選挙は行えば、「違憲状態」から「違憲」と判断され、場合によっては選挙無効もありうる。

  • 衆議院ー質問答弁 (平成23年5月17日、第177通常国会での164号答弁において、「現行の公職選挙法の下で内閣が衆議院の解散を決定することを否定されるものではない」と述べている(管内閣)。解散権は統治行為であるから、裁判所において無効とされることはあるまい。違憲無効の疑いがあるのは、その後の総選挙である。

小選挙区制から中選挙区制へ?

 このような状況で、なぜ中選挙区制の提案がなされるのか。中選挙区制(3~5の定数)は、大正14年の導入以来、1945年12月の選挙を除き、平成5年まで続けられてきた。中選挙区制を改めて小選挙区制を導入したのは、同士討ちや金権政治を解消し、政権交代軸の創出のためであった。選挙制度には一長一短があるので、どれがベストとはいいにくい。渡辺恒三氏は、小選挙区制は、政党の意見集約機能の低下とそれによる国民の政治不信を強めたと述べる。
 特に、小選挙区制が世論の動きに過敏に反応し、選挙のたびに大量の国会議員の入れ替えがあることを同氏は問題にしている。2005年の総選挙で、83人の「小泉チルドレン」が生まれたが、2009年の総選挙で生き残ったのは10人程度(12%)だという。— この計算だと、2009年に誕生した「小沢チルドレン」143人で次の選挙に生き残れるのは、17人ということになろう。— 渡辺氏は、これでは新人国会議員が見識を磨く暇がないというのだが、この議論に賛同する有権者は少ないだろう。元々、「チルドレン」は、自民党なり民主党なりが見識のある人物として公認したのではなかったのか。議員になってから見識を磨かれたのではたまったものではない
 リーダーやサブリーダーを養成し輩出するのは本来政党の機能である。わが国の政党が見識のある議員を定数まで養成できないとすれば、渡辺氏の議論からたどりつく結論は、議員の削減(仕分け)にほかならない。わが国の財政事情を考えれば、見識のない議員を雇うゆとりはないはずだ。

 2010年の国勢調査の統計では、人口の最も少ない鳥取県は、588,667人。総人口128,056,352人であるから、これを鳥取県の人口で割ると約217.5である。鳥取県の議席を1として、試しに議席配分を行ってみると、議員数211で、最大最小の較差は1.73となる(議席配分表)。在外日本国民1,212,547人(2010年9月現在)を単純に総人口に加えて、同様に鳥取県の人口で割ると、約219.6である。そうすると、県単位で最低1人の議席を確保するとしても、衆議院議員の数は220人で足りる計算だ。
 現在衆議院議員の定数は480だから、260人の削減が可能である。国会議員1人あたりにかかる直接経費は、7360万円であるから、間接経費を含まず見積もっても191億3600万円の仕分けが可能である。(さらに、議員一人に換算して年4,500万円が支給される政党助成金などの削減も行うことも考えられよう。)

  • 国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律 (e-gov) (歳費月額1,294,000*12 + 期末手当年間718万円 + 文書通信交通滞在費月額1,000,000*12 + 立法調査費月額650,000*12 + 公設秘書(政策秘書年平均1000万円、第1秘書年平均800万円、第2秘書年平均500万円。)

 議員の削減は、小選挙区制が世論に過敏に反応するという特徴を、中和することにもなる。

なぜ中選挙区制か?

