東京の、桜の名所はどこですかと聞かれたら、私は「千鳥ヶ淵」と即答します。花ざかりのこの季節、全ての日本人が、ここの桜の虜になる。
場所は、「九段下駅」から徒歩5分の場所。出口の階段を上りきったとき、そこにはもう満開の桜がありました。
ここにはいったい何本の桜が植えられているのだろう。見当もつかないくらい膨大です。毎年この季節、いつも人で大賑わい。
調べてみたら260本。もしかしたら「あれ? なんだそんなもんか……」と思われたかもしれません。しかしこの景色が持つ”圧力”が絶え間なく視覚に入ってくる。写真を撮りながら感じました。この圧力を感じるという体験は、まさに「ここ」に来なければ体感できないなと。
ほんの少しだけ、私自身の話をさせてください。
私は青森県で生まれ、そこから高校卒業まで18年間、その地で育ちました。車で行ける範囲の場所に、桜の名所として有名な弘前城公園がありました。桜といえば、私は弘前城こそが、日本一の桜の名所だと思っていました。この、千鳥ヶ淵を訪れるまでは。
上京して初めて見た千鳥ヶ淵の桜は「圧倒的」というほかありませんでした。なぜか。「桜の終わり」が見えないのです。この桜は、いったいどこまで続くのか? そういうイマジネーションが、延々とかきたてられてしまいます。
今、自分の目で見ている景色と、自分のイマジネーションを同時に見てしまっている。どんな桜もそうだと思うのですが、桜の花をみているその瞬間だけは「うわぁ~」と言葉を失い、現世とは別な世界にトリップしてしまいます。しかし歩みを進めていくと、視覚に現世的なものが入り込み、いつもの世界に引き戻されます。
そんなものだと思っていたのが、「桜の終わり」が見えない千鳥ヶ淵では、ずっとそのような浮世離れした世界が続くのです。
そして旧・江戸城の、深くて広い濠との組み合わせ。これがまた日本人の情緒をくすぐる。
水の張った濠に向かって桜の花々がなだれ込むように咲いている。そして視線を向こうの方にやってみると、延々と続いている。どこが終わりなのか分からないくらい、目の前が一面桜で覆われる。
目の前がすべて、桜の薄ピンク色になる景色。
一度でいいから体験してくださいませ。
千鳥ヶ淵
住所: 東京都千代田区九段南1丁目6−1
(九段下駅からの目印として「昭和館」の住所を記載)
地下鉄「九段下駅」2番出口から、徒歩約5分
地下鉄「半蔵門駅」5番出口から、徒歩約5分
千代田区観光協会HP: http://www.kanko-chiyoda.jp/tabid/1116/Default.aspx