 渡辺氏は、中選挙区制の導入を是とする理由として、これにより政党本位の選挙から人物本位の選挙にすることができ、その結果、政策課題に対して党を割って離合集散して解決へ前進できると述べている。中選挙区制では、同士討ち(同一選挙区で、同じ政党の議員が複数立候補する)もあり得、政党の力を弱めることになるだろう。結局、政党内に派閥の形成をまねくことになるだろう。
 渡辺氏の議論の通りに事が運ぶと、国民は選挙である人物を選ぶが、その人物は選挙後離合集散を繰り返し、終には選挙当時とは似ても似つかぬ政党に属するという事態が予想される。ここには、選挙とは人物を選ぶもので、政策は選ばれた人物が決定するものだという考え方が潜んでいる。これは、選挙とは政権を選ぶものである(マニフェスト選挙)という最近のトレンドを否定することでもある。
 渡辺氏の議論に欠けている点は、国民が選ぶべき人物(「○○チルドレン」ではない)を誰が養成し推薦するのかという点である。かつての、55年体制下においては、イデオロギー的な対立から、労組や経済団体などがリーダーの養成と輩出を行ってきた。しかし、今日では、政党がこれを行わなければならない。政党ではないとすると、誰が行うのだろうか?
 本来、政党には、①政治的リーダーシップの養成、②利害表出、③利害集約の三つの機能があるはずだが、渡辺氏が指摘する通り、現在の主要政党は、①、③につき機能不全に陥っている。もしこれらの機能を果たさないとすれば、政党はなんのためにあるのかということになろう。単なる利害の表出はだれでもできる。討論を通じて利害の集約を行うこと、次代の担い手であるリーダーを養成することは政党が本来行うべきことであり、そのためイギリスやアメリカの政党は予備選挙を行い、党内の民主化をすすめている。政党が行うべき改革は山ほどあるはずだ。
 しかし、これらは政党の課題であって、選挙制度の課題ではない

選挙制度の課題

 もし選挙制度を抜本的に改めるなら、単記投票・相対多数制を改めるべきだ。この方式では、有権者の選好とは異なる結果となる確率が高い。選挙制度は、公正で効果的に国民の世論を反映する仕組みであることが求められる。その他の配慮は二の次である。そうだとすれば、有権者の選好を確実に伝える投票方式—例えば、各候補者ごとに認定するかしないかを決定する方式(認定投票方式) — の採用が望まれる。これならば、特定の候補者のみを落としたいという意見も、複数の候補者のいずれかがよいという意見も反映することができる。このような論法であれば、中選挙区制なり大選挙区制なりの導入にも耳を傾ける余地があるのだが・・・。

追記

 11月28日、自民党の谷垣総裁も、「小選挙区制は勝敗の振幅が大きく若手議員が育ちにくい」として、中選挙区制の議論を中心に選挙制度改革を行うべきだと述べた。

追記2

 12月1日、民主党は、「一人別枠方式」を廃止するための衆議院議員選挙区画審議会設置法(以下「区画審設置法」という)改正案を今国会(12月9日に会期末をむかえる)に提出することを断念したという。来年の通常国会に格差是正をめざすという。
 区画審設置法2条により、区画審は、選挙区の改定案を作成して内閣総理大臣に勧告することになっているが、同法4条により、この勧告は、国勢調査の結果が最初に官報に掲示された日から1年以内に行うこととされている。平成22年の国勢調査の結果は、本年2月25日に掲示されたので、来年2月25日までに、区画審は勧告を行わなければならない。ところが、先の最高裁判決によって、区画案作成の基準を定めた同法3条のうち、一人別枠方式を定めた2項が違憲とされたため、区画審は、本年3月28日以降開催されていない。
 単に、法3条2項を削除する改正をすれば済むのだが….

追記その2

 2012年8月27日、解散も間近とされるなか、衆院倫理選挙特別委員会において、民主党単独で選挙制度改革案を可決した。小選挙区において「0増5減」、比例区において定数180を140に減少させ、うち35を連用制とするものである。しかし、野党は民主制の根幹に関わるとして審議にさえ応じていない。このままでは参院通過は無理だろう。— 昨年の違憲判決以来、区割審が空転するなか、なお選挙制度改革は先送りされる格好になる。時間は十分にあったはずである。
 そんななか、大阪維新の会の橋本代表は、衆院定数の半減を目標に掲げることを打ち出している。注目すべきはこれに対する既存政党からの疑問の声である。朝日新聞報道によると、既存政党の幹部から「どういう理念なのかわからない」「一票の格差が完全に是正できるのか」といった疑問が相次いだという。おそらくは、国会議員どうしの狭い世界の中での議論に終始しているため、自ら計算したこともないのだろう。人口最小の県に1議席を割りふり、他の県の議席を算定すれば、衆議院の議席数が、240も必要ないことは明らかである。
 さらに問題なのは、定数是正をどう行うかについて、増税をした以上、国会が自ら身を切る覚悟をすることは当然であると多くの者が考えているなか、「どういう理念かわからない」とか「国会議員の身分に関わることだから慎重に」といった発言がよくも出てくるものだと感じる。
 国会は、選挙制度を可能なかぎり単純化したうえで、定数是正を裁判所の判決に委ねるべきだろう。

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